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平成15年第二審第33号
件名

油送船裕鷹丸漁船伸宝丸衝突事件[原審:横浜]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月30日

審判庁区分
高等海難審判庁(雲林院信行、平田照彦、吉澤和彦、井上 卓、坂爪 靖)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:裕鷹丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:伸宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

第二審請求者
理事官 織戸孝治

損害
裕鷹丸・・・左舷中央部外板に凹損、同部ハンドレールに曲損
伸宝丸・・・船首部を圧壊、船長が8日間の入院を要する頭部外傷及び顔面挫創の負傷

原因
伸宝丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
裕鷹丸・・・停泊当直員を配置しなかったこと、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、伸宝丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の裕鷹丸を避けなかったことによって発生したが、裕鷹丸が、停泊当直員を配置せず、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年12月18日06時20分
 愛知県三河港
 (北緯34度45.1分 東経137度12.1分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船裕鷹丸 漁船伸宝丸
総トン数 699トン 5.0トン
全長 70.95メートル
登録長   11.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数   90
(2)設備及び性能等
ア 裕鷹丸
 裕鷹丸は、平成6年3月に新造された限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型の油タンカーで、主として、水島港を積地とし、西日本の各港にガソリンや軽油等のばら積貨物輸送に従事していたところ、本件時、名古屋港から愛知県三河港に向けて、ばら積液体危険物を輸送することとなった。
 同船の船橋には、エアーホーンが2台装備され、また、停泊中の灯火設備として、船首マスト上部に停泊灯、同マストの中ほどに船首楼を照射する作業灯が、後部マスト上部に紅色全周灯が、船橋前壁に甲板上を照射する作業灯が、船尾灯の上部に停泊灯が、船橋楼周囲外壁に照明灯が、それぞれ設置されていた。
イ 伸宝丸
 伸宝丸は、昭和60年11月に進水したFRP製の漁船で、船首端から約8メートル後方に操舵室が在り、当時の喫水から眼高は約2メートルで、同室内で差し板に腰を掛けて操舵しても前方に死角を生じる構造物はなく、見通しは良好であった。
 また、同船は、直進時に舵輪から手を放すと、舵輪は回転しないが、左方に回頭しながら走行する特性があった。

3 事実の経過
 裕鷹丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、ガソリン1,700キロリットル軽油300キロリットルを積載し、船首3.7メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成13年12月17日19時10分名古屋港を発し、三河港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らと、一等航海士及び甲板員の3人による単独4時間3直制とし、機関当直においては、機関長と一等機関士がそれぞれ4時間入直して2時間を無人運転とする体制をとっていた。
 22時30分A受審人は、翌朝三河港浜町埠頭の全農燃料ターミナル桟橋に着桟する予定で、蒲郡検疫錨地内の、橋田鼻灯台から118度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点に、右舷錨4節を延出して錨泊した。
 A受審人は、錨泊後、前後の停泊灯、紅色全周灯、船首楼を照射する作業灯、船橋前壁から甲板上を照射する作業灯及び船橋楼周囲外壁の照明灯をそれぞれ点灯したが、検疫錨地に錨泊していることでもあり、また、乗組員の労務管理上全員を休息させようと、ばら積液体危険物を積載していたものの、船員法の規定に基づき定められた航海当直基準III停泊中の当直基準(平成8年12月24日運輸省告示第704号)を遵守せず、停泊当直員を配置しなかった。
 A受審人は、翌18日06時15分少し過ぎ右舷船首25度1.1海里のところを無難に左方へ航過する態勢にあった伸宝丸が、その後、左方に回頭しながら衝突のおそれがある態勢で自船に接近する状況になったが、停泊当直員を配置していなかったので、伸宝丸に対し、注意喚起信号を行うことができなかった。
 06時20分裕鷹丸は、前示地点で315度に向首して錨泊中、伸宝丸の船首が、裕鷹丸の左舷中央部に、前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、日出時刻は06時53分であった。
 また、伸宝丸は、B受審人が1人で乗り組み、同月17日14時ごろから2時間半かけて仕掛けたあなごかご漁のかご400個を夜間になって引き揚げに出向き、翌18日01時ごろ三谷漁港に着け、引き続き漁獲物を選別しながら市場で競りが始まるのを待ってあなごを水揚げし、06時00分ごろ空船の状態で、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって同漁港を発し、渥美湾篠島の篠島港に向かった。
 B受審人は、前部マスト灯、両舷灯及び船尾灯を点灯し、前日昼過ぎからの連続した長時間の作業等による疲れで、出航時から眠気を感じながら操舵室内で差し板に腰を掛けて手動操舵で操船し、06時08分少し前三河港形原東防波堤南灯台から058度1.2海里の地点に至って、針路を209度に定め、機関を回転数毎分1,900とし、16.5ノットの対地速力で進行した。
 06時13分少し前B受審人は、三河港形原東防波堤南灯台から145度1,250メートルの地点に至ったとき、レーダーで左舷船首32度1.6海里に裕鷹丸の映像を初めて認め、薄明時の中で同船の灯火や船体を肉眼で視認した。
 06時15分少し過ぎB受審人は、裕鷹丸を左舷船首49度1.1海里に認めたものの、自船の進路から離れているので安心し、また、航行に支障をきたす船も付近にいなかったことから気が緩み、眠気を感じながらも、まさか眠り込んでしまうことはないと思い、立ち上がって操船するなど、居眠り運航の防止措置をとらないで、差し板に腰を掛けたまま下を向いて目をつぶった状態でいるうち、いつしか居眠りに陥った。
 B受審人は、その後、舵輪から手が放れ、伸宝丸が左方に回頭しながら衝突のおそれがある態勢で裕鷹丸に接近したが、このことに気付かず、同船を避けずに進行し、伸宝丸は、船首が065度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、裕鷹丸は、左舷中央部外板に凹損、同部ハンドレールに曲損を生じ、伸宝丸は、船首部を圧壊したが、その後、それぞれ修理され、B受審人が8日間の入院を要する頭部外傷及び顔面挫創を負った。

