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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成16年門審第33号
件名

プレジャーボート勝丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成16年6月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船体の上部構造物が大破、GPSと魚群探知機を流失及び船外機に濡損

原因
気象情報の入手不十分

裁決主文

 本件転覆は、気象情報の入手が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月11日12時55分
 宮崎県都農漁港沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート勝丸
登録長 6.17メートル
1.77メートル
深さ 0.75メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 36キロワット

3 事実の経過
 勝丸は、船体中央船尾寄りに操縦場所が配置されたFRP製プレジャーボートで、平成13年6月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、実弟1人を同乗させてそれぞれ救命胴衣を着用し、魚釣りの目的で、船首尾とも0.20メートルの等喫水をもって、平成16年1月11日12時20分宮崎県都農漁港を発し、同漁港南方約1,500メートルにある名貫川河口の東方沖合約1,500メートルで水深約14メートルの釣場に向かった。
 なお、前日10日宮崎県北部平野部に強風、波浪両注意報が同時に発表され、翌11日04時30分に両注意報が継続発表されていた。
 ところで、都農漁港は、日向灘に面して北方に開口し、東側には、その北端部に都農港南防波堤灯台(以下「都農灯台」という。)が設置されている南防波堤が、北側には北防波堤が、港内には複数の内防波堤が、及び開口部の北東方沖合には沖防波堤がそれぞれ築造され、港内への波浪の進入を抑えていた。
 都農漁港周辺の海域は、都農灯台と名貫川河口との間の陸岸にほぼ平行に、干出岩を含む水深2メートル以浅の浅所(以下「浅所」という。)が陸岸から東方沖合約150メートルまで拡延しており、5メートル及び10メートルの各等深線が同沖合約800メートル及び約1,000メートルにそれぞれ陸岸にほぼ平行に存在していた。このため、同海域は、日向灘から浅所に打ち寄せる波浪が、浅水変形などの性質により、急激に波長が短くなって波高が増大し、やがて砕波する波浪(以下「磯波」という。)に変化することが多く、磯波が発生しやすい場所になっていた。
 A受審人は、地元の漁師から都農漁港付近の浅所が磯波の発生しやすい海底地形を呈する場所であることを聞いたことがあり、自らもこれまでに沖合で波高の高い波浪が認められないときでも、同浅所で磯波が発生しているのを見たこともあり、同漁港付近を航行する際には、磯波の危険性に注意する必要があることを知っていた。このため、同人は、平素、発航前には、自宅近くの名貫川河口に出て沖合の波浪状況を観察するほか、新聞やテレビの天気予報により強風、波浪注意報が発表されているときには発航を中止するなど、気象情報を得て発航の可否を判断していた。
 A受審人は、当日、同乗者が久しぶりに自宅に来訪して急に2人で釣りに出かけることを思い立ったことから、新聞やテレビの天気予報を見ずに発航地に向かい、発航に先立って前示河口での波浪状況の観察を行わなかった代わりに、南防波堤基部に立って同状況を観察したところ、東北東方からの波浪が打ち寄せており、浅所に白波を認めたものの、沖合には白波を認めなかったことから、浅所を避ければ安全に航行できるものと思い、強風、波浪注意報の発表の有無を確認するなど、気象情報を十分に入手することなく、注意報が発表されていることを知らないまま、発航に至った。
 こうして、A受審人は、発航後、南防波堤を替わってから浅所を避けるように大回りで右回頭しているとき、波高が高いと感じて続航するか引き返すか迷ったが、その後前示釣場に向かって南下したものの、同釣場付近に至るころになって帰途に不安を感じたことから、魚釣りを行わずに帰航することとし、12時40分風上に向かって左回頭を始めた。
 12時41分A受審人は、都農灯台から142度(真方位、以下同じ。)1,850メートルの地点で、船首を006度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの北東風と東北東方からの波高約1.5メートルの波浪とを右舷船首に受けて左方に40度圧流されながら、3.5ノットの対地速力で進行した。
 12時55分少し前A受審人は、浅所を避けるように針路を右方にとろうとしたが、風波に抗する操縦ができないまま同じ針路、対地速力で浅所に接近したとき、右舷前方に突然2波連続して高起した波高約2.5メートルの磯波を認め、同波をやり過ごしてから針路を東方に向けて沖出しすることとして急いで機関を停止したところ、第1波の峰を乗り越えた直後に右舷正横方から第2波を受け、船体が持ち上げられながら左舷側に大傾斜し、12時55分都農灯台から124度360メートルの地点において、原針路のまま、復原力を喪失して左舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風力5の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期に当たり、宮崎県北部平野部に強風、波浪注意報が発表され、日向灘沿岸域に卓越波向東北東、卓越周期3.5秒及び有義波高1.0メートルの波浪が陸岸に寄せていた。
 転覆の結果、勝丸は、浅所に打ち寄せられて船体の上部構造物が大破し、GPSと魚群探知機を流失して船外機に濡れ損を生じ、のち修理の予定が立たないままA受審人の自宅に保管された。 

(原因)
 本件転覆は、磯波が発生しやすい宮崎県都農漁港沖合において、魚釣りの目的で同漁港を発航するに当たり、気象情報の入手が不十分で、強風、波浪注意報が発表されている状況下に発航し、帰航のため同漁港に向けて北上中、高起した磯波に遭遇して大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、磯波が発生しやすい宮崎県都農漁港沖合において、強風、波浪注意報が発表されている状況下、魚釣りの目的で同漁港を発航する場合、沖合で波高の高い波浪が認められないときでも、波向東北東の波浪が、同漁港南方の陸岸から東方に拡延する浅所に打ち寄せると、高起した磯波の発生しやすいことを知っていたのであるから、出入航時に同波に遭遇することのないよう、テレビや新聞の天気予報などにより強風、波浪注意報の発表の有無を確認するなど、気象情報を十分に入手するべき注意義務があった。ところが、同受審人は、浅所に白波を認めたものの、沖合には白波を認めなかったことから、浅所を避ければ安全に航行できるものと思い、気象情報を十分に入手しなかった職務上の過失により、注意報が発表されていることを知らないまま発航し、帰途に不安を感じたことから、魚釣りも行わずに帰航のため同漁港に向けて北上中、高起した磯波に遭遇して大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、GPSと魚群探知機の流失、船外機の濡れ損及び船体の上部構造物に大破を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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