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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年函審第48号
件名

漁船第六十七永昌丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年4月16日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、古川隆一)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第六十七永昌丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機5番ピストン及びシリンダライナが焼損、ピストンが固着、のち連接棒も新替え

原因
主機シリンダライナ新替え後の摺り合わせ運転不適切

主文

 本件機関損傷は、主機シリンダライナ新替え後の摺り合わせ運転が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月24日14時15分
 襟裳岬東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十七永昌丸
総トン数 164トン
登録長 31.82メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,618キロワット
回転数 毎分770

3 事実の経過
 第六十七永昌丸(以下「永昌丸」という。)は、昭和55年5月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を有し、主機として、平成3年7月換装のB社が製造した6MG28CX型と称するディーゼル機関を備え、クラッチ付き減速機を介してプロペラ軸と連結し、主機の各シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
 永昌丸は、毎年9月から翌年5月までを操業期間とし、6月から8月までの休漁期間に船体と機関の整備を行い、主機が年間3,000時間ばかり運転されていた。
 A受審人は、昭和50年6月C社所属の底びき網漁船に機関部員として乗り組み、平成7年7月一等機関士として永昌丸に配乗され、同9年7月機関長に昇職して機関の保守運転管理に従事し、機関の常用出力については、主機回転数を毎分720、CPP翼角を18度とし、主機燃料ハンドルが最大目盛位置となる状態で運転していた。
 A受審人は、平成13年6月の中間検査工事の際、主機シリンダライナの摩耗が進んでいることが分かり、当面6番シリンダライナのみを手持ちの予備品と取り替え、翌14年6月の定期整備工事において、地元の鉄工所に依頼して、残りの1番ないし5番シリンダライナを新替えし、9月の操業開始に備えて、引き続き摺り合わせ運転を行うこととした。
 ところで、主機の摺り合わせ運転は、シリンダライナなどの主要な摺動部品を新替えしたとき、摺動面に初期なじみを得る目的で行うもので、同運転を行う際、無負荷運転を長時間続けても摺動面の摩耗が少なくてなじみが得られず、一方、早期になじみを得るため急激な高負荷運転を続けると、摺動面で激しい金属接触を起こしてかじり傷を生じることがあり、機関メーカーでは、摺り合わせ運転の要領を、無負荷運転を1時間以上行ってから段階的に負荷を増やし、25パーセント負荷で30分、50パーセント負荷で1時間半、75パーセント負荷で3時間それぞれ運転したのち、全負荷運転を行うことと定め、これを機関取扱説明書に明記して取扱者に注意を促していた。
 A受審人は、主機の摺り合わせ運転を行うに当たり、無負荷運転を長時間行えばよいと思い、負荷運転要領を機関取扱説明書で確かめるなどして、摺り合わせ運転を適切に行うことなく、クラッチを脱として無負荷運転を16時間続け、次いで航走しながら主機回転数及びCPP翼角を段階的に上げて、25パーセント、50パーセント及び75パーセントの各負荷運転をいずれも30分行ったのみで、負荷運転の時間が少なかったため、ピストンリングとシリンダライナの摺動面に十分ななじみが得られないまま、主機回転数を毎分700、CPP翼角を18度の高負荷運転としたところ、5番シリンダの摺動面が激しい金属接触を起こしてかじり傷を生じ始めたが、そのまま3時間ばかり運転を続けて定期整備工事を終え、休漁期間が明けるのを待った。
 同年9月1日永昌丸は、操業開始となり主機の運転が続けられたところ、5番シリンダライナのかじり傷が徐々に拡大する状況となったが、金属粉が大量に発生するまでには至らず、7日に行われた潤滑油こし器の開放点検で格別の異状もなく、また、14日に行われたシリンダライナ下部の点検でも目視できる範囲では異状が認められなかった。
 こうして、永昌丸は、A受審人ほか12人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同14年9月23日22時00分北海道釧路港を発し、翌24日05時ごろ襟裳岬東方沖合の漁場に至って操業を始め、すけとうだら約70トンを獲て、14時00分漁場を発進し、主機回転数を毎分720、CPP翼角を18度の全速力前進として釧路港に向け帰航の途、14時15分襟裳岬灯台から真方位098度23.5海里の地点において、主機5番シリンダライナのかじり傷が急速に進行して摺動面に異常摩耗を起こし、燃焼ガスがクランク室に吹き抜け、クランク室の安全弁が作動し、オイルミストが噴出した。
 当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、海上はやや波立っていた。
 折から甲板上で魚の選別作業をしていたA受審人は、機関室入口付近でオイルミストの白煙に気付いた司厨員から通報を受け、機関室に急行したところ、同室内にオイルミストが充満しており、手探りで主機の回転を下げたのち、船橋当直者に連絡して主機を停止させ、ターニングを試みたが重くて回らず、クランク室を調査した結果、5番ピストンが焼き付いているのを認めた。
 航行不能となった永昌丸は、付近を航行中の僚船により釧路港に引き付けられ、機関メーカーの技師による主機の開放調査の結果、5番のピストン及びシリンダライナが焼損していることが判明したが、ピストンが固着して抜き出すことができず、連接棒も新替えされた。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機シリンダライナ新替え後の摺り合わせ運転が不適切で、ピストンリングとシリンダライナの摺動面に十分ななじみが得られないうちに高負荷運転が続けられ、摺動面がかじり傷を生じて異常摩耗したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機シリンダライナを新替え後、摺り合わせ運転を行う場合、負荷運転の時間が少ないと、ピストンリングとシリンダライナの摺動面に十分ななじみが得られないことがあるから、負荷運転要領を機関取扱説明書で確かめるなどして、摺り合わせ運転を適切に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、無負荷運転を長時間行えばよいと思い、負荷運転要領を機関取扱説明書で確かめるなどして、摺り合わせ運転を適切に行わなかった職務上の過失により、負荷運転の時間が少なくて、摺動面に十分ななじみが得られないうちに高負荷運転とし、摺動面がかじり傷を生じて異常摩耗する事態を招き、ピストン及びシリンダライナを焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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