(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月30日22時30分
北海道釧路港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三大徳丸 |
総トン数 |
39トン |
登録長 |
21.40メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル12シリンダ・V型ディーゼル機関 |
出力 |
956キロワット |
回転数 |
毎分1,600 |
3 事実の経過
第三大徳丸(以下「大徳丸」という。)は、昭和53年5月に進水した、さんま棒受網漁業及びはえなわ(かにかご)漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてC社が製造したS12R-MTK型と称するディーゼル機関を備えていた。
主機は、平成10年7月出力増大を図るため新たに換装されたもので、A重油を燃料とし、各シリンダには、船首側から順に、左舷列に1番ないし6番、右舷列に7番ないし12番の順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の標準油量150リットルのオイルパンから直結の潤滑油ポンプにより吸引された潤滑油が、油冷却器、油こし器を通過して6.5キログラム毎平方センチメートルの圧力で潤滑油主管に至り、主軸受及びクランクピン軸受などの潤滑各部に導かれたのちオイルパンに戻る経路で循環をしていた。
大徳丸は、毎年8月から12月までを北海道釧路港沖合及び三陸沖合においてさんま棒受網漁に、12月から翌年4月までを福島県沖合においてべにずわいがに漁に従事し、5月以降の休漁期に船体や機関の整備が行われていた。
ところで、主機の潤滑油は、燃焼ガスに接したり高温に曝されたりして、燃焼生成物や炭化物などのスラッジが油中に生成され、長時間使用を続けていると、スラッジが増えて軸受などに潤滑阻害を招くおそれがあり、機関メーカーでは、運転時間が250時間に達するごとにオイルパンの潤滑油を新替えするよう、機関取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。
A受審人は、平成8年12月に大徳丸に機関長として乗り組み、機関の保守運転管理に当たり、現装主機に換装後、潤滑油の新替えについては、以前に乗船していた船で1,000時間ごとに行っていたことから、同じ周期で新替えすればよいと思い、機関取扱説明書に記載の所定の運転時間で新替えして、潤滑油の性状管理を十分に行うことなく、約1,000時間の長時間使用後に新替えしていたので、油中のスラッジが著しく増え、経年とともに、スラッジがクランク室内壁や潤滑油路に付着するようになって、潤滑油の汚損が更に進行する状況となったが、このことに気付かないまま運転を続けていた。
こうして、大徳丸は、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成14年9月30日12時00分釧路港を発し、18時30分同港南東方沖合約60海里の漁場に至って操業を始め、主機を回転数毎分1,200として漁場を移動中、1番及び7番クランクピン軸受がスラッジを噛み込んで潤滑阻害を起こし、両軸受が焼き付いて溶け始め、1番及び7番ピストン頂部が吸・排気弁と接触するようになり、22時30分厚岸灯台から真方位147度40.8海里の地点において、主機クランク室ミスト抜き管から異臭を発した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は平穏であった。
折から、甲板上で漁労作業に当たっていたA受審人は、操船中の船長から異臭がすることを伝えられ、機関室に急行したところ、主機の前部からゴツンゴツンという叩音を発しているのを聞き直ちに主機を止め、クランク室を点検し、1番及び7番クランクピン軸受が焼き付いているのを認め、主機の運転を断念した。
航行不能となった大徳丸は、付近海域で操業中の僚船に救援を求め、釧路港に引き付けられたのち、機関メーカー技師の指導の下、主機の開放調査が行われた結果、1番及び7番クランクピン軸受、クランク軸及び連接棒2個に焼損を、残り全数のクランクピン軸受にスラッジの埋没とかじり傷を、ピストン2個及びシリンダライナ2個に打ち傷を生じていることなどが判明し、いずれも新替えされた。
(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分で、油中のスラッジが著しく増えた状態で運転が続けられ、クランクピン軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関の保守運転管理に当たる場合、主機潤滑油を長時間使用していると、スラッジが増えて軸受などの潤滑阻害を招くおそれがあったから、機関取扱説明書に記載の所定の運転時間で新替えして、潤滑油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、以前に乗船していた船と同じ周期で新替えすればよいと思い、機関取扱説明書に記載の所定の運転時間で新替えして、潤滑油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、同油の汚損が進行し、操業中、クランクピン軸受にスラッジを噛み込んで潤滑阻害を招き、同軸受、クランク軸及び連接棒に焼損を、ピストン及びシリンダライナに打ち傷などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。