(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月19日10時20分
北海道宇登呂漁港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十一美代丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
16.82メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
回転数 |
毎分1,450 |
3 事実の経過
第二十一美代丸(以下「美代丸」という。)は、昭和61年10月に進水した、刺網漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてB社が製造した6NSBA-M型と称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の標準油量80リットルのオイルパンから直結潤滑油ポンプにより吸引された潤滑油が、潤滑油冷却器(以下「油冷却器」という。)、油こし器を通過して5.0キログラム毎平方センチメートルの圧力で潤滑油主管に至り、主軸受、クランクピン軸受及びピストン下方の架構に設置のピストン冷却油噴油金具などに分岐して各部の潤滑と冷却を行ったのち、オイルパンに戻る経路となっていた。
A受審人(昭和57年8月一級小型船舶操縦士免許取得)は、毎年1月から3月まで美代丸に船長として乗り組み、北海道羅臼漁港を基地としてすけとうだらの刺網漁業に従事し、その後は同船を係船させ、4月から12月までを自分の持船に乗り移って北海道宇登呂漁港を基地としてほっけ、かれいの刺網漁業に従事していたところ、平成13年4月に入り持船の機関が不調で修理手配中であったことから、美代丸に乗り組んだまま宇登呂漁港に回航して操業に従事した。
ところで、美代丸は、02時ごろ出漁して14時ごろ帰港する操業を繰り返し、約1箇月半ごとに主機潤滑油が新替えされていたが、就航以来、長期間運転されているうちに油冷却器の油路にスラッジが堆積するようになった。
平成13年6月19日美代丸は、漁場から帰航中、2番ピストンが焼き付き、その修理が行われて操業に復帰したところ、同月26日に5番ピストンが焼き付き、機関整備業者による調査の結果、いずれもピストン冷却油噴油金具がスラッジで目詰まりしていることが判明したので、全数の同噴油金具の取り外し掃除とオイルパンの掃除とが行われた。
このように、A受審人は、主機オイルパン掃除後もピストン冷却油噴油金具にスラッジが詰まる状況が再発しており、油冷却器などの潤滑油経路にスラッジが堆積しているおそれがあって、機関整備業者からも主機の開放整備を勧められていたが、漁期明けに整備を行えばよいと思い、同整備業者に依頼して、油冷却器の開放整備を十分に行うことなく、油こし器の掃除を1週間に2回実施してピストン焼付きで生じた金属片の回収に努め、同片の捕捉量が少なくなっているのを確かめながら、8月及び10月に潤滑油を新替えして操業を続けていたところ、油冷却器がスラッジの堆積により熱交換機能が徐々に低下する状況となった。
こうして、美代丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年10月19日02時00分宇登呂漁港を発し、03時20分同港北東方13海里沖合の漁場に至って操業を始め、09時30分操業を終えて漁場を発進し、主機を回転数毎分1,300にかけて帰航中、ピストン冷却油の温度上昇により、2番及び4番の両ピストンが冷却阻害となって膨張し、各シリンダライナに焼き付き、10時20分宇登呂灯台から真方位247度1.5海里の地点において、主機クランク室ミスト抜き管から多量の白煙を発するとともに、煙突から黒煙を発した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は平穏であった。
A受審人は、直ちに主機を止め、各部を調査したが不具合箇所が分からず、同航していた僚船に救助を求め、美代丸は、宇登呂漁港に引き付けられ、修理業者により主機の開放調査が行われた結果、前示損傷のほかクランク軸、シリンダライナ2個、クランクピン軸受2個及び連接棒3本に焼損などを生じていることが判明し、のち修理された。
(原因)
本件機関損傷は、主機オイルパン掃除後もピストン冷却油噴油金具にスラッジが詰まる状況が再発した際、潤滑油冷却器の開放整備が不十分で、同冷却器にスラッジが堆積したまま運転が続けられ、油温の上昇によりピストンの冷却が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機オイルパン掃除後もピストン冷却油噴油金具にスラッジが詰まる状況が再発した場合、潤滑油冷却器などの潤滑油経路にスラッジが堆積しているおそれがあったから、機関整備業者に依頼するなどして、同冷却器の開放整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、漁期明けに整備を行えばよいと思い、潤滑油冷却器の開放整備を十分に行わなかった職務上の過失により、同冷却器にスラッジが堆積したまま運転を続け、油温の上昇によるピストンの冷却阻害を招き、ピストン、クランク軸、シリンダライナ、クランクピン軸受及び連接棒を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。