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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 施設等損傷事件一覧 >  事件





平成16年広審第33号
件名

押船第十八博進丸被押起重機船第十八博善送電線損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成16年5月25日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:第十八博進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十八博進丸及び第十八博善・・・損傷ない
送電線・・・3本が切断

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件送電線損傷は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月11日07時00分
 岡山県黒土瀬戸
 
2 船舶の要目
船種船名 押船第十八博進丸 起重機船第十八博善
総トン数 19トン 1,771トン
全長 13.75メートル 57.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,470キロワット  

3 事実の経過
 第十八博進丸(以下「博進丸」という。)は、船体中央部の甲板上から7.5メートルのところに操舵室を設けた押船で、A受審人(平成9年5月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、船首0.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、また、第十八博善は、非自航型起重機付被押台船(以下「起重機船」という。)で、作業員4人が乗り組み、防波堤築造用ブロック4個300トンを積載し、船首1.4メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、博進丸の船首部を起重機船の船尾凹部に嵌合して長さ58メートルの押船列とし、近距離の航海であることから、起重機船船首部に設置された起重機のブームを仰角65度に立てて船尾方に向けてその先端までの海面上の高さを44メートルとして、平成14年11月11日06時00分福山港を発し、黒土瀬戸南方の岡山県笠岡市高島の工事現場に向かった。
 ところで、黒土瀬戸は、笠岡市神島とその南方の差出島及び明地島に挟まれた幅600メートルばかりの瀬戸で、また、東側の差出島と西側の明地島との間の幅120メートルばかりの瀬戸には、海面上の高さが25メートルの送電線が架設されており、目的地の工事現場は同線の南方700メートルばかりのところにあった。
 ところが、A受審人は、5年前にB社に入社して専ら瀬戸内海において押船の船長を務めていたところ、本航海で初めて高島に向かうこととなり、備え付けの小縮尺の海図第153号を見たところ、差出島と明地島との間に送電線が記載されていなかったので、両島間には同線が架設されていないものと思い、発航前に大縮尺の海図を購入するなどして水路調査を十分に行わなかったので、両島間に送電線が架設されていることに気付かなかった。
 こうして、A受審人は、出港操船に引き続いて船橋当直に当たり、06時51分備中高島港黒土防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から276度(真方位、以下同じ。)1,800メートルの地点で、針路を黒土瀬戸に向首する059度に定め、機関を全速力前進にかけて8.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵によって進行し、同時56分防波堤灯台から323度1,100メートルの地点に達したとき、差出島と明地島との間の瀬戸に向かうため、機関を半速力前進に減速して徐々に右転を始めた。
 06時58分A受審人は、防波堤灯台から340度800メートルの地点で、針路を前示瀬戸の中央に向首する156度とし、4.0ノットの速力で前方に架設されている送電線に向けて続航し、07時00分少し前同線を認めた作業員の「バック。バック。」の声を聞き、何のことかと思って船橋前部に移動したとき、07時00分防波堤灯台から341度560メートルの地点において、起重機のブームが送電線に接触した。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の末期であった。
 その結果、博進丸及び起重機船に損傷はなく、送電線3本を切断した。 

(原因)
 本件送電線損傷は、岡山県黒土瀬戸付近の工事現場に向かう際、水路調査が不十分で、差出島と明地島との間の送電線に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、起重機船を押航して岡山県黒土瀬戸付近の工事現場に初めて向かう場合、送電線の架設状況などを把握できるよう、発航前に大縮尺の海図を購入するなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、備え付けの小縮尺の海図には差出島と明地島との間に送電線が記載されていなかったので、両島間には同線が架設されていないものと思い、発航前に大縮尺の海図を購入するなどして水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、差出島と明地島との間に送電線が架設されていることに気付かず、起重機のブームを立てて両島間を通航して同線との接触を招き、送電線を切断させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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