(本件発生に至る事由)
1 裕鷹丸
(1)A受審人が、船員法の規定に基づき定められた航海当直基準III停泊中の当直基準を遵守せず、停泊当直員を配置しなかったこと
(2)裕鷹丸が、衝突のおそれがある態勢で接近する伸宝丸に対して、注意喚起信号を行わなかったこと
2 伸宝丸
(1)B受審人が、前日からの連続した長時間の作業等により疲れていたこと
(2)B受審人が、出航時から眠気を感じていたものの、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(3)B受審人が居眠りに陥ったこと
(4)伸宝丸が、その走行特性から、左方に回頭しながら進行したこと
(5)B受審人が、裕鷹丸を避けなかったこと
 
(原因の考察)
 本件衝突は、伸宝丸の船長が、航行中、居眠りに陥り、錨泊中の裕鷹丸を避けないで進行したことによって発生したものである。一方、裕鷹丸の船長が、航海当直基準III停泊中の当直基準を遵守しないで停泊当直員を配置せず、注意喚起信号を行わなかったことも衝突の原因となる。
 したがって、B受審人が、出航時から眠気を感じていたものの、居眠り運航の防止措置をとらなかったこと、B受審人が居眠りに陥ったこと及びB受審人が裕鷹丸を避けなかったこと並びにA受審人が、船員法の規定に基づき定められた航海当直基準III停泊中の当直基準を遵守せず、停泊当直員を配置しなかったこと及び裕鷹丸が、衝突のおそれがある態勢で接近する伸宝丸に対して、注意喚起信号を行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B受審人が、前日からの連続した長時間の作業等により疲れていたこと及び伸宝丸が、その走行特性から、左方に回頭しながら進行したことは、いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(主張に対する判断)
 A受審人は、停泊当直員を配置しなかったことの理由として、裕鷹丸はガソリンと軽油をばら積輸送する油タンカーであるが、検疫錨地に錨泊したのであり、荷役中は最低でも3人は常時甲板にいるようにしているので、錨泊中は、乗組員の労務管理上全員を休息させていた旨を主張する。
 検疫錨地とは、「船舶の長が検疫を受けようとするとき、当該船舶を検疫区域に入れなければならない。」とする、検疫法第8条の規定により取り決められた海上の一区域をいうのであって、これによって停泊当直が免除されるものではない。
 次に、「航海当直基準III停泊中の当直基準」においては、「1 船長(2に規定する船長を除く。)は、船舶が港内において通常の状況下に安全に係留し、又はびょう泊している場合にあっても、緊急事態の発生等船舶の安全を確保する必要が生じた際に適切かつ有効な当直体制がとれるよう措置すること。」とあり、また、「2 危険物船舶運送及び貯蔵規則(昭和32年運輸省令第30号)第2条第1号に掲げる危険物又は同条第1号の2に掲げるばら積み液体危険物(その船舶において使用されるものを除く。)を運送している船舶の船長は、甲板部及び機関部における適切な当直を維持すること。」と規定されている。
 本件の場合、A受審人が、航海当直基準III停泊中の当直基準を遵守して停泊当直員を配置し、伸宝丸の動静監視を十分に行っていたら、当然、同船が自船に対し衝突のおそれがある態勢で接近してくることを予見することができ、同船に対して注意喚起信号を行うことにより、衝突のおそれを伸宝丸に気付かしめ、同船の避航措置による衝突の回避が十分に可能であったものと考えられる。

(海難の原因)
 本件衝突は、薄明時、愛知県三河港において、出航する伸宝丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の裕鷹丸を避けなかったことによって発生したが、ばら積液体危険物を積載している裕鷹丸が、停泊当直員を配置せず、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、薄明時、愛知県三河港を出航する際、前日からの連続した長時間の作業等により疲れて眠気を感じた場合、立ち上がって操船するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、まさか眠り込んでしまうことはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、錨泊中の裕鷹丸を避けないで進行して衝突を招き、同船の左舷中央部外板に凹損、同部ハンドレールに曲損を生じ、伸宝丸の船首部を圧壊し、自らも8日間の入院を要する頭部外傷及び顔面挫創を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、愛知県三河港において、ばら積液体危険物を積載して錨泊する場合、自船に衝突のおそれがある態勢で接近する伸宝丸を早期に認めて注意喚起信号を行えるよう、停泊当直員を配置すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、乗組員の労務管理上全員を休息させようと、停泊当直員を配置しなかった職務上の過失により、伸宝丸に対して注意喚起信号を行わず、前示のとおり衝突を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。
 
(参考)原審裁決主文 平成15年7月18日横審言渡
 本件衝突は、伸宝丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の裕鷹丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。


参考図
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