(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月23日13時10分
沖縄県久高島カベール岬沖
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートユウリンII |
総トン数 |
0.6トン |
全長 |
4.55メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
89キロワット |
3 事実の経過
ユウリンIIは、幅1.79メートル、深さ0.86メートル、最大とう載人員4人のジェット推進装置を装備したFRP製プレジャーボートで、平成14年8月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、B指定海難関係人ほか1人を同乗させ、沖縄県久高島を時計回りに一周する目的で、船首尾とも0.25メートルの喫水をもって、平成15年7月23日13時00分同島北岸中央部付近の砂浜を発し、久高島北東端カベール岬の沖に向かった。
ところで、同日09時の沿岸波浪実況図によれば、同月17日にフィリピンの東方海上で台風となり、その後西進した台風第7号から伝播した波が、久高島の南南東方約11海里の地点において、波高3.9メートル、周期11秒、波長約190メートルのうねりとなって南南東方から寄せていたため、沖縄気象台は、沖縄本島地方(本島中南部)沿岸海域に波浪注意報を前日より発表して注意を促していた。
このうねりは、長時間かけて伝播していることから、波高、周期及び波長がいずれも規則的な波であったものの、水深の浅い沿岸域に進入すると、海底摩擦などの影響により進行速度が遅くなるとともに、波長が著しく短くなるため、波の傾斜が次第に険しくなっていた。
また、カベール岬の沖は、北東方に向けて裾礁域(以下「カベール岬裾礁域」という。)が舌状に張り出していたことから、同域の南側外縁部付近において大きな砕波が生じる一方、浅所に向けて屈折する波がカベール岬裾礁域内において収斂(しゅうれん)し、三角波が生じるおそれのある波の荒い状況となっていた。
A受審人は、B指定海難関係人が無資格であることを知っていたが、中城湾に面する久高島北岸沖の海面が穏やかであったうえに、ユウリンIIの操縦に不慣れであったことから、操縦経験を有する同指定海難関係人に同船の操縦を任せることとし、自ら操縦することなく、同乗者ともども救命胴衣を着用して発進したものであった。
B指定海難関係人は、砂浜を発進したのち、スロットルレバーを調整して時速20キロメートルで手動操舵により久高島北岸に沿って北東進し、13時05分半久高島灯台から051度(真方位、以下同じ。)2,950メートルの地点に達したとき、わずかに右舵をとり、カベール岬の沖に向けてゆっくりと右転を始めた。
そのころA受審人は、カベール岬裾礁域の南側外縁付近で大きな砕波が生じており、同域内における波も荒いことを知るとともに、その状況を目にして不安を感じたB指定海難関係人から相談を受けたものの、直ちに反転するなどしてカベール岬裾礁域内への進入を取り止めるよう指示することなく、同指定海難関係人が時速5キロメートルに減速して続航した。
B指定海難関係人は、13時10分少し前カベール岬浅礁域の北側外縁部に差し掛かり、船首が東南東方に向いたとき、正船首方至近に一段と大きな波を認めるとともに連続して船体に大きな衝撃を受けたことから、危険を感じて反転することとし、左舵をとって旋回中、ユウリンIIは、13時10分久高島灯台から055度3,250メートルの地点において、船首が北東方に向いたとき、隆起した三角波に右舷船首部を大きく持ち上げられ、復原力を喪失して左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力4の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には波高約1.5メートルの波があった。
A受審人、B指定海難関係人ほか1人は、船外に投げ出されたものの、来援した水上オートバイなどに救助され、ユウリンIIは、巡視艇により金武中城港内の安座真地区に曳航された。
転覆の結果、機関などに濡損を生じた。
(原因)
本件転覆は、沖縄県久高島北岸から発進する際、有資格者が操縦しなかったばかりか、南南東方から高い波浪が寄せる状況下、同島北東端カベール岬の沖を航行中、三角波の危険性に対する配慮が不十分で、波の荒い水域への進入を取り止めなかったことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、沖縄県久高島北岸から無資格者を同乗させて発進する場合、自ら操縦すべき注意義務があった。しかるに、同人は、発進地点沖の海面が穏やかであったうえに、ユウリンIIの操縦に不慣れであったことから、操縦経験を有する無資格者に操縦を任せることとし、自ら操縦しなかった職務上の過失により、南南東方から高い波浪が寄せる状況下、久高島北東端カベール岬の沖を航行中、波の荒い水域に進入し、隆起した三角波に右舷船首部を大きく持ち上げられて転覆を招き、機関などに濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、沖縄県久高島沖において、無資格でプレジャーボートを操縦したことは、本件発生の原因となる。