(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月1日13時50分
滋賀県琵琶湖
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートレッドバタフライ |
登録長 |
5.76メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
165キロワット |
3 事実の経過
レッドバタフライ(以下「レ号」という。)は、最大搭載人員5人の和船型FRP製プレジャーボートで、平成14年2月に交付された四級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、知人であるB及び子供3人を乗せ、バナナボート遊びなどの目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成15年8月1日12時00分滋賀県長浜港を発し、琵琶湖北端水域の同県伊香郡高月町沖合へ向かった。
ところで、バナナボートとは、果物のバナナに似た形をした被引浮体遊具の一般的な総称で、丈夫なビニールなどで作られた同遊具に空気を吹き込んで膨らませ、それを水面に浮かべて人が跨った姿勢で乗り、プレジャーボートがロープで曳きながら遊走する類のものであるが、安定性が悪く曳航中に簡単に転覆することから、搭乗者が落水することは常であり、A受審人は、このことを十分に知っていたものであった。
12時15分A受審人は、同郡西浅井町及び高月町境界にある鉢伏山山頂三角点から040度(真方位、以下同じ。)1,000メートル地点付近に至って機関を停止したのち、陸岸から約300メートル離して漂泊を行い、ベスト型救命胴衣を着用した子供達と船体近くの水面に浮かび、浮き輪に掴まって水遊びを始めた。
そして、13時40分A受審人は、水遊びを終え、折り畳んだ状態で携えてきたバナナボートに空気を吹き込んで、長さ約3メートル太さ約50センチメートルの膨満状態まで膨らませ、それに約20メートルのロープを繋いだのち、同時48分針路を北西方へ定め、機関を極微速力前進にかけ、3.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、同ボートの前方に子供達及び一番後ろにBが乗った状態で、ゆっくりと曳航を始めた。
その際、A受審人は、バナナボートが簡単に転覆する類の被引浮体遊具であり、搭乗者が落水することは常であったことから、落水しても溺れる危険がないよう、搭乗者全員の救命胴衣着用状況を十分に確認する必要があったが、子供達が救命胴衣をしっかり着用しているか否かを確認したものの、Bに関しては、出港時に救命胴衣を着用するよう厳重に注意していたうえ、彼女が大人であることから、当然、自らの責任で着用しているものと思い、その着用状況を十分に確認しなかったので、救命胴衣を脱いだままバナナボートに乗り移ったことに気付かなかった。
こうして、A受審人は、Bが救命胴衣を着用していないことに気付かないまま、3.5ノットの極微速力前進で北西方へ走行したのち、わずかに左舵を取りながら8.5ノットまで増速したところ、13時50分少し前曳いていたバナナボートが、レ号が増速したことにより増大した発散波などの影響を強く受ける状況となり、13時50分鉢伏山山頂三角点から040度1,000メートルの地点において、左側に傾いて転覆した。
当時、天候は晴で風力は0であった。
バナナボート転覆の結果、搭乗者全員が落水し、救命胴衣を着用していた子供達は全員救助されたものの、着用していなかったBが行方不明となった。
(原因)
本件は、滋賀県琵琶湖北端水域において、バナナボートに大人の女性1人及び子供3人を乗せて曳航する際、搭乗者全員の救命胴衣着用状況を十分に確認しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、滋賀県琵琶湖北端水域において、バナナボートに大人の女性1人及び子供3人を乗せて曳航する場合、同ボートが、安定性が悪く曳航中に簡単に転覆する類の被引浮体遊具であり、搭乗者が落水することは常であったことから、落水しても溺れる危険がないよう、搭乗者全員の救命胴衣着用状況を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、子供達が救命胴衣をしっかり着用しているか否かを確認したものの、女性に関しては、出港時に救命胴衣を着用するよう厳重に注意していたうえ、彼女が大人であることから、自らの責任で着用しているものと思い、その着用状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、バナナボートが転覆して搭乗者全員が落水したとき、救命胴衣を着用していた子供達は全員救助されたものの、着用していなかった女性が行方不明となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
よって主文のとおり裁決する。