(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月17日00時10分
伊豆諸島大島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船三軒町丸 |
総トン数 |
19.99トン |
登録長 |
16.95メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
257キロワット |
回転数 |
毎分1,200 |
3 事実の経過
三軒町丸は、昭和53年8月に進水した、あじ・さば棒受網漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてB社が製造した6MG16X-A型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び計器盤を備えていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室下部に設けられた容量約120リットルの油受から潤滑油が直結駆動の歯車式の潤滑油ポンプに吸引され、潤滑油冷却器、連絡管及び潤滑油こし器を順に通過して4.0キログラム毎平方センチメートルの標準圧力で潤滑油主管に送られ、主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン、カム軸並びに動弁装置等の系統にそれぞれ分岐して各部を潤滑あるいは冷却した後、油受に戻る経路で循環し、また、連絡管が左舷側に取り付けられた同冷却器の出口側小判形管フランジ(以下「管フランジ」という。)に接続されており、操舵室の計器盤には潤滑油圧力低下警報装置が組み込まれていて、潤滑油主管に送られた潤滑油が2.0キログラム毎平方センチメートル以下の圧力に低下すると同装置の警報ブザー及び警報灯が作動し、潤滑油圧力低下警報が発せられるようになっていた。
A受審人は、昭和50年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、同60年以来、三軒町丸に船長として乗り組み、操船のほか主機の運転保守にあたっており、定期整備の目的で、平成15年1月8日に同機の潤滑油冷却器を陸揚げし、同月13日に冷却海水側等の掃除を終えた同冷却器の復旧作業を乗組員に行わせた。
ところが、主機の潤滑油冷却器は、管フランジの取付けボルトの締付けが不足したまま、復旧作業が終了していた。
しかし、A受審人は、主機の潤滑油冷却器の陸揚整備後、翌14日に試運転を行った際、管フランジ接続部から潤滑油が少しずつ漏洩する状況となっていたが、これまで同整備後に漏洩しなかったから大丈夫と思い、同冷却器周りの潤滑油漏洩箇所を見逃さないよう、潤滑油漏洩の有無を十分に点検することなく、その状況に気付かないまま、試運転を終えて出漁することとした。
こうして、三軒町丸は、A受審人ほか8人が乗り組み、同受審人が主機の始動前に油受の潤滑油量を確認し、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同月16日09時00分静岡県伊東港を発し、伊豆諸島三宅島周辺海域漁場に至って操業を行ったが、揚網機が故障したため、19時30分同港に向けて帰航の途に就き、主機の回転数毎分1,200で運転を続け、同諸島大島西方沖合を航行中、前示潤滑油の漏洩により油受の潤滑油量が著しく減少して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、主軸受の油膜が途切れて潤滑が阻害され、翌17日00時10分元町港突堤灯台から真方位199度3.4海里の地点において、潤滑油圧力低下警報装置の警報ブザー及び警報灯が作動し、同軸受が焼き付き始めた。
当時、天候は晴で風力6の西風が吹き、海上はしけ模様であった。
A受審人は、操舵室で主機の潤滑油圧力低下警報に気付いて回転数毎分600に減速し、潤滑油を補給した後、大島西岸に寄せて投錨した。
三軒町丸は、投錨時に主機が自停したのち運転不能となり、付近の僚船に救助を求めて伊東港に曳航され、精査の結果、全主軸受のほかクランク軸等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。
(原因)
本件機関損傷は、主機の潤滑油冷却器の陸揚整備後、試運転における潤滑油漏洩の有無の点検が不十分で、管フランジ接続部から潤滑油が漏洩するまま運転が続けられ、油受の潤滑油量が著しく減少して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、主軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転保守にあたり潤滑油冷却器の陸揚整備後に試運転を行う場合、同冷却器周りの潤滑油漏洩箇所を見逃さないよう、潤滑油漏洩の有無を十分に点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、これまで同整備後に潤滑油が漏洩しなかったから大丈夫と思い、潤滑油漏洩の有無を十分に点検しなかった職務上の過失により、管フランジ接続部から潤滑油が漏洩する状況に気付かないまま、運転を続けているうち、油受の潤滑油量が著しく減少して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、主軸受の潤滑が阻害される事態を招き、同軸受のほかクランク軸等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。