(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年12月9日11時38分
長崎県瀬戸港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船さざなみ |
総トン数 |
0.4トン |
全長 |
4.82メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
22キロワット |
3 事実の経過
さざなみは、一本釣り漁業に従事する船外機を備えたFRP製漁船で、四級小型船舶操縦士免許(平成9年12月18日取得)を有するA受審人が1人で乗り組み、両親と弟を乗せ、買物の目的で、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、平成15年12月9日09時10分寺島橋橋梁灯(C1灯)(以下、橋梁灯については「寺島橋」を省略する。)から050度(真方位、以下同じ。)310メートルの地点にあたる、長崎県寺島西岸の定係地を発し、09時20分ごろ橋梁灯(C1灯)から253.5度1,400メートルの地点にあたる、同県大島南岸の桟橋に着桟して燃料約10リットルを積み込んだのち、09時40分同桟橋を離桟して長崎県瀬戸港に向かった。
A受審人は、松島水道に向けて陸岸沿いに南下し、10時20分瀬戸港北防波堤南灯台(以下「防波堤南灯台」という。)から020度800メートルの地点にあたる、瀬戸港内北側にある桟橋に着桟したのち、同時45分同灯台から141度740メートルの地点にあたる同港内南側の桟橋に移動し、それぞれ近くのショッピングセンターなどで買物をし、11時30分ごろ40キログラム(以下「キロ」という。)入りの米2袋と、サラダオイルや食品など約15キロの買物を終え、定係地に帰航することとした。
ところで、さざなみは、定員が4人で、船首端から船尾方約1メートルまでの船首部に船底から高さ約60センチメートル(以下「センチ」という。)の、船尾端から船首方約80センチまでの船尾部に船底から高さ約45センチの物入れがそれぞれ設けられ、船尾の物入れは中央部で左右に仕切られ、船首物入れに1個、船尾物入れに2個のさぶたがかぶせられていた。また、船体中央部には、幅約50センチ長さ約1メートルで、中央部で前後に仕切られた深さ約35センチのいけすが設けられて2個のさぶたがかぶせられていたが、いけすに注水しないまま物入れとして使用され、前部のいけすには予備のロープが収納されていたものの後部は空の状態で、船首尾の各物入れといけす以外の箇所には、船底から約30センチの高さに甲板が張られていた。
A受審人は、船首のさぶたに父を、前部いけすのさぶたに母を、そして、後部いけすのさぶたに弟をそれぞれ座らせ、サラダオイルや食品などを船首部の物入れに収納して米2袋を前部甲板上に積み、自らは船尾物入れ左舷側のさぶたに腰をかけた状態で発航することにしたが、航行中、船体が大きく横揺れすると積荷の米袋が片舷に移動し、大傾斜を生じて海水が流入し、復原力を喪失するおそれがあった。しかしながら、同人は、風が弱く海上も穏やかなので大きく横揺れすることはあるまいと思い、積荷を後部の空のいけすに収納するなど、発航前の積荷の移動防止措置を十分に行うことなく、11時34分瀬戸港内南側の桟橋を発し、定係地に向け帰途についた。
発航したのち、A受審人は、自ら操舵操船に当たり、11時34分半防波堤南灯台から139.5度670メートルの地点に達したとき、針路を323度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.2ノットの対地速力で瀬戸港内を北上した。
定針して間もなく、A受審人は、船首方から入航してくる漁船を認めてこれを右舷側に替わすことにし、11時35分半少し前防波堤南灯台から138度500メートルの地点で、針路を318度に転じて続航中、11時36分同漁船を右舷側に約5メートル離して航過した直後に航走波を右舷前方から受け、防波堤南灯台から138度370メートルの地点で船体が左舷側に大きく横揺れしたとき、甲板上の積荷が左舷側に移動して約30度の傾斜を生じ、同時に船体が縦揺れしてプロペラが空転したのち船外機が停止した。
A受審人は、落水しないよう船体をつかんだまま傾斜した船内でどうすることもできないで停留しているうちに、繰り返す横揺れによって海水が左舷側から徐々に船内に流入し、やがて復原力を喪失し、さざなみは、11時38分船首をほぼ318度に向け、前示地点において左舷側に転覆した。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
転覆の結果、さざなみは、さぶた5枚を流失して船外機に濡損を生じたが、付近を航行中の漁船によって発航地点の桟橋に引き付けられ、A受審人ほか同乗者全員が同漁船に救助された。
(原因)
本件転覆は、長崎県瀬戸港において、買物を終えて定係地に向け発航する際、積荷の移動防止措置が不十分で、通航船の航走波を受けて船体が大きく横揺れしたとき、甲板上の積荷が片舷に移動して船体が大傾斜し、舷側から海水が流入して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県瀬戸港での買物を終え、定係地に向け発航する場合、船体の横揺れによって積荷が移動することのないよう、物入れに収納するなど、積荷の移動防止措置を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、風が弱く海上も穏やかなので大きく横揺れすることはあるまいと思い、積荷の移動防止措置を十分に行わなかった職務上の過失により、通航船の航走波を受けて船体が大きく横揺れしたとき、甲板上の積荷が片舷に移動し船体を大傾斜させて転覆を招き、さぶたの流失及び船外機に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。