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平成13年第二審第1号
件名

漁船金栄丸漁船蛭子丸衝突事件[原審・神戸]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月2日

審判庁区分
高等海難審判庁(上野延之、雲林院信行、上中拓治、井上 卓、坂爪 靖)

理事官
東 晴二

受審人
A 職名:蛭子丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

第二審請求者
受審人A

損害
金栄丸・・・船首下部に破口を生じて船首倉に浸水
蛭子丸・・・右舷後部ブルワーク及び外板が破損

原因
蛭子丸・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
金栄丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、蛭子丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る金栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年9月23日17時20分
 兵庫県地ノ唐荷島東方沖合
 (北緯34度45.1分 東経134度30.7分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船金栄丸 漁船蛭子丸
総トン数 4.97トン 4.96トン
全長 15.30メートル  
登録長   9.48メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 15
(2)設備及び性能等
ア 金栄丸
 金栄丸は、昭和57年7月にC造船所で進水したFRP製小型底びき網漁船で、船体中央部に機関室及びその後方に操舵室を、船首部及び操舵室後方に各々木製マストを有する構造で、操舵室上部にモーターホーンが備えられ、機関室及び操舵室部分を含む船体中央部の上部にオーニングが設置されており、操舵室前面が3枚の窓ガラスからなり、中央の窓にクリアビュースクリーンが備えてあり、操舵室内に磁気羅針盤、無線機、魚群探知機及びGPSプロッターがそれぞれ装備されていた。
 また、操舵室のほか、操舵室後方で立って操舵できるように、操舵室の屋根に機関遠隔操縦装置を備え、操舵室右舷後方及び漁獲物の選別を行う右舷後部甲板にそれぞれ遠隔操縦装置が取り付けられていた。
イ 蛭子丸
 蛭子丸は、昭和47年12月にD造船所で進水した木製底びき網漁船で、船体中央部に機関室囲壁及び操舵室を有し、この操舵室内に機関始動スイッチ、機関遠隔操縦装置及び漁業無線用の無線機を備え、船尾側に舵柱が出ており、舵柄で操舵するようになっていた。
 さらに、機関の毎分回転数と速力の関係は、3,000回転で10.0ノット、2,500回転で8.0ノット、2,200回転で5.0ないし6.0ノットであった。通常2,500回転で航走し、操業のとき2,400から2,500回転で、網を洗うときには2,200回転にしていた。2,200回転で最短停止距離及び旋回径は、それぞれ10ないし15メートルであった。
3 御津町付近の漁業状況
 御津町付近の漁師は、4月1日から11月20日まで、そろばんこぎ網漁と呼ばれる、網の開口前部がそろばん玉に似た鉄製の円盤を多数付けた網で、その前部を海底に滑らせ、魚類を袖網へ追い込んで獲る漁法並びに11月21日から翌年3月31日までは海水温度が下降する冬眠期及び産卵期に魚やかになどが海底の地下に潜るので、まんが漁と呼ばれる、短い鉄の爪がたくさん付いた桁枠を網の開口部に付けて引く漁法でそれぞれ魚類を獲り年間を通して操業していた。
 また、御津町付近の組合の申し合わせで小型底びき網漁船は、出港時間を04時10分から、帰港時間を18時00分までとする操業時間を定めていた。
4 事実の経過
 金栄丸は、B船長が一人で乗り組み、船首0.15メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成10年9月23日04時45分兵庫県室津漁港を発して鞍掛島北方2海里付近の漁場に至り、操業して100キログラムを漁獲し、16時32分わずか過ぎ鞍掛島灯台から027度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点を発進して帰途に就いた。
 発進したとき、B船長は、針路を294度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、袋網を船尾から海中に延出してこれを洗いながら手動操舵により進行した。
 16時37分わずか過ぎB船長は、鞍掛島灯台から000度1.2海里の地点に達し、袋網を洗い終わって船上に取り込んだとき、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットに増速し、その後右舷後部甲板上で船首方に向かっていすに座り、漁獲物の選別やいかの墨抜きを始め、同甲板に備えた遠隔操縦装置で操船しながら続航した。
 17時15分B船長は、岩見港東防波堤灯台(以下「岩見灯台」という。)から181.5度2.1海里の地点に達したとき、左舷船首35度1,580メートルのところに前路を右方に横切る蛭子丸を初めて視認したが、衝突のおそれがあるとしても自船が保持船なので蛭子丸が避けるものと思い、その後方位変化を確かめるなどしてその動静監視を十分に行わないまま漁獲物の選別やいかの墨抜きに専念していたところ、蛭子丸が衝突のおそれのある態勢で接近したが、警告信号を行うことも、さらに間近に接近しても、衝突を避けるための協力動作をとることもしないで進行中、17時20分わずか前蛭子丸を至近に認め、機関を全速力後進にかけたが及ばず、17時20分岩見灯台から204度1.9海里の地点において、金栄丸は、原針路のまま、速力が約6.0ノットになったとき、その船首が蛭子丸の右舷後部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風がなく、視界は良好であった。
 また、蛭子丸は、A受審人が一人で乗り組み、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日07時30分兵庫県岩見漁港を発して沖ノ唐荷島南方2海里付近の漁場に至り、操業して12キログラムを漁獲し、17時04分少し過ぎ岩見灯台から199.5度3.5海里の地点を発進して帰途に就いた。
 発進したとき、A受審人は、岩見灯台から290度560メートルに所在するE山荘と称する白色の建物(以下「山荘」という。)を船首目標としてそれに向け、針路を014度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの速力で、網を洗うためこれに付した引き索を船尾から約9メートル延出し、四方を見て他の船影を認めなかったことから、他船はいないものと思い、漁獲物の選別をしながら進行した。
 17時15分A受審人は、岩見灯台から202度2.4海里の地点に達し、漁獲物の選別を終えたとき、右舷船首65度1,580メートルのところに金栄丸を視認し得る状況にあったが、船首目標の山荘を見ることに気をとられ、右舷方の見張りを十分に行うことなく、金栄丸に気付かないまま、操舵室後方の甲板上に立って舵柄を足で操作しながら続航した。
 その後、A受審人は、金栄丸の方位がほとんど変わらず、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然見張り不十分で、このことに気付かず、その進路を避けないまま進行し、17時20分わずか前初めて金栄丸を至近に認めたがどうすることもできず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、金栄丸は船首下部に破口を生じて船首倉に浸水し、蛭子丸は右舷後部ブルワーク及び外板が破損したが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 A受審人は、金栄丸が追い越す態勢で蛭子丸に接近し、金栄丸の船首が、蛭子丸の右舷後部に後方から40度の角度で衝突したとして海上衝突予防法第13条の追い越し船の航法が適用されると述べているが、事実認定の根拠による金栄丸及び蛭子丸の運航模様から、そのようにはならない。また、同受審人の質問長所中、「衝突何分か前に後方を見たが、何も船が見えなかった。」旨の供述記載からも金栄丸が後方から接近したのではないと考える方が自然であるので、追越し船の航法を適用することはできない。よって、同法第15条により律することとなる。

