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平成15年横審第77号
件名

漁船第一正徳丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年6月11日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(安藤周二、西田克史、浜本 宏)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:第一正徳丸機関長 海技免許:六級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)
指定海難関係人
B 職名:第一正徳丸船長

損害
主機4番シリンダの連接棒ほかピストン等が損傷

原因
主機排気管周りの腐食状況の点検不十分、始動準備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機煙突上部排気管周りの腐食状況の点検が不十分で、同排気管に破口が生じたまま主機の運転が続けられたばかりか、始動準備が不十分で、停泊中に同破口から燃焼室に浸入していた雨水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月10日16時30分
 三重県長島港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一正徳丸
総トン数 38.01トン
全長 26.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 220キロワット
回転数 毎分765

3 事実の経過
 第一正徳丸(以下「正徳丸」という。)は、中型まき網漁業船団のFRP製網船で、主機としてC社が製造した6MG18CXB型と呼称する、間接冷却方式のディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
 主機は、各シリンダの燃焼室の排気がシリンダヘッドに装着された排気弁、排気マニホルド及び過給機を経て船橋後方の煙突に導かれ、煙突上部に取り付けられた外径220ミリメートル厚さ5ミリメートルのアルミニウム合金製排気管の先端開口部から大気に放出されており、同排気管にドレン排出設備がなかったものの、停泊時には同開口部に雨水浸入防止用蓋がかぶせられる構造になっていた。
 また、主機は、空気始動方式であり、冷却清水等がたまたま漏洩して燃焼室に浸入する事態に備え、電動式の潤滑油ポンプを運転して潤滑油をプライミングのうえインジケータ弁を開いたまま、始動準備としてターニング及びエアランニングを実施し、同弁から排出される水等の有無を確かめることが取扱説明書に記載されていた。
 A受審人は、正徳丸の竣工時に機関長と漁ろう長とを兼ねて乗り組み、周年にわたり熊野灘の漁場で僚船とともに操業しており、出漁前、主機の始動操作については息子である船長のB指定海難関係人に行わせていたが、始動操作を行わせる際、これまで無難に始動していたことから大丈夫と思い、同人に対し、始動準備としてターニング及びエアランニングの実施を指示することなく、主機が始動された後、出漁を繰り返していた。
 一方、B指定海難関係人は、正徳丸の甲板員として乗り組んで機関室の見回りや掃除等の経験があり、平成7年7月船長に昇進して以来、平素、主機台板下部油だめの潤滑油量が維持されていることを適宜に確かめていたものの、出漁前に主機のターニング及びエアランニングを実施しないまま始動操作を行っていた。
 ところで、A受審人は、同15年2月上旬正徳丸が定期検査受検の目的で、和歌山県東牟婁郡那智勝浦町の造船所に入渠した際、主機煙突上部排気管の船尾側に経年腐食の進行による破口が生じる状況になっていたが、同排気管周りの腐食状況の点検を十分に行わず、そのことに気付かないまま、同月末に出渠した後、操業を再開し、主機の運転を続けていた。
 正徳丸は、3月6日操業を終えて三重県長島港に入港し、船首0.9メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、長島港防波堤灯台から真方位250度820メートルの地点の魚市場付近岸壁に係留された後、主機煙突上部排気管の先端開口部に雨水浸入防止用蓋がかぶせられた状態で停泊中、同日午後から降り始めた雨が翌7日昼過ぎまで降り続いているうち、同排気管の前示腐食でいつしか生じていた破口から吹き込まれた雨水が主機の過給機に落下して排気マニホルドを伝わり、排気弁の開いていた4番シリンダの燃焼室に浸入し、ピストン頂部に滞留する状況となった。
 こうして、正徳丸は、3月10日夕方A受審人及びB指定海難関係人ほか9人が乗り組んで出漁することになり、出漁前に同指定海難関係人が主機煙突上部排気管の雨水浸入防止用蓋を取り外し、平素のとおり主機のターニング及びエアランニングを実施しないまま始動操作を行ったところ、16時30分前示係留地点において、同燃焼室に浸入していた雨水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃され、大音を発して水撃作用により連接棒が曲損した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 正徳丸は、出漁を取りやめた後、主機が精査された結果、4番シリンダの連接棒ほかピストン等の損傷が判明し、損傷部品が取り替えられた。また、B指定海難関係人は、出漁前に主機の始動操作を行う際にはターニング及びエアランニングを実施することとした。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機煙突上部排気管周りの腐食状況の点検が不十分で、同排気管に経年腐食の進行による破口が生じたまま主機の運転が続けられたばかりか、出漁前に始動操作が行われる際、始動準備が不十分で、停泊中に同破口から燃焼室に浸入していた雨水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されたことによって発生したものである。
 主機の始動準備が十分でなかったのは、機関長が船長にターニング及びエアランニングの実施を指示しなかったことと、船長がターニング及びエアランニングを実施しなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、出漁前、B指定海難関係人に主機の始動操作を行わせる場合、インジケータ弁から排出される水等の有無が確かめられるよう、同人に対し、始動準備としてターニング及びエアランニングの実施を指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、これまで無難に始動していたことから大丈夫と思い、主機の始動準備としてターニング及びエアランニングの実施を指示しなかった職務上の過失により、ターニング及びエアランニングが実施されないまま始動操作が行われたところ、停泊中に主機煙突上部排気管の破口から燃焼室に浸入していた雨水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されて水撃作用を招き、連接棒及びピストン等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が出漁前に主機の始動操作を行う際、ターニング及びエアランニングを実施しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件発生後、出漁前に主機の始動操作を行う際にはターニング及びエアランニングを実施していることに徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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