(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年1月13日08時50分
岩手県大船渡港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十八明悦丸 |
総トン数 |
612トン |
全長 |
77.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十八明悦丸(以下「明悦丸」という。)は、主に石材及び砂利等の輸送に従事する鋼製運搬船で、北海道函館港で積荷の砂利を揚げきったのち、A受審人ほか4人が乗り組み、第1種中間検査工事の目的で、船首1.2メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成16年1月12日09時20分同港を発し、香川県小豆島の入渠地に向かった。
A受審人は、主機を全速力前進にかけて11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で南下中、翌13日02時ころ、機関長から主機排気集合管の伸縮継手に亀裂が生じて排気ガスが多量に漏洩しているとの報告を受け、応急修理が必要と判断したので、急遽、最寄りの岩手県大船渡港に寄港して応急修理を行うことにし、ガス漏れを抑えるために主機の回転数を下げ、低速力で同港に向かった。
ところで、A受審人は、他船で大船渡港に数回入港した過去の経験から、養殖施設が設置されているのは大船渡湾内だけだろうと思い、同港への寄港に当たって地元の漁業協同組合に養殖施設の設置状況を確認するなどの水路調査を行わなかったので、同湾の南岸沿いに設置された養殖施設の一端が碁石埼の南東方約1.6海里沖合まで張り出していることを知らなかった。
A受審人は、大船渡港の港奥に錨泊して、主機の伸縮継手より小さいが出入港時にしか運転しないバウスラスタ駆動用原動機の排気集合管の伸縮継手を取り外し、同継手に鉄板を溶接するなどの処置を施して損傷した主機の伸縮継手と取り替えたのち、07時45分抜錨して港外に向かった。
A受審人は、養殖施設に注意を払いながら低速力で湾内を航行し、08時04分湾口防波堤間を通過したところで主機の回転数を上げたところ、取り替えた伸縮継手の結合部から再び排気ガスが漏れ出したとの報告を受けたので、主機の回転数を下げて自身が単独で操舵に当たり、他の乗組員に防熱シートで漏洩部を覆うなどの作業を開始させた。
その後、A受審人は、宮城県気仙沼港に寄港して修理業者に伸縮継手を取り替えてもらった方がよいと判断し、港界を通過して湾外に出たのち、08時34分碁石埼灯台から083度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、針路を201度に定め、自動操舵のまま5.0ノットの速力で進行した。
A受審人は、養殖施設の存在を知らなかったので定めた針路が養殖施設の南東端付近に向首していることに気付かないまま続航中、機関室から連絡がなかったので自分で作業の進捗状況を確認しようと考え、しばらく操舵室を離れても大丈夫なように付近海域に他船がいないことを確認したのち、08時48分操舵室を無人として機関室に赴き、機関室の作業状況を確認してから操舵室に戻ったところ、右舷側至近に黒色の浮玉を認めた。
こうして、明悦丸は、A受審人が直ちに主機を全速力後進に操作したが僅かに及ばず、08時50分碁石埼灯台から140度1.4海里の地点で、その船首が養殖施設に乗り入れた。
当時、天候は雨で風力3の南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
この結果、明悦丸には損傷がなかったものの、養殖施設は、基礎ブロックが移動したことによって養殖棚が損傷し、養殖中のわかめに被害を生じた。
(原因)
本件養殖施設損傷は、北海道函館港から香川県小豆島の入渠地に向かう途中、機関の応急修理のために急遽岩手県大船渡港に寄港する際、水路調査が不十分で、応急修理を終えて同港を発航後、大船渡湾外に設置された養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、函館港から小豆島の入渠地に向かう途中、機関の応急修理のために急遽大船渡港に寄港する場合、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、過去の経験から養殖施設が設置されているのは大船渡湾内だけだろうと思い、地元の漁業協同組合に問い合わせて養殖施設の設置状況を確認するなどの水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、応急修理を終えて同港を発航後、同湾外に設置された養殖施設の存在に気付かずに進行して同施設に乗り入れる事態を招き、養殖棚を損傷させて養殖中のわかめに被害を与えるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。