(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月14日03時04分
新潟県赤泊港南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船健和丸 |
総トン数 |
359トン |
全長 |
53.33メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
736キロワット |
3 事実の経過
健和丸は、専ら液体化学薬品の輸送に従事する船尾船橋型鋼製ばら積船で、A受審人ほか3人が乗り組み、塩酸550トンを載せ、船首2.6メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成15年7月11日14時10分福岡県三池港を発し、新潟港に向かった。
ところで、A受審人は、三池港停泊中、新潟港では先船の荷役待ちのため待機することを連絡されており、同港での沖待ちができなかったので新潟県佐渡島赤泊港沖合で待機することとし、日本海を北上したのち同島南岸の同県佐渡郡赤泊村新保の0.5海里沖合に沿って航行することとした。
また、新保沖合には定置網が設置され、同網は漁具定置箇所一覧図に毎年2月から8月まで設置されていることが示され、赤泊村漁業協同組合が平成10年9月1日から同15年8月31日までの毎年2月1日から9月30日までの間、たい定置漁業の免許状を受けて同網を設置していた。
A受審人は、出航するにあたり、佐渡島に接近後、同島南岸に沿って航行することとしたものの、2月から8月まで定置網が設置されていたが、前年1月と12月に赤泊港沖合で錨泊した際、今回の航海予定と同じ新保沖合を航行したところ、定置網が設置されていなかったので、その後も設置されていないものと思い、漁具定置箇所一覧図を求めてその状況を調べるなど水路調査を十分に行うことなく、同網の存在に気付かなかった。
発航後、A受審人は、九州西岸の平戸瀬戸を北上して日本海に至り、本州北西岸に沿って航行し、超えて14日02時00分沢崎鼻灯台から174度(真方位、以下同じ。)4.8海里の、佐渡島西端沖合の地点で、針路を同島南岸沖合に向く057度に定め、機関回転数毎分360の全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
02時52分半A受審人は、羽茂港西防波堤灯台から092度2.8海里の地点に達したとき、針路を赤泊港沖合に向く042度に転じて続航していたところ、03時02分半新保沖合の定置網設置区域内に進入したが、このことに気付かずに進行中、03時04分赤泊港南防波堤灯台から217度1.8海里の地点において、定置網の道網に乗り入れた。
当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、定置網に乗り入れたことに気付かずに航行を続け、03時30分赤泊港南方400メートル沖合で錨泊し、09時00分ころ佐渡島観光のため抜錨して同港内の岸壁に着け、午後帰船後、赤泊村漁業協同組合員が訪船して定置網を損傷したことを知らされ、調査したところ船首水線付近に擦過痕を認め、その事実を知った。
その結果、健和丸は船首水線付近に擦過痕、定置網は道網付ワイヤーロープを切断して損傷したが、のち修理された。
(原因)
本件定置網損傷は、夜間、新潟県赤泊港沖合に錨泊する目的で佐渡島南岸に沿って航行する際、水路調査が不十分で、同県佐渡郡赤泊村新保沖合に設置された定置網に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、新潟県赤泊港沖合に錨泊する目的で佐渡島南岸に沿って航行する場合、佐渡島沿岸には定置網の設置が予測されるのであるから、同網に乗り入れないよう、漁具定置箇所一覧図を求めて定置網の状況を調べるなど水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前年1月と12月に赤泊港沖合で錨泊した際に新保沖合に定置網が設置されていなかったので、その後も設置されていないものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同網に向首進行して乗り入れ、同網の道網付ワイヤーロープを切断して定置網を損傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。