(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年12月7日11時20分
明石海峡北部舞子漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートピッシーズIII |
全長 |
3.30メートル |
幅 |
1.52メートル |
深さ |
0.57メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
4キロワット |
3 事実の経過
ピッシーズIII(以下「ピ号」という。)は、最大搭載人員3人の船外機付きFRP製プレジャーボートで、平成13年3月19日交付の四級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.10メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、平成15年12月7日06時50分兵庫県舞子漁港を発し、1海里西北西方の大蔵海岸南方沖合の釣り場に向かった。
ところで、ピ号は、株式会社B製のH-330Sと称する、重量54キログラムの一体成型で、船首部に空気室、船体中央部に座席を兼ねた備え付けの生け簀、船尾部に後部座席とその両側にある空気室とからなり、沈みにくい構造となっていたが、専ら陸岸近くで魚釣りを楽しむための小船で、波が高まると容易に転覆するおそれがあった。
A受審人は、3年ほど前から大蔵海岸及び舞子漁港南方沖合に、年間あたり約50回魚釣りに出掛け、近隣の漁師から、同漁港防波堤の南方沖合200メートルでは、西風が強吹すると、吹走距離が長く、潮流の影響も加わり波頭が高まった波と、防波堤に反射した北西方からの返し波とにより、複雑に高起する波浪(以下「波浪」という。)となることを聞いており、西風が強まったときは、魚釣りを続けると危険であることを知っていた。
A受審人は、前日6日夜の天気予報で、神戸海洋気象台が、兵庫県南部地域に強風波浪注意報を発表し、7日午前中に寒冷前線が通過して西又は北西の風が強まり、波高が1.5メートルほどになるとの気象情報を入手していた。
07時00分A受審人は、播磨垂水港南防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から294度(真方位、以下同じ。)2.4海里で大蔵海岸南西方沖合300メートル水深20メートルの釣り場に至り、北寄りの風が吹き、波高が50センチメートル程度であることを認め、同乗者を中央部座席に座らせ、自身が右舷船尾の座席に座わって、漂泊して魚釣りを開始した。
A受審人は、折からの西へ流れる潮流に小刻みに潮上りを繰り返し、更に釣り場を変えるため1時間ごとに東方に移動して10時00分東灯台から295度1.8海里の地点で、風向きが変わって西風となり、舞子漁港防波堤沖合では、風勢が増大し、波浪が発生し始める状況となって、航行中に転覆するおそれがあったが、舷側を大きく越える高さではなかったので、この程度の波浪であれば大丈夫と思い、波浪の危険性に対する配慮を行うことなく、速やかに帰港しないで、魚釣りを続けた。
11時ころA受審人は、西風が次第に強くなって、波が高くなったことから、危険を感じて帰港することとし、同時15分前示地点を発進し、波浪域を避けて沖側から迂回するつもりで、針路を134度に定め、機関を微速力前進にかけ、5.4ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
11時18分A受審人は、東灯台から291度1.5海里の地点に達し、針路を舞子漁港に向けるため左に転じたとき、1メートルに達する西南西方からの波浪により船体が大きく揺られたので、スロットルを前進と中立との交互にかけ、波浪模様に注意を払って速力を調整しながら2.0ノットの速力で続航中、11時20分東灯台から296度1.5海里の地点において、その船首が発進地点を向いて、針路が000度となったとき、左舷後方から1.5メートルに達する高起した波により船尾が大きく押し上げられ、ピ号は、一瞬のうちに右舷前方に大傾斜して転覆した。
当時、天候は晴で風力4の西風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、付近には1ノットの東流があった。
転覆の結果、ピ号は、船外機に濡損(ぬれそん)を生じたが、のち修理された。また、A受審人と同乗者は、救命胴衣を着用したまま海中に投げ出され、同乗者は、来援したプレジャーボートによって救助され、同受審人は、近くを通りかかった小型タンカーに救助された。
(原因)
本件転覆は、明石海峡北部舞子漁港南方沖合において魚釣り中、風向が北から西寄りに変わり、同漁港防波堤南方沖合で、風勢が次第に増大し、波浪が発生し始める状況となった際、舞子漁港防波堤南方沖合で発生する波浪の危険性に対する配慮が不十分で、魚釣りを中止し、速やかに帰港しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、明石海峡北部舞子漁港南方沖合において魚釣り中、風向が北から西寄りに変わり、舞子漁港防波堤沖合で、風勢が増大し、波浪が発生し始める状況となった場合、同防波堤沖合では、西風が吹くとき、波浪が高起し危険であることを知っていたのであるから、魚釣りを中止して速やかに帰港できるよう波浪に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、舷側を大きく越える高さではなかったので、この程度の波浪であれば大丈夫と思い、波浪に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、帰港中に左舷後方から高起した波によりピ号の転覆を招き、船外機に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。