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平成15年第二審第48号
件名

旅客船フラワーライン岸壁衝突事件[原審・横浜]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月30日

審判庁区分
高等海難審判庁(平田照彦、雲林院信行、吉澤和彦、坂爪 靖、保田 稔)

理事官
工藤民雄

受審人
A 職名:工藤民雄 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:フラワーライン機関長 海技免許:二級海技士(機関)
指定海難関係人
C 職名:D社運航管理者

第二審請求者
理事官 中谷啓二

損害
フラワーライン・・・バルバスバウに凹損
発着所岸壁・・・一部が破損

原因
操舵室と機関制御室間の連絡方法の確立が不十分であったこと、機関制御室における主機運転状態の監視不十分、運航管理者が操舵室と機関制御室間の連絡方法を十分に確立しなかったこと

主文

 本件岸壁衝突は、操舵室と機関制御室間の連絡方法の確立が不十分であったばかりか、機関制御室における主機の運転状態の監視が不十分で、主機の操縦位置が操舵室から機側に切り換えられ、操舵室での主機の制御が不能となり、前進行きあしを止められないまま進行したことによって発生したものである。
 運航管理者が、操舵室と機関制御室間の連絡方法を十分に確立しなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Bの二級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月22日12時32分
 愛知県伊良湖港
 (北緯34度35.0分 東経137度01.2分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船フラワーライン
総トン数 971トン
全長 60.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
(2)設備及び性能等
ア 船体及び設備
 フラワーラインは、平成6年2月に竣工した船首船橋型の旅客船兼自動車航走船で、バウスラスターを装備し、愛知県師崎港と同県伊良湖港間の定期航路に就航していた。
 船体は、三層甲板から構成され、上層の航海船橋甲板前端に操舵室、同室後方に客用オープンスペースが、中層の遊歩甲板船首側にウインドラスなどを備えたムアリングスペース、その後方に客室及び客用オープンスペース、同オープンスペースから一段下がって上甲板上高さ約2.3メートルのところに船尾ムアリング甲板が、下層の上甲板には全通の車両甲板がそれぞれ配置されていた。また、車両甲板の船首尾にランプゲートが設けられていた。
 操舵室には、同室前面中央にマグネットコンパス、その50センチメートル後方にジャイロ組込型操舵スタンド、同スタンドの右舷側に操縦盤、同左舷側にレーダー2台が設けられ、操縦盤上には主機遠隔操縦装置のほか、GPSプロッター、スラスター操作スイッチなどが備えられていた。
 また、機関室は船体中央部に配置され、自社船で初めて設けられた機関制御室は機関室前部左舷側にあり、同制御室前面右舷寄りに主機遠隔操縦装置の監視盤、その左舷側に各種配電盤及び集合始動器盤が設けられ、機関制御室後壁の右舷側上方に船内放送用スピーカーが備えられていた。
イ 操縦性能
 機関の毎分回転数と速力との関係は、検査調書添付の速力基準表についての写真によれば、前進のとき、最大速力が750回転で17.0ノット、全速力が695回転で16.5ノット、半速力が595回転で14.5ノット、微速力が470回転で12.0ノット及び極微速力が430回転で10.5ノットであった。
