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平成15年神審第116号
件名

貨物船山貴丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年4月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:山貴丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機直結潤滑油ポンプの主動と従動歯車及び側蓋の内面が損傷

原因
主機直結潤滑油ポンプの点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機直結潤滑油ポンプの点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月20日04時10分
 和歌山県樫野埼南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船山貴丸
総トン数 498トン
全長 74.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 山貴丸は、平成6年3月に進水し、主に鋼材の輸送に従事する全通二層甲板船尾機関型鋼船で、A受審人が機関長として、ほか4人と乗り組み、鋼材約1,527トンを積載し、船首3.32メートル船尾4.48メートルの喫水をもって、同15年2月18日20時30分尼崎西宮芦屋港に向け鹿島港を発した。
 主機は、B社が製造した、LH30LG型と称する4サイクル6シリンダ機関で、その前部にクランク軸から歯車を介して駆動される歯車式潤滑油ポンプ(以下「直結潤滑油ポンプ」という。)が取り付けられていた。
 主機システム油系統は、主機下部の二重底に区画されたサンプタンクに貯蔵の約3キロリットルの潤滑油が、吸入側こし器を経て直結潤滑油ポンプで吸引・加圧され、圧力約3キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧されて、同油冷却器及び吐出側こし器を経て入口主管に至り、主機各部を潤滑・冷却したのち、再び同タンクに戻る循環経路をなしており、それぞれ圧力2.1キロ及び1.5キロで作動する圧力低下警報装置及び危急停止装置が装備されていた。そして、同システム油系統には、直結潤滑油ポンプと並列に配管された電動の予備潤滑油ポンプが設けられていたが、その発停は手動でのみ可能で、当直者が圧力の著しい低下に気付かず、同ポンプが始動されなかった場合には、警報を発し、更に低下すると、主機を保護するため危急停止装置が作動するようになっていた。
 直結潤滑油ポンプは、C社が製造したF-34H型と称する歯車ポンプで、機械構造用炭素鋼製の主動軸に2個のはす歯歯車(以下「歯車」という。)が組み込まれ、同鋼製従動軸に組み込まれた同数の歯車とかみ合って回転することにより揚程を得るようになっており、側蓋に圧入された鉛青銅鋳物製軸受メタル(以下「軸受メタル」という。)により主動及び従動軸の各両端部が支持されていた。
 ところで、直結潤滑油ポンプは、平成12年11月山貴丸の第一種中間検査工事において開放され、各部の点検が行われて運転が再開されたが、いつしか軸受メタルの摩耗が進行して主動及び従動軸が互いに振れ回り、歯車の当たりが不均一になるとともに、歯車側面が側蓋内面に強く当たる状態で運転されるようになっていた。
 A受審人は、平成13年8月初めて山貴丸に一等機関士として乗船して以来、断続的に乗下船を繰り返し、機関長職又は一等機関士職をとっていた。そして、機関長として山貴丸に乗船してしばらくのちの同15年2月上旬、直結潤滑油ポンプの運転音に異常を感じ、その後次第に大きくなっていることを認めたが、システム油圧力に変化が現れていないので大丈夫と思い、速やかに主動及び従動軸の軸受メタルとの間隙を計測するなど、同ポンプの点検を行わなかった。
 こうして、山貴丸は、前記運転音が益々顕著となる状況の下、主機を回転数毎分255、システム油圧力約3キロの常用状態で運転していたところ、平成15年2月20日04時10分樫野埼灯台から真方位214度4.1海里の地点において、直結潤滑油ポンプの主動及び従動歯車並びに側蓋の内面が損傷し、同油圧力が急激に著しく低下したことにより、危急停止装置が作動し、主機が停止した。
 当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、海上は時化気味であった。
 山貴丸は、直結潤滑油ポンプが使用不能であることが判明したことから、予備潤滑油ポンプを運転してシステム油の供給を確保し、来援した巡視船などに伴走されながら、自力航行で尼崎西宮芦屋港に入港し、のち直結潤滑油ポンプが新替えされた。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機直結潤滑油ポンプの運転音が大きくなった際、同ポンプの点検が不十分で、その軸心が振れ回る状況のまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機直結潤滑油ポンプの運転音が大きくなったことを認めた場合、速やかに主動及び従動軸の軸受メタルとの間隙を計測するなど同ポンプの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、システム油圧力に変化が現れていないので大丈夫と思い、同ポンプの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、軸心が振れ回る状態のまま運転を続け、主動及び従動歯車並びに側蓋内面を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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