(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月17日15時33分
沖縄県久米島南東岸沖
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートレッツゴー号 |
全長 |
3.15メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
89キロワット |
3 事実の経過
レッツゴー号(以下「レ号」という。)は、C社製のMJ-1200XL型と称するFRP製3人乗り水上オートバイで、平成10年9月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り込み、友人Bを後部座席に乗せ、沖の浅礁において素潜りを行う目的で、同15年8月17日15時30分沖縄県久米島南東岸沖にある奥武島の南東端付近の砂浜(以下「南東端砂浜」という。)を発進した。
ところで、奥武島は、久米島南端の島尻埼から北東方に拡延する干出さんご礁帯によって外洋と隔てられた島尻湾の奥に位置しており、奥武島南岸沖は、裾礁が南方に張り出すとともに、干出さんご礁、暗岩及び洗岩などが散在する浅所域で、陸岸から約700メートル沖にある5メートル等深線を境に急激に浅くなっていた。
また、同日00時00分久米島地方に波浪注意報が発表されており、09時の沿岸波浪図によれば、波高1.5メートルの波浪が東南東方から同島付近の海域に寄せており、干出さんご礁帯の切れ間から島尻湾内に進入した波浪は、奥武島南岸沖の浅所域に至ると、その傾斜が一段と険しくなっていた。
A受審人は、平成11年8月に小型船舶検査機構が行う定期検査を受けたものの、その後法定の中間検査を受けないままレ号を運航し続け、同日11時00分B同乗者をレ号の後部座席に乗せて久米島南東岸にある仲里漁港泊地区を発航したところ、奥武島南岸沖にやや高い波浪が生じていることを認めたため、海面が穏やかな同島北岸沖を航行して南東端砂浜に到着し、陸路で同砂浜に訪れた友人達と遊泳などを始めたものの、低潮時ごろに同同乗者と奥武島南東方沖の浅礁に向かうつもりであった。
A受審人は、15時30分少し前低潮時近くとなったので、沖の様子を見ようと南方に目を向けたとき、依然として奥武島南岸沖の浅所域にやや高い波浪が生じていることを知ったが、低速力で航行すれば、同浅所域を何とか越えられるものと思い、沖に向けての発進を取り止めなかった。
こうして、A受審人は、素潜りをするときに邪魔になるとの理由から、救命胴衣を着用せず、B同乗者にも同胴衣の着用を指示しないまま、水中眼鏡、シュノーケル及び足ひれを携え、自らの背中にB同乗者が抱きついた体勢で、スロットルレバーを調整して時速20キロメートルで進行し、15時31分少し前奥武島島頂(高さ15メートル)から118度(真方位、以下同じ。)660メートルの地点で、針路を裾礁域の切れ間に沿って進む203度に定めたところ、船首方から次々と傾斜の険しい波浪を受け、大きな縦揺れと上下揺れとを繰り返す状況となったので、時速5キロメートルに減速して続航した。
A受審人は、15時33分少し前船首方から連続して寄せる一段と傾斜の険しい波浪を認め、大きな動揺に備えたものの、15時33分奥武島島頂から133度700メートルの地点において、レ号が同波浪を受けて激しい縦揺れと上下揺れとを繰り返したのち、大きく跳ね上がって着水したときに、船底部が波面を強打した衝撃でバランスを崩し、B同乗者とともに海中に転落した。
当時、天候は晴で風力4の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、付近には波高約1.5メートルの波があった。
その結果、A受審人は、自力で奥武島南岸の砂浜にたどり着き、そのまま気を失って倒れているところを発見されたものの、B同乗者は、同受審人の肩に掴まりながら陸岸に向けて泳いでいる途中、海中に没して行方不明となり、翌18日朝同島南西岸沖において遺体で収容され、溺死と検案された。
(原因)
本件同乗者死亡は、沖縄県久米島南東岸沖にある奥武島の南東端付近の砂浜において、奥武島南岸沖の浅所域にやや高い波浪が生じていることを知った際、沖に向けての発進を取り止めなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県久米島南東岸沖にある奥武島の南東端付近の砂浜において、奥武島南岸沖の浅所域にやや高い波浪が生じていることを知った場合、沖に向けての発進を取り止めるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、低速力で航行すれば、やや高い波浪が生じている同浅所域を何とか越えられるものと思い、発進を取り止めなかった職務上の過失により、後部座席の同乗者ともども救命胴衣を着用しないまま奥武島南岸沖の浅所域を航走中、船首方から傾斜の険しい波浪を受け、レ号が大きく跳ね上がって着水したときに、船底部が波面を強打した衝撃でバランスを崩し、同乗者とともに海中に転落する事態を招き、陸岸に向かって泳いでいる途中、同乗者が海中に没して死亡するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止すべきところ、国土交通大臣の指定する再教育講習を受講したことに徴し、同法第6条の規定を適用して戒告する。