 また、海上試運転成績書によれば、両軸運転により初速17.2ノットで舵角35度をとって左旋回したとき、90度回頭するまでの旋回縦距、旋回横距及び所要時間は152メートル、68メートル及び26秒、同右旋回したとき、90度回頭するまでの旋回縦距、旋回横距及び所要時間は132メートル、51メートル及び24秒であった。17.2ノットの前進速力で航走中、全速力後進発令から船体停止までに要する時間及び航走距離は、1分27秒及び467メートルで、初速16.4ノットのとき、機関停止発令から速力が2.0ノットに達するまでに要する時間及び航走距離は、4分33秒及び762メートルであった。
ウ 主機及び制御系統
 主機は、E社が平成5年9月に製造した、6MG26HLX型と称する連続最大回転数毎分750の単動4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を2機2軸で装備していた。そして、機関の操作は、機関制御室外壁に設けられたテレグラフ受信器の操縦位置切換えスイッチで操縦位置を選択することにより、操舵室、機関制御室及び機側のいずれからも主機を制御することができるようになっていた。
 主機の制御は、通常、出港準備時に機側で始動したのち、操縦位置切換えスイッチで操縦位置を操舵室へ移し、エンジンテレグラフを兼ねる遠隔操縦レバーにより行われていた。同位置を機側から操舵室へ移すと、同室内でブザーが鳴るとともに操縦位置を示す表示灯が点滅するので、確認ボタンを押してこれらを止めるようになっていたが、操舵室から機側へ移ったときにブザーが鳴るような装置は設けられていなかった。
 操舵室の操縦盤及び機関制御室の監視盤上には、主機及びエンジンテレグラフの前進(緑灯)、中立(白灯)及び後進(赤灯)の各位置を示す表示灯、主機の操縦位置を示す操舵室(白灯)、機関制御室(白灯)及び機側(白灯)の各表示灯、主機回転計、主機非常停止ボタンなどが設けられていた。また、各エンジンテレグラフには、中立を中央にして、前進側と後進側を示す位置表示はあったが、機関終了を示す位置表示が設けられていなかった。
(3)機関の使用状況
 フラワーラインは、09時00分師崎港発を始発第1便として、18時10分同港着を最終便とする第10便まで、師崎港、伊良湖港両港間を片道約35分で1日5往復する運航に従事していたところ、11時55分師崎港発の第5便が12時30分伊良湖港に着岸後13時50分同港発までの間及び最終便が師崎港に着岸後翌朝の始発便までの間がそれぞれ昼休み及び待機に相当して停泊時間が長くなることから、燃料節約のため操縦位置を操舵室から機側に切り換えたのち、機関を停止してその使用を終了する作業(以下「機関停止作業」という。)が行われていた。
 ところで、フラワーラインでは、機関終了時の操舵室と機関制御室間の連絡については、就航以来、船内電話(以下「電話」という。)などによるその方法が確立しておらず、機関制御室にいる機関長が、着岸後船長の旅客に対してマイクで行う、「入港したので、船内に忘れ物のないよう下船願います。」旨の船内放送を聞いて、機関停止作業を行っていた。
(4)伊良湖港
 伊良湖港は、渥美半島西端の伊良湖岬北東方に位置し、陸岸から北西方へ約250メートル延びる防砂堤があり、その先端に伊良湖港防砂堤灯台(以下「防砂堤灯台」という。)が設けられていた。
 また、その西側には、防砂堤灯台から221度(真方位、以下同じ。)390メートルの地点を基点とし、北東方へ約380メートル延び、次いで、北西方へ約100メートル、北東方へ約90メートルそれぞれ延びる防波堤があって、その先端に伊良湖港防波堤灯台が設けられていた。防波堤と防砂堤間の幅80メートルの港口は、北北東方へ向いて開いていて、港内の南側にD社発着所岸壁(以下「発着所岸壁」という。)、発着所岸壁東端からほぼ直角に突出した桟橋(以下「専用桟橋」という。)及び発着所岸壁の西北西方に伊勢湾フェリー発着所岸壁などが築造され、また、港内の東側には、物揚場及び魚市場岸壁などがあった。

