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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 施設等損傷事件一覧 >  事件





平成16年横審第8号
件名

プレジャーボート昴養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成16年5月26日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂)

副理事官
河野 守

受審人
A 職名:昴船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
昴・・・航行不能
のり養殖施設・・・のり網、アバ網及び枠網等に損傷

原因
夜間の安全航行が困難な状況となった際、航行を中断せず、最寄りの安全な場所に停泊して夜明けを待たなかったこと

裁決主文

 本件養殖施設損傷は、夜間の安全航行が困難な状況となった際、航行を中断せず、最寄りの安全な場所に停泊して夜明けを待たなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月1日17時36分
 千葉県木更津港北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート昴
全長 7.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 139キロワット

3 事実の経過
 昴は、操舵室屋上に操舵装置を有するフライングブリッジを備えたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、新しく契約したマリーナに回航する目的で、船首尾とも0.7メートルの等喫水をもって、平成15年11月1日08時50分神奈川県平塚市の相模川河口にあるマリーナを発し、埼玉県八潮市南川崎の中川上流にあるマリーナに向かった。
 A受審人は、出航に当たり、昴に備え付けられていた海図第87号(東京湾至犬吠埼)及び同第90号(東京湾)は改補が行われていなかったうえ廃版となり、東京湾アクアライン及びレインボーブリッジが記載されておらず、自身がこれまで夜間航海の経験はなく、航路標識の識別に不慣れで、1年ほど前昼間に東京湾を1度南航しただけであったが、明るいうちに目視によって航行することとし、予定速力を20ノットとして目的地までの所要時間を約5時間と想定していた。
 A受審人は、出航後ほぼ予定通りの速力で航行し、11時ごろ城ヶ島に寄せたのち東京湾に向かったところ、両舷主機のうち左舷機が不調となり、速力が10ノット前後となったが、そのまま三浦半島沿いに北上して東京湾に入った。
 ところで、東京湾は、航行船舶が輻輳(ふくそう)するうえ、夜間は多数の陸上の明かりで航路標識の識別が難しく、安全に航行するには十分な経験と準備を要する海域であった。
 A受審人は、16時55分周囲が暗くなり始めたとき、東扇島防波堤西灯台から057度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達し、それまで見えていた顕著な陸上物標が肉眼で識別し難くなり、夜間航海の経験がなかったことから、このまま荒川河口まで航行することに不安を感じ、夜間の安全航行が困難な状況となったが、陸上の明かりを左舷側に見て進めば何とか荒川河口に到達できるものと思い、速やかに航行を中断することなく、安全な場所に停泊して夜明けを待たないまま、折から川崎航路を出航する大型貨物船を避けて船首を東方に向けて航行していたとき、5海里ほど前方に認めた東京湾アクアラインの明かりを京浜港東京区のレインボーブリッジの明かりと誤認し、これに向かって進めば荒川河口に達するつもりで、17時01分東扇島防波堤西灯台から081度2.4海里の地点で、針路を137度に定め、機関を右舷機のみ全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 また、東京湾盤洲鼻沖合には、毎年9月から翌年5月までの間、のり養殖施設が設置されていて、同施設の南北両端に当たる北緯35度27分05秒、東経139度54分05秒から北緯35度24分17秒、東経139度51分53秒に至る海上には、黄色7秒5閃光(せんこう)、光達距離11.0キロメートル及び黄色4秒1閃光、光達距離6.0キロメートルの簡易標識灯が合計28個設置されていた。
 A受審人は、そのまま進行すると盤洲鼻沖合ののり養殖施設に接近する状況であったものの、依然として東京湾アクアラインをレインボーブリッジと誤認したまま盤洲鼻沖合に向かっていることに気付かず、右舷船首方に暗く見えるところを荒川河口と思い込み、17時24分東京湾アクアライン海ほたる灯から215度1.7海里の地点で少しづつ右転を始め、速力を7.0ノットに減じて続航した。
 17時34分少し過ぎA受審人は、盤洲鼻沖合ののり養殖施設が前路400メートルとなったが、同施設の簡易標識灯を見落としたまま続航中、昴は、17時36分木更津港防波堤西灯台から009度2.7海里の地点において、166度の針路となったとき、原速力で同施設に乗り入れた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、日没時刻は16時48分であった。
 その結果、のり養殖施設は、のり網、アバ網及び枠網等に損傷を生じ、昴はプロペラに絡網して航行不能となり、後日地元漁船により同施設から引き出された。 

(原因)
 本件養殖施設損傷は、東京湾を荒川河口に向け北上中、京浜港川崎区扇島付近で夜間の安全航行が困難な状況となった際、速やかに航行を中断せず、最寄りの安全な場所に停泊して夜明けを待たないまま、盤洲鼻沖合ののり養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、東京湾を荒川河口に向け北上中、京浜港川崎区扇島付近で夜間の安全航行が困難な状況となった場合、初めての夜間航海に不安を感じていたのであるから、最寄りの安全な場所に停泊して夜明けを待つよう、速やかに航行を中断すべき注意義務があった。しかるに、同人は、陸上の明かりを左舷側に見て進めば何とか荒川河口に到達できるものと思い、速やかに航行を中断しなかった職務上の過失により、東京湾アクアラインをレインボーブリッジと誤認したまま盤洲鼻沖合に向首進行してのり養殖施設に乗り入れる事態を招き、のり網等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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