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平成16年函審第8号
件名

漁船第六十八恵比須丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年5月28日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第六十八恵比須丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
左舷補機3番シリンダの燃料弁戻り油枝管に亀裂、全数のピストン、シリンダライナ、クランクピン軸受、主軸受全数、クランク軸及びカム軸にかじり傷

原因
補機の動弁箱内の点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、補機の動弁箱内の点検が不十分で、燃料油が潤滑油中に混入したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月19日11時00分
 北海道函館港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十八恵比須丸
総トン数 138トン
全長 38.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 353キロワット

3 事実の経過
 第六十八恵比須丸(以下「恵比須丸」という。)は、昭和54年3月に進水した、いか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で、機関室中央部に備えた主機の両舷に、発電機駆動用原動機(以下「補機」という。)を各1機備え、右舷補機が容量180キロボルトアンペアの集魚灯専用発電機を、左舷補機が容量400キロボルトアンペアの船内電源用発電機を駆動していた。このほか、停泊用発電機として小型の移動式発電機が船尾甲板上に備えられていた。
 左舷補機は、B社が製造した6AL-STD型と称する定格出力353キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、A重油を燃料とし、各シリンダには船尾方を1番とする順番号が付され、オイルパンには約150リットルの潤滑油が張り込まれていた。
 また、燃料噴射弁(以下「燃料弁」という。)の戻り油系統は、各燃料弁の弁体摺動部からの漏油が戻り油となって、戻り油枝管、同油集合管を経て容量300ミリリットルの漏油タンクに導かれ、同タンクから外部に取り出す経路となっており、漏油タンクには、燃料油こし器の油受け及び燃料噴射ポンプの油受けからの漏油も導かれるようになっていた。
 そして、燃料弁の戻り油枝管は、長さ約10センチメートル外径6ミリメートル肉厚1ミリメートルの銅管両端の、一端に輪型継手金具を、他端にニップル継手金具を溶接して一体としたもので、輪型継手金具を燃料弁の頂部に、ニップル継手金具を戻り油集合管に接続するようになっていた。
 恵比須丸は、平成14年3月にA受審人が購入したもので、左舷補機のシリンダライナなどを新替えするなどの機関整備が行われたのち、同人が機関長としてほか6人が乗り組み5月に函館を発し、日本海の漁場において魚倉が満杯になるまで操業を続け、ほぼ1箇月ごとに水揚げを行っていた。
 A受審人は、左舷補機の潤滑油を約3箇月ごとに新替えし、ほぼ毎日油量を計測して2週間ごとに約30リットルの補給を行い、水揚げ後の休日に停泊用発電機を運転するとき以外は、左舷補機を連続運転として取り扱っていたところ、黒煙が出るようになったので、8月9日函館港において、業者の手により燃料弁全数を整備し、再び操業に従事した。
 左舷補機は、前示燃料弁整備の際、燃料弁戻り油枝管のターミナルボルトが強く締められたかして同管に変形を生じたまま復旧されており、その後の運転中、3番シリンダの燃料弁戻り油枝管が輪型継手金具根元の溶接箇所付近で亀裂を生じ、燃料油が漏れ始めた。
 ところで、燃料油がシリンダヘッド上方の動弁箱内で漏れると、吸・排気弁のプッシュロッド貫通穴からクランクケース内に落下して潤滑油中に混じり、潤滑油の粘度が低下して油膜切れを起こすおそれがあるから、燃料油の漏洩を早期に発見できるよう、短期間の周期で定例的に動弁箱内の点検を行う必要があった。
 ところが、A受審人は、左舷補機の潤滑油量及び臭いに格別の変化も感じなかったこともあって、同機を低速運転状態とすることができる、ほぼ1箇月ごとの発停時に、適宜動弁箱内の点検をしておけば大丈夫と思い、動弁箱内の点検を十分に行わなかったので、燃料油が潤滑油中に混入し続けていることに気付かずに運転を続けているうち、左舷補機は、潤滑油の粘度が低下して摺動各部の潤滑が阻害される状況となった。
 12月25日恵比須丸は、外観上、左舷補機に異状のないまま漁期を終え、船首1.6メートル船尾4.0メートルの喫水で函館港に係留された。
 翌15年2月19日A受審人は、休漁期間中の定例作業として自ら左舷補機の開放整備を行っていたとき、11時00分函館港中央ふ頭南船だまり防波堤灯台から真方位184度300メートルの地点において、3番シリンダの燃料弁戻り油枝管に亀裂を生じていることと、全数のピストン、シリンダライナ及びクランクピン軸受にかじり傷を生じていることとを発見した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
 恵比寿丸は、機関整備業者による左舷補機の全開放調査が行われた結果、前示損傷のほか、主軸受全数、クランク軸及びカム軸にもかじり傷を生じていることが判明し、のちいずれも新替え修理された。 

(原因)
 本件機関損傷は、補機の動弁箱内の点検が不十分で、同箱内の燃料弁戻り油枝管から漏れた燃料油が潤滑油中に混入し、潤滑油の粘度が低下して摺動各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、補機の保守運転管理に当たる場合、燃料油がシリンダヘッド上方の動弁箱内で漏れると、吸・排気弁のプッシュロッド貫通穴からクランクケース内に落下して潤滑油に混じり、潤滑油の粘度が低下して油膜切れを起こすおそれがあるから、燃料油の漏洩を早期に発見できるよう、動弁箱内の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同機を低速運転状態とすることができる、ほぼ1箇月ごとの発停時に、適宜同箱内の点検をしておけば大丈夫と思い、動弁箱内の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同箱内の燃料弁戻り油枝管から燃料油が漏れていることに気付かないまま運転を続け、摺動各部の潤滑阻害を招き、クランク軸、カム軸、全数のピストン、シリンダライナ、主軸受及びクランクピン軸受にかじり傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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