3 事実の経過
 フラワーラインは、A受審人及びB受審人ほか4人が乗り組み、旅客5人及び売店販売員1人を乗せ、車両を積載しないまま、船首2.20メートル船尾2.95メートルの喫水をもって、平成15年1月22日11時58分定刻より3分遅れて師崎港を第5便として発し、伊良湖港に向かった。
 ところで、A受審人は、1週間前フラワーラインに乗船して運航に従事していたもので、同船の機関停止作業は、機関長が船長の入港案内の船内放送によって行っていることを知っていたが、これまで何事もなかったので、大丈夫と思い、機関終了時の操舵室と機関制御室間の連絡について、自ら電話などによる確実な方法で行うとか、C指定海難関係人にその旨の提言を行うなど、両室間の連絡方法を十分に確立しないで、B受審人に任せていた。
 また、B受審人は、これまで機関終了時、A受審人を含む各船長から機関制御室に電話でその旨の連絡などはなかったが、操舵室と機関制御室間の連絡方法について、船長やC指定海難関係人に提言することなく、前示方法で機関停止作業を行っていた。
 一方、C指定海難関係人は、フラワーライン新造時の機関部担当の艤装監督で、エンジンテレグラフに機関終了を示す位置表示が設けられていなかったことを知っていたが、D社に入社前は外航貨物船に機関士として乗船していたことから、機関を終了するときには船長が機関制御室にその旨を電話で連絡しているものと思い、機関長が船長の入港案内の船内放送で機関終了時機を判断していたことに気付かず、操舵室と機関制御室間の連絡方法を十分に確立していなかった。
 A受審人は、発航操船にあたり、師崎港南防波堤を通過したのち、機関を徐々に増速して同港東方沖合に至り、12時03分師崎港南防波堤灯台から122度490メートルの地点で、機関を全速力前進にかけて15.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、在橋したまま船橋当直を当直航海士に任せて師崎水道を南下した。
 フラワーラインでは、入航配置の発令状況については、A受審人が乗組員に対し、同配置の指示を船内放送などで直接行わず、録音テープによる旅客に対する入港案内の船内放送のあと、機関が極微速力に減速されると、それを合図として乗組員各自が自発的に入航配置に就いていた。
 12時25分半ごろA受審人は、中山水道第3号灯浮標を替わったところで、録音テープによる入港案内の船内放送を行い、間もなく伊良湖港域内に入った。
 12時28分A受審人は、防砂堤灯台から344度530メートルの地点に達したとき、操船の指揮を執り、当直航海士を手動操舵に就けて針路を160度に定め、機関を減速して11.5ノットの速力で、伊良湖港防波堤灯台を右舷船首方に見ながら進行し、12時29分同灯台を右舷側50メートルに通過した。
 12時29分わずか過ぎA受審人は、防砂堤灯台から354度145メートルの地点で、針路を防波堤と防砂堤との中間に向く194度に転じ、機関を極微速力の7.5ノットの速力としたころ、航海士各1人が左右両舷船首部に、機関員1人が右舷船尾部に、機関長が機関制御室にそれぞれ入航配置に就いた状態で、投錨準備を令しないまま続航し、12時30分少し前機関を中立として惰力で進行した。
 12時30分少し過ぎA受審人は、防砂堤灯台から237度70メートルの地点に達し、船尾が防砂堤灯台を替わったとき、いつものとおり、専用桟橋に左舷付け係留し、船首ランプウェイを発着所岸壁に降ろすつもりで、針路を同岸壁に向く180度に転じ、その直後、高速船乗船時には旅客に対する入港案内の船内放送を着岸前に行っていたこともあって、旅客に対し、マイクで入港案内の船内放送を行った。
 B受審人は、船長の入港案内の船内放送を聞いたとき、前進行きあしを止めるための機関後進操作が行われていないことや入港予定時刻などから、いつもと様子が違っていて、まだ着岸していないことを知り得る状況にあったが、監視盤後方で左舷方を向いていすに腰掛け、部品注文書を作成することに気をとられ、主機の運転状態の監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 B受審人は、船内放送の内容をよく確認しないまま、いすから立ち上がって監視盤を見たところ、両舷主機とも中立の表示灯が点いていたので、機関の使用が終了となったものと思い、機関制御室から出てテレグラフ受信器の操縦位置切換えスイッチで操縦位置を操舵室から機側に移したのち、機関停止作業にかかった。
 12時30分半ごろA受審人は、船内放送を終えたとき、操縦位置が操舵室から機側に切り換わっていることに気付き、直ちに電話で機関制御室を呼び出したものの、すでにB受審人が同室を出て機関停止作業にかかっていて、連絡がとれなかった。
 B受審人は、左舷主機の停止を終え、右舷主機も停止しようとしたところ、操舵室から機関制御室へ電話が入っていることを知らせる頭上の緑色回転灯を見て、急いで機関制御室に戻り、A受審人から主機を始動するよう電話で指示を受け、左舷主機の再始動にかかった。
 A受審人は、B受審人に直ちに操縦位置を機側から操舵室に切り換えるよう指示したつもりだったが、慌てていたこともあって、同人に状況が的確に伝わらず、操縦位置が操舵室に切り換えられないでいるうち、12時31分少し過ぎ船首が右舷側の伊勢湾フェリー発着所岸壁に並び、発着所岸壁の115メートル手前に至ったが、依然機関が使用できず、発着所岸壁に近づくので旅客に座るよう船内放送を行った。
 フラワーラインは、操舵室での主機の制御が不能となり、前進行きあしを止められないまま、バウスラスターを右一杯として惰力で続航中、12時32分防砂堤灯台から189度370メートルの地点において、船首が190度を向いたとき、その左舷船首が約4ノットの前進行きあしで発着所岸壁に衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 衝突の結果、フラワーラインは、バルバスバウに凹損を生じ、発着所岸壁の一部が破損したが、のちいずれも修理された。
 C指定海難関係人は、本件後、社内で事故原因を調査のうえ、事故対策を協議し、再発防止策を作成して運輸局に提出したほか、船長らと協議し、機関終了時には船長から機関制御室に電話で連絡するなどの入港(着岸後)時の心得を作成し、これらを乗組員に周知徹底するなど、安全運航を確保するための措置を講じた。

