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平成16年横審第9号
件名

プレジャーボートホワイト バート養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成16年5月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(中谷啓二)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:ホワイト バート船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
のり養殖施設・・・ロープ、筏、のり網などを損傷

原因
のり養殖漁場内での発進時における周囲の状況確認不十分

裁決主文

 本件養殖施設損傷は、のり養殖漁場内で漂泊後、発進する際、周囲の状況確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月13日19時12分
 東京湾富津岬沿岸
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートホワイト バート
全長 9.64メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 273キロワット

3 事実の経過
 ホワイト バート(以下「ホ号」という。)は、A受審人(平成11年7月9日一級小型船舶操縦士免許を取得)が専ら週末の余暇に、東京湾などを巡航するのに使用している2機2軸のFRP製モーターボートで、友人2人を同乗させ、平成15年10月12日11時30分京浜港の東京都Bマリーナ(以下「マリーナ」という。)を出航し、同日13時30分浦賀水道東岸の千葉県船形漁港に寄せ、翌朝帰航する予定で同漁港に停泊した。
 翌13日朝A受審人は、南西風が強く海上は時化模様であり、また強風、波浪注意報が発表されていたことから、友人2人を陸路で帰し待機していたところ、夕刻になって風向が変わり風も弱まってきたので、夜間航行となるが何とか帰航できると判断し、ホ号に1人で乗り組み、船首0.8メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、17時30分船形漁港を発し、マリーナに向かった。
 A受審人は、予定進路を、船形漁港沖から北上して富津岬西方にある第1海堡の西端に接航し、同海堡に並航後は東京灯標を目標として012度(真方位、以下同じ。)の針路で直進する常用のものとした。
 ところで、富津岬は、復路航程のほぼ半ばに位置しており、西方に突出した岬先端から干出浜が約1,200メートル延びて第1海堡の東端に接していた。そして、付近海域は、例年9月から翌春までの間、同海堡の西端から引いた024度及び145度の方位線と陸岸に囲まれる範囲がのり養殖漁場で、同海堡北側の漁場にはのり網を取り付けた多数の筏(いかだ)で構成される長さ約100メートル幅約50メートルの養殖施設が沖側からほぼ東北東方に列をなして配置され、各施設の周囲には直径約40センチメートルのプラスチック製浮き玉が取り付けられていたものの灯火はなく、第1海堡に最も近い同施設の列(以下「施設列」という。)は、その東北東700メートルばかりにあった。
 また、A受審人は、富津岬付近の航行経験が豊富で、のり養殖施設を視認したことも、その近くで魚釣りをしたこともあり、沿岸から第1海堡の東側付近までは同施設が設置されているなど、のり養殖漁場について概略を知っていた。
 こうしてA受審人は、船形漁港を出航後、操舵室上部のフライングブリッジで手動操舵により操船に当たり、左舷船尾方から波高約2メートルの波を受けて、半速力前進の約17ノットの速力で浦賀水道を北上し、第1海堡に差し掛かったころ、ようやく波も穏やかになり、同海堡北側でしばらく休息をとることとし、18時55分のり養殖漁場内の富津岬西端に立つ展望台(以下「展望台」という。)から287度1,450メートルの、施設列南西端から約500メートル離れた地点で、機関を中立にして漂泊を始めた。
 その後、A受審人は、折からの潮流等の影響を受け徐々に東北東方に漂流して施設列に接近し、19時12分少し前漂泊を終えて発進しようとしたとき、展望台から322度950メートルの地点で南方に向首しており、進路方向となる北方には船尾方至近にのり養殖施設が拡がり、波立ち具合で筏や浮き玉等を識別できる状況であったが、短時間の漂泊であったので同施設に近づいていることはないものと思い、周囲の状況を十分に確認することなく、このことに気付かず、両舷機を操作してその場回頭を行い、東京灯標を目標に009度に向けて発進した直後、振動を感じ、ホ号は、19時12分前示の地点において、のり養殖施設に乗り入れた。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 その結果、のり養殖施設のロープ、筏、のり網などを損傷した。 

(原因)
 本件養殖施設損傷は、夜間、千葉県船形漁港から京浜港のマリーナに向け帰航中、休息のため第1海堡北側ののり養殖漁場内で漂泊後、発進する際、周囲の状況確認が不十分で、漂泊中に接近していたのり養殖施設に乗り入れたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、千葉県船形漁港から京浜港のマリーナに向け航行中、第1海堡北側で休息のため漂泊後、発進しようとする場合、付近はのり養殖漁場であることを知っていたのだから、のり養殖施設に乗り入れることのないよう、波立ち具合など周囲の状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、短時間の漂泊であったのでのり養殖施設に近づいていることはないものと思い、周囲の状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、船尾方至近に、漂泊中に接近していた同施設が拡がっていることに気付かず、その場回頭を行い発進して同施設に乗り入れ、これを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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