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平成16年広審第20号
件名

貨物船第二鈴鹿丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年6月21日

審判庁区分
広島地方審判庁(吉川 進、黒田 均、佐野映一)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:第二鈴鹿丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)(履歴限定)

損害
主機5番燃料カムのポンプ突き上げ部の当たり面が異常摩耗、タペットローラが異常摩耗、ポンプ台の切り込み部の周囲が削られたこと

原因
主機の燃料カムとタペットローラの点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の燃料カムとタペットローラの点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月8日23時00分
 播磨灘
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二鈴鹿丸
総トン数 198トン
全長 49.59メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 588キロワット
回転数 毎分380

3 事実の経過
 第二鈴鹿丸(以下「鈴鹿丸」という。)は、平成3年7月に進水した液体化学薬品ばら積船で、主機としてC社が製造した、D型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は、直列シリンダ配置で、シリンダブロック左舷側のカムケースにカム軸を配置し、同軸にシリンダ毎に排気カム、吸気カム及び燃料カムが取り付けられ、各シリンダには船首側から順に番号が付されていた。
 主機の潤滑油系統は、直結潤滑油ポンプ又は電動の潤滑油ポンプがクランク室下部の油溜まりの潤滑油を汲み上げ、150メッシュ相当の複式ノッチワイヤ形式こし器と冷却器を経て主軸受、カム軸装置、伝動歯車等に送り込み、潤滑及び冷却を終えた同油が再びクランク室の油溜まりに戻る再循環経路を成していた。
 燃料噴射ポンプは、ボッシュ式で、シリンダ毎にカムケース上のポンプ台に取り付けられ、プランジャーが燃料タペットを介して燃料カムで押し上げられ、燃料を圧縮して燃料噴射弁に送り出すようになっていた。
 燃料カムは、クロムモリブデン鋼製で、燃料ポンプを突き上げる範囲で直線的に上昇したのち、基準円まで漸次下降する形状を有し、表面から1ないし2ミリメートル(以下「ミリ」という。)深さの範囲が焼き入れ加工されていた。
 燃料タペットは、円筒形状の特殊鋳鉄製で、ポンプ台内側に収められて燃料カムと燃料噴射ポンプとの間に介在し、上面の調整ボルトのねじ込み加減で燃料噴射開始のタイミングを調整するようになっており、下端には燃料カム上を転動するタペットローラが組み込まれ、同ローラの転動面が表面から1ミリ以上の深さの範囲で焼き入れを施されていた。
 ポンプ台は、ねずみ鋳鉄製で、カムケースに挿入される下半部内面を燃料タペットが上下するようになっており、幅33ミリのタペットローラが当たらないよう、裾が34ミリの幅で切り込まれていた。
 鈴鹿丸は、平成14年6月にB社が新たに船舶管理人となってA受審人が機関長として乗り組み、主機が1箇月当たりおよそ400時間運転され、太平洋沿岸の諸港間を運航されていたが、同年9月主機のピストン抜き整備を含む主要な整備が行われたうえで定期検査を受検した。
 主機は、定期検査に際して燃料噴射ポンプ及びカム装置の外観が検査されたのち、各シリンダの燃料噴射開始のタイミング調整のうえ、海上運転をしながら噴射量の調整が行われたが、出渠後に異物を噛んだかして、いつしか5番燃料カムのポンプ突き上げ部の当たり面に傷を生じた。
 A受審人は、同年12月ごろ主機の排気温度のばらつきを生じていることを認め、定期検査工事で調整を行った業者から2、3箇月後に燃料噴射タイミングを再確認するよう言われたことを思い出し、主機の燃料タペット調整ボルトを自分で調整し直したが、それまでカムに不具合が生じたことがないので燃料カムには問題ないと思い、同カム及びタペットローラを十分に点検しなかった。
 主機は、5番燃料カムの突き上げ部に傷を生じたまま運転が続けられるうち、同傷が焼き入れ部分の割れとなって広がり、転動するタペットローラ当たり面にも傷を生じ、両面の摩耗が進行した。
 A受審人は、翌15年になってから主機の排気温度のばらつきを修正するため数回にわたって噴射量の調整を行ったが、なおも燃料カム及びタペットローラを点検することなく、当たり面の傷と摩耗に気付かなかった。
 鈴鹿丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成15年3月8日18時00分大阪港を発し、主機を回転数毎分340にかけて山口県徳山下松港に向かっていたところ、異常摩耗して当たり面にわずかな傾斜を生じた主機5番燃料カム上を、タペットローラが転動せずに滑り始め、タペットの向きが縦軸周りに振れて上下する都度、同ローラの角がポンプ台の切り込み部の両脇を削り始め、叩き音を発した。
 A受審人は、20時ごろ機関室の見回りをするうちに、主機に甲高い叩き音を聞いたが、排気温度を確かめなかったので5番シリンダの燃料カム及びタペットローラの異状で噴射量が減少していることに気付かず、異音の発生箇所を特定できなかった。
 こうして、鈴鹿丸は、主機5番シリンダの燃料噴射ポンプ下部でポンプ台が削られ、鉄粉が潤滑油に混入して潤滑油こし器に詰まり、23時00分大角鼻灯台から真方位108度3.2海里の地点で、機関室を見回っていたA受審人が潤滑油圧力の低下を発見した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、潤滑油こし器を開放して、大量の鉄粉が付着していることを認めたが、同こし器を掃除すると同圧力が運転制限内に回復するので、掃除を繰り返しながら、運転を続けることとした。
 鈴鹿丸は、翌9日徳山下松港に入港し、主機が精査された結果、5番燃料カムのポンプ突き上げ部の当たり面が異常摩耗し、タペットローラが円形を留めないほど異常摩耗して、ポンプ台の切り込み部の周囲がローラで削られていることが分かり、のち5番シリンダのポンプ台、タペット仕組及びカム軸が取り替え修理された。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理に当たり、燃料噴射ポンプを駆動する燃料カム及びタペットローラの点検が不十分で、異物を噛み込むなどして燃料カムのポンプ突き上げ部と同ローラ当たり面に傷を生じたまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理に当たり、排気温度のばらつきを認めて燃料噴射時期の調整をする場合、カム装置に異常が生じていないか、燃料カム及びタペットローラの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまでカムに不具合が生じたことがないので燃料カムには問題ないと思い、燃料カム及びタペットローラの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、異物を噛み込むなどして同カムのポンプ突き上げ部及び同ローラの両当たり面に傷を生じていることに気付かないまま運転を続け、同傷が焼き入れ部分の割れとなって広がり、両面が異常摩耗する事態を招き、主機の運転不能状態を生じさせ、カム軸の取替えを余儀なくされるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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