(本件発生に至る事由)
1 主機の操縦位置を操舵室から機側に切り換えたときの警報装置がなかったこと
2 エンジンテレグラフに機関終了を示す位置表示がなかったこと
3 A受審人が機関終了時の操舵室と機関制御室間の連絡について、自ら電話などによる確実な方法で行うとか、運航管理者にその旨の提言を行うなど、両室間の連絡方法を十分に確立しなかったこと
4 B受審人が操舵室と機関制御室間の連絡方法について、船長や運航管理者に提言しなかったこと
5 C指定海難関係人が操舵室と機関制御室間の連絡方法を十分に確立しなかったこと
6 着岸後の船内放送が機関停止作業の合図となっていたこと
7 A受審人が投錨準備を行っていなかったこと
8 B受審人が機関制御室で機関当直中、主機の運転状態の監視が十分でなかったこと
9 緊急時における操舵室の船長と機関 制御室の機関長との意思の疎通が十分でなかったこと

(原因の考察)
 フラワーラインでは、就航以来、機関長が、着岸後船長の入港案内の船内放送を聞いて機関停止作業を行っていたが、操舵室と機関制御室間の連絡方法が確立されていたなら、機関長が着岸前に同作業にかかることを防止できたから、本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって、A受審人が機関終了時の操舵室と機関制御室間の連絡について、自ら電話などによる確実な方法で行うとか、運航管理者にその旨の提言を行うなど、両室間の連絡方法を十分に確立しなかったこと、B受審人が操舵室と機関制御室間の連絡方法について、船長や運航管理者に提言しなかったこと及びC指定海難関係人が操舵室と機関制御室間の連絡方法を十分に確立しなかったことは、本件発生の原因となる。
 また、機関長が、機関制御室で主機の運転状態の監視を十分に行っていたなら、まだ着岸前で機関の使用が終了していないことを知ることができたので、本件の発生は防止できたものと認められる。
 したがって、B受審人が機関制御室で機関当直中、主機の運転状態の監視が十分でなかったことは、本件発生の原因となる。
 主機の操縦位置を操舵室から機側に切り換えたときの警報装置がなかったこと、エンジンテレグラフに機関終了を示す位置表示がなかったこと、着岸後の船内放送が機関停止作業の合図となっていたこと、A受審人が投錨準備を行っていなかったこと及び緊急時における操舵室の船長と機関制御室の機関長との意思の疎通が十分でなかったことは、いずれも本件発生に至る過程において関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件岸壁衝突は、愛知県伊良湖港において、入航時、操舵室と機関制御室間の連絡方法の確立が不十分であったばかりか、機関制御室における主機の運転状態の監視が不十分で、主機の操縦位置が操舵室から機側に切り換えられ、操舵室での主機の制御が不能となり、前進行きあしを止められないまま進行したことによって発生したものである。
 操舵室と機関制御室間の連絡方法の確立が不十分であったのは、船長が、機関終了時の操舵室と機関制御室間の連絡について、自ら電話などによる確実な方法で行うとか、運航管理者にその旨の提言を行うなど、両室間の連絡方法を十分に確立しなかったことと、機関長が、両室間の連絡方法について、船長や運航管理者に提言しなかったこととによるものである。
 運航管理者が、操舵室と機関制御室間の連絡方法を十分に確立しなかったことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
1 懲 戒
 B受審人は、愛知県伊良湖港において、発着所岸壁に接近中、機関制御室で1人で入航配置に就いて機関当直にあたる場合、着岸するまで操舵室での主機の操作が適切に行えるよう、主機の運転状態を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、監視盤後方で左舷方を向いていすに腰掛け、部品注文書を作成することに気をとられ、主機の運転状態を十分に監視しなかった職務上の過失により、A受審人が行った着岸前の入港案内の船内放送を聞いて、その内容をよく確認しないまま、主機の操縦位置を操舵室から機側に切り換えて機関停止作業を行い、操舵室での主機の操作が不能となって発着所岸壁との衝突を招き、フラワーラインのバルバスバウに凹損を生じさせたほか、発着所岸壁の一部を破損させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、フラワーラインに乗り組み、入航操船にあたる場合、機関停止作業が着岸完了後に行われるよう、機関終了時の操舵室と機関制御室間の連絡について、自ら電話などによる確実な方法で行うとか、運航管理者にその旨の提言を行うなど、両室間の連絡方法を十分に確立すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、これまで何事もなかったので、大丈夫と思い、操舵室と機関制御室間の連絡方法を十分に確立しなかった職務上の過失により、着岸前に入港案内の船内放送を行ったとき、これがいつもの着岸後の船内放送と間違えられ、主機の操縦位置が操舵室から機側に切り換えられて機関停止作業が行われ、主機の操作ができなくなって発着所岸壁との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
2 勧 告
 C指定海難関係人が、D社の運航管理者として、フラワーラインの運航管理にあたり、操舵室と機関制御室間の連絡方法を十分に確立しなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、本件後、社内で事故原因を調査のうえ、事故対策を協議して再発防止策を作成し、これを乗組員に周知徹底するなど、安全運航を確保するための措置を講じた点に徴し、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。
 
(参考)原審裁決主文 平成15年12月10日横審言渡
 本件岸壁衝突は、着岸時、機関制御室における機関使用状態の監視が不十分で、操舵室での遠隔操縦装置による主機の制御が不能となり、行きあしが減殺されなかったことによって発生したものである。
 運航管理者が、操舵室、機関制御室間の機関終了の時期における連絡方法についての指導が十分でなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Bの二級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。


参考図
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