(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月3日00時50分
東シナ海
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六十一源福丸 |
総トン数 |
270トン |
全長 |
56.01メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
860キロワット(計画出力) |
回転数 |
毎分600(計画回転数) |
3 事実の経過
第六十一源福丸(以下「源福丸」という。)は、昭和62年9月に進水した鋼製漁船で、毎年8月に3週間程度休漁して船体、機関及び漁具の整備を行う以外は、周年、主として東シナ海の漁場で運搬船として大中型まき網漁業に従事しており、主機としてB社製の6DLM-28ZS型と称するディーゼル機関を備え、船橋に同機の遠隔操縦装置を備えていた。
主機は、燃料油にA重油を使用する清水間接冷却機関で、連続最大出力1,323キロワット同回転数720(毎分回転数、以下同じ。)の原機に燃料制限装置を付設して計画出力まで出力制限されていたが、いつしか同制限装置が取り外され、全速力時の回転数を670までとして月間約400時間運転されており、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
主機の排気管系統は、1、4及び5番シリンダの各排気枝管が上側の排気集合管に、2、3及び6番シリンダの同枝管が下側の排気集合管に接続され、それぞれベローズ形伸縮継手(以下「伸縮継手」という。)を介して過給機排気入口囲の上下入口フランジと接続されていて、上下各系統毎に全体が断熱材で覆ってあった。
伸縮継手は、呼び径100ミリメートル(以下「ミリ」という。)厚さ12ミリの鋼製フランジ2枚を両端に配し、その内側に厚さ4ミリ内径106.3ミリ長さ40ミリの端管をそれぞれ溶接し、両端管の間に蛇腹形状のステンレス鋼薄板製ベローズを取り付けて全長を128ミリとしたうえ、更に、内部を通る排気ガスからベローズを遮蔽するため、筒状の保護管(以下「内筒」という。)をベローズ内側に取り付けた構造で、排気集合管の熱膨張による伸縮を吸収するようになっていた。
内筒は、厚さ1.5ミリ外径98ミリ長さ105ミリのステンレス鋼製で、片方の端から約20ミリの部分(以下「湾曲部」という。)をラッパ状に拡管し、排気ガス入口側のフランジ端管に内側から溶接付けしてあり、内筒外周と端管内周との間隙は4ミリあまりであった。
なお、伸縮継手は、排気集合管及び過給機入口の各フランジとそれぞれ6本のボルトで取り付けられており、取付方向を間違えないよう、ガス入口側のフランジ側面にガスの流れを示す矢印が刻印されていた。
主機の過給機は、C社製のVTR254A-11型と称する軸流式排気ガスタービン過給機で、主機6番シリンダの船尾側に設置された架台上に取り付けられており、排気入口囲、空気吸込囲、タービン車室、渦巻室などで構成され、単段の遠心式ブロワと単段の軸流タービンを結合するロータ軸がタービン側軸受室の単列玉軸受と、推力軸受を兼ねたブロワ側軸受室の複列玉軸受とで支持され、両玉軸受は各軸受室油だめ内のタービン油により潤滑されていた。
A受審人は、平成9年8月に二等機関士として乗り組み、同10年8月に機関長に昇進し、以来、一等機関士及び機関員を指揮して機関の運転管理にあたっていたもので、同13年11月ごろ異臭に気付いて点検したところ、下側伸縮継手のベローズに亀裂が生じて主機排気ガスが漏洩していることを発見し、船内作業で予備の伸縮継手と取り替えた。
ところで、下側の排気集合管は、長期間にわたり熱負荷の変動に伴う伸縮を繰り返すうち、先端フランジが傾いた状態で永久歪みが生じ、伸縮継手フランジとの平行度に狂いが生じていたが、損傷継手を外して新品の予備継手を取り付ける際、伸縮継手に可撓性があり、また、同継手の挿入スペースは配管の伸び代が考慮されていたことから、A受審人が同フランジの傾きに気付かないまま、取付ボルトを締め付けて同継手が取り付けられ、断熱材を施したうえ復旧された。
このように、同伸縮継手は、排気入口側フランジが傾いた状態で取り付けられたため、やがて内筒の自由端が端管と接触して湾曲部の一部に常に曲げ応力が作用する状態となり、運転中高温の排気ガスの通過で全体が赤熱する程の熱負荷を受け、排気集合管の伸縮や機関振動も影響して同部に応力が集中し、いつしか亀裂が発生したが、A受審人が知る由もないまま次第に進行した。
こうして、源福丸は、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、平成15年4月1日16時55分長崎県相浦港を発し、東シナ海の漁場に向け主機を全速力前進にかけて航行中、同月3日00時50分北緯27度58分東経124度13分の地点において、下側伸縮継手の内筒湾曲部に生じた亀裂が急速に進展して全周に至り、内筒が破断して破損片が排気ガスとともに過給機に飛び込み、異音を発した。
当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、機関室船尾側の食堂で前直の機関員から当直交代前の引継ぎを受けていたところ異音に気付き、機関室に急行して主機を停止し、過給機を開放して点検したうえ、本船側での修理は困難と判断して主機の運転を断念し、船長にその旨報告した。
その結果、源福丸は、来援した僚船により長崎港に引きつけられ、修理業者の手により、主機及び過給機を精査の結果、破断した内筒は伸縮継手の内部に止まっていたが、湾曲部の一部が割損して過給機に運ばれており、同割損片が衝突して過給機のノズル、ノズルリング、タービン羽根等が損傷し、ロータ軸が不釣合いとなって軸受が焼損したことから、ブロワ翼がケーシングと接触して異常摩耗していることなどが判明し、のち、損傷部品をすべて新替えして修理するとともに、上下排気集合管にそれぞれ伸縮継手1個が新たに取り付けられた。
(原因の考察)
本件は、過給機の排気入口に取り付けられていた伸縮継手が、新替えして1年半足らずのうちに内筒の湾曲部で破断したことによって発生したものである。通常、伸縮継手の損傷といえば、配管の伸縮によって繰返し付加応力を受けるベローズに亀裂が発生するのが一般的で、内筒の損傷はあまり例がなく、使用期間の観点からも何らかの特別な要因が作用したものと考えるのが相当であり、同要因について、事実の経過の項に記載のとおり、内筒と端管の接触と認定したが、以下、可能性のあるほかの要因について次のとおり検討する。
(1)内筒は、片持ち構造とはいえ、肉厚1.5ミリ外径98ミリ長さわずか105ミリのステンレス鋼製の軽量なもので、破断部に曲げ応力が集中するほどの固有振動が生じることは考えられない。