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平成16年神審第15号
件名

漁船東洋丸遭難事件(簡易)

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成16年5月31日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:東洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船外機等に濡損、船底外板に破口と凹損を生じて船体全損

原因
気象・海象に対する判断不適切(風浪に対する配慮不十分)

裁決主文

 本件遭難は、風浪に対する配慮が不十分で、波浪が甲板に打ち込んで水没したことによって発生したものである。
 受審人Aに対しては懲戒を免除する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月29日15時15分
 兵庫県美方郡但馬御火浦沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船東洋丸
総トン数 0.49トン
登録長 3.83メートル
機関の種類 電気点火機関
漁船法馬力数 30

3 事実の経過
 東洋丸は、採介藻漁業に従事する、舷側板の高さが上甲板から約0.25メートルの、船外機を備えた和船型FRP製漁船で、昭和50年6月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成15年9月29日14時00分兵庫県浜坂町三尾漁港を発し、同時04分同漁港北方約1キロメートルの漁場に至った。
 A受審人は、操業を開始したものの、漁模様が悪いうえ、風浪が強くなってきたので操業を打ち切り、15時00分三尾大島灯台から346度(真方位、以下同じ。)480メートルの地点において左舷船尾甲板に腰掛けて針路を180度に定め、4.0ノットの対地速力で帰途についた。
 ところで、A受審人は、風浪が強い状況下漂泊する場合、船体横方から風浪を受けると甲板上に海水が打ち込みやすかったので、船首を風に立てるためシーアンカーを投入して甲板上に海水が打ち込まないようにしていた。
 15時02分A受審人は、三尾大島灯台から330度250メートルの地点に達したとき、海中に浮遊するロープをプロペラに巻き込んで漂流を始めたので、左舷船尾甲板で船尾方を向いて船外機をチルトアップし、プロペラに巻き込んだロープを取り除く作業に取りかかった。
 そのとき、A受審人は、徐々に増勢する北からの風浪を舷側から受け、海水が甲板上に打ち込むおそれがある状況となったが、陸に近いところなので多少浸水しても大丈夫と思い、甲板上に置いていたシーアンカーを投入して船首を風上に立てるなど風浪に対する配慮を十分に行うことなく、この状況に気付かないまま作業を続けた。
 A受審人は、ロープを取り除く作業を行ううち、船首が徐々に東方に振れ、左舷方から風浪を受けて海水が甲板上に打ち込み始めたが、依然これに気付かず作業を続行中、15時15分三尾大島灯台から000度200メートル付近においてロープを取り除いたとき、舷側板の上縁付近まで海水が浸水していることに気付き、慌てて、船外機を始動しようとしたところ、大量の海水が更に打ち込んだため、東洋丸は、船体が水没して操船不能に陥った。
 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、海上は波高1.5メートルであった。
 その結果、東洋丸は、船体が水没したまま漂流し、但馬御火浦(たじまみほのうら)の間塩(まじお)の海岸に打ち上げられて、船外機等に濡損を生じ、船底外板に破口と凹損を生じさせて船体を全損し、A受審人は、同海岸で救助された。 

(原因)
 本件遭難は、兵庫県美方郡但馬御火浦沖合において、風浪が増勢する状況下、操業を終えて漁場から三尾漁港へ帰港中、漂泊してプロペラに巻き込んだ浮遊ロープを取り除く作業を行う際、風浪に対する配慮が不十分で、甲板上に大量の海水が打ち込み、船体が水没したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、兵庫県美方郡但馬御火浦沖合において、操業を終えて漁場から三尾漁港に帰港中、風浪が増勢する状況下、漂泊してプロペラに巻き込んだ浮遊ロープを取り除く作業にあたる場合、甲板上に置いていたシーアンカーを投入して船首を風上に立てるなど風浪に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、陸に近いところなので多少浸水しても大丈夫と思い、船首を風上に立てるなど風浪に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、甲板上に大量の海水が打ち込み、船体が水没して遭難を招き、船外機等に濡損を生じ、船底外板に破口と凹損を生じさせて船体を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告すべきところ、同人が多年にわたり海運の発展に寄与した功績によって運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用してその懲戒を免除する。





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