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平成16年横審第11号
件名

漁船第三十六不動丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成16年6月24日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史、竹内伸二、浜本 宏)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第三十六不動丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
推進器等を損傷

原因
機関使用時における船尾周りの状況確認不十分で、引き綱が推進器に絡んだこと

主文

 本件遭難は、機関を使用する際、船尾周りの状況確認が不十分で、引き綱が推進器に絡んだことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月18日07時30分
 千葉県犬吠埼東南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六不動丸
総トン数 191トン
全長 43.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 809キロワット

3 事実の経過
 第三十六不動丸(以下「不動丸」という。)は、まき網漁業船団の運搬船として従事する船尾船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、いわし漁の目的で、船首1.6メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年8月17日10時30分第三十一不動丸(以下「網船」という。)、運搬船の第五十三不動丸、探索船及び作業艇とともに茨城県波崎漁港を発し、犬吠埼東南東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、翌18日01時30分1回目の操業を開始し、いわし50トンを獲てこれを積み取ったのち、水揚げのため千葉県銚子港に向けて航行していたところ、06時30分2回目の操業による漁獲物190トンのうち第五十三不動丸が積み残した40トンを上積みするよう網船の漁ろう長から連絡を受け、反転して操業海域に向かった。
 ところで、不動丸の漁獲物積取りの方法は、前進速力2ないし3ノットで停船中の網船に近づき、間近に接近したとき機関を中立として惰力で進行し、同船船首方を通過するころ機関を後進にかけて前進行きあしを止め、両船間で直径52ミリメートル(以下「ミリ」という。)の合成繊維製係留索の受け渡しを行って、漁網を挟み網船と反対向きに右舷を対し10ないし15メートルの距離で平行にしたところで互いの船首と船尾とを係留したのち、自船のクレーンにより三角もっこを使用して漁獲物を魚倉に取り込むというものであった。
 また、不動丸は、漁獲物の積取り中、作業艇に自船の左舷側を引かせて船体傾斜を制御する必要があり、そのため、網船に接近したころ総トン数4.6トンで1人乗りの作業艇が近づいてくるので、左舷側に配置した甲板員がボートフックを使い同艇船尾部にコイルダウンされた直径38ミリ全長300メートルの合成繊維製引き綱を引き寄せ、同綱先端に取り付けられた重さ約4キログラムのステンレス製連結金具と、自船の船首尾からそれぞれ延出された直径38ミリ長さ35メートルの合成繊維製引き綱の連結金具とを繋いだあと、作業艇が自船から離れながら引き綱を200メートルほど延出し、その後同艇が引き綱の張力を適宜加減していた。
 07時20分A受審人は、犬吠埼灯台から110度(真方位、以下同じ。)16.3海里付近の操業海域に到着し、600メートルばかり前方の網船に向けて針路を200度に定め、機関を極微速力前進にかけ、2.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 A受審人は、引き綱の準備のため甲板員2人を左舷側に、網船との係留作業のためその他の乗組員を右舷側にそれぞれ配置し、単独で操舵操船にあたり、07時29分網船の船首まで60メートルばかりに近づいたとき機関を中立とし、同船の船首方15メートルに向け惰力で続航し、そのころ接近してきた作業艇の引き綱を甲板員が引き寄せ、自船の引き綱との連結を終えてY字形となった引き綱を海面に放し、同時29分半甲板員が引き続き係留作業に加わるため右舷側に移動したころ、作業艇が引き綱の延出を始め、間もなく波浪による動揺でコイルダウンしてあった同綱が海面に滑り落ち、その一部が自船船尾付近に近づいたが、係留操船に専念しこれらの状況を見ていなかった。
 07時30分少し前A受審人は、網船の船首に並ぶころ前進行きあしを止めるために機関を後進にかけることとしたが、それまで引き綱が推進器に絡んだことがなかったことから、乗組員に確かめさせるまでもないと思い、船尾周りの状況確認を十分に行わなかったので、同綱の一部が船尾海面に浮遊した状態となっていることに気付かず、機関を後進にかけたところ、07時30分犬吠埼灯台から110度16.3海里の地点において、不動丸は、200度に向首したまま、引き綱の先端から50メートルばかりのところが推進器に絡んだ。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。
 その結果、不動丸は、航行不能となって推進器等を損傷し、僚船によって銚子港に引き付けられたのち、最寄りのドックで修理された。 

(原因)
 本件遭難は、千葉県犬吠埼東南東方沖合において、まき網漁業船団を組んで操業中、漁獲物の積取りを行うにあたり、網船に接近し前進行きあしを止めるために機関を使用する際、船尾周りの状況確認が不十分で、機関を後進にかけたとき、自船と作業艇とを繋ぐ引き綱が推進器に絡んだことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、千葉県犬吠埼東南東方沖合において、まき網漁業船団を組んで操業中、漁獲物の積取りを行うにあたり、網船に接近し前進行きあしを止めるために機関を使用する場合、積取り中の船体傾斜を制御するために自船と作業艇とを繋ぐ引き綱が推進器に巻き込まれないよう、船尾周りの状況確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで引き綱が推進器に絡んだことがなかったことから、乗組員に確かめさせるまでもないと思い、船尾周りの状況確認を十分に行わなかった職務上の過失により、引き綱の一部が船尾海面に浮遊した状態となっていることに気付かず、機関を後進にかけたとき、同綱が推進器に絡む事態を招き、航行不能となって推進器等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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