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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成16年横審第4号
件名

漁船第三石田丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年4月27日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(安藤周二)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:第三石田丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)

損害
主機6番シリンダ連接棒が損傷及び過給機タービンケーシング水冷壁に破孔

原因
主機の始動準備不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機の始動準備が不十分で、主機過給機から漏洩した冷却清水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月21日19時00分
 茨城県波崎漁港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三石田丸
総トン数 101トン
全長 38.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,007キロワット
回転数 毎分670

3 事実の経過
 第三石田丸(以下「石田丸」という。)は、昭和60年6月に進水した、まき網漁業船団の魚群探索業務に従事する鋼製漁船で、主機としてB社が製造したT260-ET2型と呼称する、間接冷却方式のディーゼル機関を備え、架構船尾側上部には排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)が付設されていた。
 過給機は、C社製造のVTR251-2型で、軸流式タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸、排気入口ケーシング、タービンケーシング及びブロワケーシング等により構成され、排気入口及びタービンの両ケーシングにそれぞれ冷却清水ジャケットが設けられており、主機の排気が各シリンダのシリンダヘッドから排気マニホルドを経て排気入口ケーシングに導かれていた。
 主機の冷却清水系統は、清水冷却器と上甲板に置かれた清水膨張タンクとの間の連絡管に直結駆動式冷却清水ポンプの吸引管が接続されていて、同ポンプによって加圧された冷却清水が入口主管に入り、過給機、各シリンダのシリンダブロック及びシリンダヘッド等に分岐して送られ、各部を冷却したのち出口主管及び清水冷却器を経て吸引管に戻り循環する経路になっていた。
 ところで、主機は、空気始動方式であり、取扱説明書には冷却清水等が漏洩(ろうえい)して燃焼室に浸入する事態に備えるため、始動準備として、電動式補助潤滑油ポンプの運転によって潤滑油をプライミングのうえ、インジケータ弁を開いたままターニング及びエアランニングを行い、同弁から排出される漏水等の有無を確かめることが記載されていた。
 A受審人は、平成7年1月石田丸に機関長として乗り組み、平素、主機の始動準備の際に潤滑油をプライミングのうえ、エアランニングだけを行っていた。
 石田丸は、同15年4月末以降、売買契約の都合により無人のまま、船首1.4メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、銚子港一ノ島灯台から真方位279度1,200メートルの地点の茨城県波崎漁港岸壁に係留中、いつしか過給機のタービンケーシング水冷壁に経年腐食による微小な破孔が生じ、冷却清水が排気入口ケーシングへ少しずつ漏洩していた。
 A受審人は、10日ないし15日ごとに主機を停止回転の回転数毎分400にかけて保守運転を行っているうち、翌5月21日夜出漁することになり、同日朝エアランニングによる始動準備を行って1時間ばかり停止回転で運転した後、過給機のタービンケーシング水冷壁に生じていた破孔から漏洩した冷却清水が排気入口ケーシング及び主機の排気マニホルドを伝わり、排気弁の開いていた船尾側6番シリンダの燃焼室に浸入してピストン頂部に滞留したが、出漁前に同機を始動する際、半日前に運転したから始動には支障ないものと思い、インジケータ弁から排出される漏水等の有無を確かめるよう、ターニング及びエアランニングなどの始動準備を十分に行うことなく、始動操作を行ったところ、19時00分前示係留地点において、同シリンダの燃焼室に浸入していた冷却清水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃され、水撃作用により連接棒が曲損し、始動ができなくなった。
 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 石田丸は、出漁を取りやめた後、主機が精査された結果、6番シリンダ連接棒の損傷のほか、過給機タービンケーシング水冷壁に生じた破孔が判明し、損傷部品が取り替えられた。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機の始動準備が不十分で、過給機タービンケーシング水冷壁に生じていた経年腐食による破孔から漏洩した冷却清水が燃焼室に浸入してピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、出漁前に主機を始動する場合、冷却清水等が漏洩して燃焼室に浸入することがあるから、インジケータ弁から排出される漏水等の有無を確かめるよう、ターニング及びエアランニングなどの始動準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、半日前に運転したから始動には支障ないものと思い、ターニング及びエアランニングなどの始動準備を十分に行わなかった職務上の過失により、過給機タービンケーシング水冷壁に生じていた経年腐食による破孔から漏洩した冷却清水が燃焼室に浸入してピストン頂部に滞留したまま、始動操作を行ったところ、同冷却清水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されて水撃作用を招き、連接棒を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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