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平成15年函審第63号
件名

漁船第二十八大忠丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成16年5月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志、岸 良彬、古川隆一)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第二十八大忠丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第二十八大忠丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)
C 職名:第二十八大忠丸次席一等機関士 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
シャワー室、通路などが焼損、シャワー室外板が曲損

原因
防火管理(熱風乾燥器の取扱い)不適切

主文

 本件火災は、熱風乾燥器の取扱いが不適切で、同器が過熱し、熱風乾燥器の上に置かれた可燃物に着火したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月20日17時27分
 北海道稚内港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八大忠丸
総トン数 160トン
全長 38.12メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット

3 事実の経過
 第二十八大忠丸(以下「大忠丸」という。)は、平成元年12月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する全通二層甲板を備えた船首船橋型鋼製漁船で、上甲板の下層が第二甲板となり、第二甲板の中央前寄りに漁獲物処理場、その後方に機関室囲壁を配し、船尾部には、賄室、食堂、船員室及び舵機室などを設け、また機関室囲壁の左舷側に沿った通路を挟んで前方から順に油圧クーラースペース、上甲板へ通ずる階段、潤滑油セットリングタンク、シャワー室、軸流ファン室及び休憩室を配列していた。
 シャワー室は、長さ1.5メートル幅1.6メートル高さ1.8メートルで、シャワーミキシングバルブのほか、熱風乾燥器が通路壁面船首寄りの中間ほどの高さに設置され、専ら作業服などの乾燥室として使用されていた。また、通路への出入口戸は就航後間もなく取り外され、開放されたままとなっていた。
 熱風乾燥器は、ヒーター容量1.8キロワット電源電圧三相交流220ボルトのもので、大きさが幅375ミリメートル(以下「ミリ」という。)奥行き160ミリ高さ225ミリの金属製ケースにヒーター6本と送風機1個が納められ、発熱させたヒーターに空気を当てて前面の吹き出し口から熱風を発生させる機構となっており、電源スイッチ(以下、熱風乾燥器本体の電源スイッチを「本体スイッチ」という。)が吹き出し口の下方に備えられていた。また、同様な機構の電気ストーブが操舵室や居室などにも設置されていた。
 ところで、熱風乾燥器は、風量が減少したりするとヒーターが赤熱されて同器が過熱するおそれがあるので、運転するときには周囲の状態を確認したうえで本体スイッチを入れるようにするほか、可燃物を熱風乾燥器の上に置いたり、前面に過度に近付けたりすることのないよう、取扱いを適切に行う必要があった。
 大忠丸は、周年、毎日00時ごろ稚内港を出港し、20時ないし22時に帰港して水揚げする操業形態で、休日前など全乗組員が上陸するときに無電源とし、休日後の出港日に、機関部の乗組員1人が出港5時間ほど前に帰船し、補機を始動したのち主配電盤の気中遮断機を入れて電源を復帰させていたが、電源を復帰させる際、熱風乾燥器を含め、船内に備えた各種機器のスイッチの状態を全て確認することは、その数が多いことから困難であった。
 A受審人は、平成11年5月船長として乗り組み、乗組員に対して安全に関する教育及び危険な状態が発生するおそれのある場合の適当な防止措置などを行う安全担当者に選任されており、熱風乾燥器については、その風量が減少して同器が過熱すると、付近の可燃物に着火するおそれがあったが、各自が注意すればよいものと考え、平素、乗組員に対し、大忠丸を無電源として無人状態とする際、電源が復帰されたとき、熱風乾燥器が可燃物などで熱風吹き出し口が塞がれたまま運転されることのないように、本体スイッチを切ることや可燃物を同器の上に置かないことなど、熱風乾燥器の取扱いを適切に行うよう指示していなかった。
 大忠丸は、A、B及びC各受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、船首1.7メートル船尾5.1メートルの喫水をもって、平成15年2月19日23時55分稚内港を出港したが、間もなく荒天のため同港に引き返し、翌20日00時15分稚内港第2副港防波堤灯台から真方位211度425メートルの地点の第1副港岸壁に左舷付けで係留した。
 B受審人は、00時30分主機及び補機を停止し、無電源として無人状態とする際、本体スイッチを入れたままであることを知っていたが、入れたままでも大丈夫と思い、同スイッチを切ることなく離船した。
 17時10分C受審人は、出港準備のため帰船し、機関室で補機を始動したのち、電源を復帰させた。
 こうして、大忠丸は、熱風乾燥器が運転され、同器前面に垂れるような状態でその上に置かれた作業手袋により熱風吹き出し口が塞がれたかして風量が減じられ、熱風乾燥器が過熱し、17時27分前示係留地点において、同器上の作業手袋が熱せられて着火し、周囲に燃え移って火災となった。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、港内は穏やかであった。
 C受審人は、食堂で待機中、通路の戸から煙が侵入していることに気付き、戸を開けたところ、既に黒煙が充満し、シャワー室から出火していることを認め、一旦船外に逃れ、近くの商事会社事務所から借りた消火器により消火を試みたが、火勢が強くて自力で消すことができず、間もなく通報により駆けつけた消防車の消火作業により、18時35分大忠丸は、鎮火した。
 この結果、大忠丸は、シャワー室、通路などが焼損したほか、シャワー室外板が熱せられて曲損したが、のち修理された。 

(原因)
 本件火災は、北海道稚内港において、係留中、無電源として無人状態とする際、熱風乾燥器の取扱いが不適切で、電源が復帰されたとき、同器本体の電源スイッチが入れられたままとなっていた熱風乾燥器が運転され、作業手袋により熱風吹き出し口が塞がれたかして風量が減じられ、同器が過熱して作業手袋に着火し、周囲に燃え移ったことによって発生したものである。
 防火管理が適切でなかったのは、安全担当者である船長が、乗組員に対し、船舶を無人状態とする際、熱風乾燥器本体の電源スイッチを切ることや可燃物を同器の上に置かないことなど、熱風乾燥器の取扱いを適切に行うよう指示しなかったことと、乗組員が、船舶を無人状態とする際、同スイッチを切らなかったこととによるものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、熱風乾燥器に対する防火管理に当たる場合、係留中、無電源として無人状態とし、電源が復帰されたとき、同器の風量が減じられた状態で運転されると、熱風乾燥器が過熱するおそれがあったから、乗組員に対し、同器本体の電源スイッチを切ることや可燃物を熱風乾燥器の上に置かないことなど、同器の取扱いを適切に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、各自が注意すればよいものと考え、乗組員に対し、熱風乾燥器の取扱いを適切に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同器が過熱してその上に置かれた作業手袋に着火し、周囲に燃え移って火災を発生させる事態を招き、大忠丸のシャワー室、通路などを焼損させ、シャワー室外板を曲損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、北海道稚内港において、係留中、無電源として無人状態とする場合、電源が復帰されたとき、熱風乾燥器の風量が減じられた状態で運転されると、同器が過熱するおそれがあったから、熱風乾燥器本体の電源スイッチを切るべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、熱風乾燥器本体の電源スイッチを入れたままでも大丈夫と思い、同スイッチを切らなかった職務上の過失により、熱風乾燥器が過熱してその上に置かれた作業手袋に着火し、周囲に燃え移って火災を発生させる事態を招き、大忠丸に前示の焼損などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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