(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月2日06時50分
三重県浜島港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六十八大吉丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
66.36メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第六十八大吉丸(以下「大吉丸」という。)は、かつお一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人、一等航海士B及び日本人13人並びにキリバス共和国人(以下「キリバス人」という。)10人が乗り組み、平成14年12月17日静岡県焼津港を発し、同月23日ソロモン諸島沖の漁場に至って操業を行い、カツオ378トンを獲たのち、翌15年1月21日同漁場を発進して帰途に就いた。
同年2月1日13時25分A受審人は、水揚げ予定地である焼津港の入港日時調整等のため、日本人乗組員の主な出身地である三重県浜島港に入港し、水産試験場前岸壁に、船首を北東方に向け両舷錨鎖各5節を船首方に繰り出し、左舷船尾に3本、右舷船尾に2本の係留索を取って船尾係留した。そして、左舷側に総トン数約100トンばかりの作業船、右舷側にかつお一本つり漁船寶榮丸がそれぞれ各横距離約5メートルで櫛状に隣接し船尾係留していたので、両船との接触に備え、船首尾付近にはゴム製の俵型大型防舷材を、さらに、両舷に各10個ばかりのロープを取り付けた自動車の古タイヤや漁具の浮子を利用した、移動可能な小型防舷材をそれぞれ取り付けた。
ところで、大吉丸は、操舵室が船尾から約26メートル前方、船尾楼甲板上約6メートルのところにあり、船首楼及び船尾楼両甲板と同じ高さに、船体のほぼ全周にわたって、舷外に張り出した幅約70センチメートルの釣り台が設置され、操業時には乗組員が同台上に立って一本釣りを行っており、操舵室内からは船体中央部付近の釣り台が見えない構造になっていた。
また、寶榮丸は、大吉丸と同じ造船所で建造され、主要寸法及び釣り台の位置等がほぼ共通の同型船であったが、漁獲物を積んで満載状態の大吉丸に対して出漁前であったことから喫水が浅く、船体中央部付近における釣り台の水面上の高さが、大吉丸より約90センチメートル高くなっていた。
翌2日06時40分A受審人は、焼津港に向かうため船首に8人、船尾に12人の乗組員を出港配置に就け、折からの北西風を左舷正横方から受けていたので、離岸作業中に風下側へ圧流され寶榮丸と接触する可能性を認めていたものの、同じ状況で他船と接触しながら離岸した経験があって、平素から乗組員が適宜舷側で小型の防舷材を他船との接触部に移動するなどの衝撃緩和作業を行っており、特に問題がなかったことから、乗組員に同作業中の注意事項など指示しないまま離岸作業を開始した。
A受審人は、06時45分漁ろう長及びB一等航海士を操船の補佐に就け、船首尾配置の乗組員に船内指令マイクで指示しながら、左舷船尾外側の係留索一本を残して他の係留索を取り込んだのち、残した係留索の伸出と錨鎖の巻き込みとを同時に始めたところ、次第に風下側に圧流されて寶榮丸と接触する可能性が生じたが、衝撃緩和作業については乗組員に任せておけば大丈夫と思い、操舵室内から係留索と錨鎖の伸縮状況のみを監視し、自ら風下側舷側を見渡すことができる右舷ウイングに出て同船への接近模様を把握するなど、同作業に対する安全確認を十分に行わなかった。
一方、B一等航海士は、A受審人に告げないまま船尾楼甲板に下り、船首尾配置のキリバス人乗組員とともに右舷側中央部付近の釣り台の上で、防舷材を移動するなどの衝撃緩和作業に当たった。
A受審人は、その後、船尾が岸壁から離れるに従って風下側に圧流され隣接する寶榮丸の釣り台に接近したが、依然、操舵室内に留まっていて安全確認を十分に行わなかったので、衝撃緩和作業に当たっているB一等航海士を含む乗組員に対し、注意喚起及び待避の指示が行われず、06時50分少し前挟まれる危険に気付いたキリバス人乗組員が釣り台から待避したものの、B一等航海士は、寶榮丸の釣り台が迫っていることに気付かないまま作業中、06時50分浜島港灯台から真方位342度490メートルの地点において、圧流されて接触した自船の右舷舷側と寶榮丸の左舷側釣り台とに挟まれた。
当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、甲板上の乗組員の大声で異変に気付いて操舵室を出て、船尾楼甲板に赴きB一等航海士の負傷を知って、事後の処置に当たった。
その結果、B一等航海士は、付近にいた漁船によって岸壁に運ばれ救急車で病院に搬送されたが、骨盤骨折による出血性ショックで死亡した。
(原因)
本件乗組員死亡は、三重県浜島港において、左舷正横方から風を受け風下側に圧流される状況下、他船と櫛状に隣接し船尾係留していた岸壁から離岸する際、風下側係留船との衝撃緩和作業に対する安全確認が不十分で、釣り台の上で同作業を行っていた乗組員に対し、注意喚起及び待避の指示が行われないまま、同作業中の乗組員が、圧流されて接触した自船の右舷舷側と同係留船の左舷側釣り台とに挟まれたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、三重県浜島港において、左舷正横方から風を受け風下側に圧流される状況下、他船と櫛状に隣接し船尾係留していた岸壁から離岸する場合、乗組員が釣り台の上で防舷材を移動するなどして風下側係留船との衝撃緩和作業を行っていたのだから、乗組員に対し、注意喚起及び待避の指示ができるよう、風下側舷側を見渡すことができる右舷ウイングに出て同係留船への接近模様を把握するなど、同作業に対する安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、衝撃緩和作業については乗組員に任せておけば大丈夫と思い、同係留船への接近模様を把握するなど、同作業に対する安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により、釣り台の上で同作業を行っていた乗組員が、圧流されて接触した自船の右舷舷側と同係留船の左舷側釣り台とに挟まれ、骨盤骨折による出血性ショックで死亡する事態を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。