(本件発生に至る事由)
1 金栄丸
(1)B船長が、漁獲物の選別やいかの墨抜きに専念していたこと
(2)B船長が、動静監視を十分に行わなかったこと
(3)B船長が警告信号を行わなかったこと
(4)B船長が衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 蛭子丸
(1)A受審人が、漁獲物の選別に専念していたこと
(2)A受審人が、船首目標の山荘を見ることに気をとられていたこと
(3)A受審人が、右舷方の見張りを十分に行わなかったこと
(4)A受審人が、金栄丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 蛭子丸は、事実認定のとおり、岩見漁港に向かって北上中であり、一方金栄丸は、室津漁港に向かって西行中であった。
 海上衝突予防法第15条により、蛭子丸は避航船の立場にあったから、減速するなどして金栄丸の針路を避けなければならなかった。蛭子丸が、見張りを十分に行っていれば、右舷船首に前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する金栄丸を早期に認めることができ、同船の動静を把握した上、余裕を持ってこれを避けることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 一方、金栄丸は保持船の立場であるから、蛭子丸に対して警告信号を行い、さらに間近に接近して避航船の動作のみでは衝突を避けることができないと認めたときは、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。金栄丸が蛭子丸の動静監視を十分に行っていれば、蛭子丸が左舷船首に前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近することを認め、警告信号を行うことができ、さらに間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、金栄丸の船長が、漁獲物の選別やいかの墨抜きに専念したこと、蛭子丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと、警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは本件発生の原因となる
 また、A受審人が、船首目標の山荘を見ることに気をとられていたこと、右舷方の見張りを十分に行わなかったこと及び金栄丸の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 A受審人が、漁獲物の選別に専念していたことは、本件発生に至る過程において関与した事実であるが、衝突が同選別終了後、時間が経過してから発生したので本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これは、見合い関係に入る前のことではあるものの、同選別中も見張りを十分に行うことが必要であり、海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(主張に対する判断)
 A受審人は、衝突後、蛭子丸後部のさぶた、舵軸及び舵柄に赤色のペイントが付いていたことから、金栄丸の船首が蛭子丸右舷後部に乗り上げ、金栄丸船首が自らの足に乗り上がり負傷したと主張するので、これについて検討する。
 E船長に対する質問調書中、「衝突直後、蛭子丸の船首が右回りに振れたのが見え、蛭子丸に近づいて見たところ、右舷後部外板を破損していたが甲板上に破損がなかったことから、金栄丸の船首が蛭子丸の甲板上に乗り上がったとは見受けられなかった。また、A受審人に負傷が見受けられなかった。」旨の、F船長に対する質問調書中、「衝突直後、蛭子丸が右舷後部を押されて大きく右転し、両船は直ぐに離れ、金栄丸がその場で直ぐに停止した。A受審人に無線電話で安否を尋ねたところ大丈夫の返答を受けた。」旨の、B船長の原審審判調書中、「蛭子丸の右舷船尾から1メートル位の船首寄りに金栄丸の船首が衝突した。衝突の衝撃で蛭子丸が回頭し、金栄丸が機関を全速力後進にかけたので2ないし3秒後に蛭子丸から離れた。」旨の各供述記載及び判決書謄本写中、「蛭子丸の甲板等には金栄丸の乗り上がったことを伺わせるような痕跡が全くないし、金栄丸の船底にも損傷はなかったので、A受審人が指摘するペイントの付着が金栄丸の船底によるものとは到底考えられない。」旨の記載があり、これら各証拠を総合勘案すれば、衝突直後、金栄丸が蛭子丸後部を押して同船船尾が大きく左側に振れ、その後金栄丸が機関を全速力後進にかけ、両船が離れたと認められる。
 よって、衝突したのち、金栄丸の船首が、蛭子丸の右舷後部に乗り上げ、A受審人の足を損傷させた旨の主張は認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は、兵庫県地ノ唐荷島東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、蛭子丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る金栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、兵庫県地ノ唐荷島東方沖合において、漁場から岩見漁港に帰航中、単独で操船に当たる場合、他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路目標の山荘を見ることに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する金栄丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して金栄丸との衝突を招き、同船の船首下部に破口を生じさせて船首倉に浸水させ、自船の右舷後部ブルワーク及び外板に破損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 

(参考)原審裁決主文 平成13年1月19日神審言渡
 本件衝突は、蛭子丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る金栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。


参考図
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