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平成16年函審第22号
件名

砂利運搬船りゅうえい遭難事件(簡易)

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成16年5月25日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(黒岩 貢)

理事官
山田豊三郎

受審人
A 職名:りゅうえい船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
左舷側後部に多数の凹損

原因
気象・海象に対する判断不適切(風浪の影響に対する配慮不十分で、他岸壁へのシフトを中止しなかったこと)

裁決主文

 本件遭難は、西北西風が強吹し、うねりが岸壁に打ち寄せる状況下、風浪の影響に対する配慮が不十分で、他岸壁へのシフトを中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月14日14時35分
 北海道瀬棚港
 
2 船舶の要目
船種船名 砂利運搬船りゅうえい
船籍港 北海道函館市
総トン数 697トン
全長 79.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 りゅうえいは、バウスラスター及び制限荷重20トン、制限半径22メートルのジブクレーンを備えた船尾船橋型鋼製砂利運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、北海道上磯郡上磯町のB社専用桟橋において砕石2,000トンを積載し、砕石の揚荷及び山砂1,500トンの積載の目的で、平成15年2月14日00時00分同桟橋を発して北海道瀬棚港に向かい、10時35分同港南部の南岸壁に右舷付けで係留し、直ちに砕石の揚荷役を開始した。
 ところで、りゅうえいは、船首両舷に錨鎖9節付き重量1.8トンの主錨を、船尾両舷に長さ250メートルの合成繊維製錨索付き重量0.5トンの四爪錨をそれぞれ備え、瀬棚港においては荷役に自船のジブクレーンを使用する関係で、クレーンが貨物倉と岸壁との間を往復するたびに船体が大きく岸壁側に傾斜することから、船体が岸壁と接触して損傷しないよう、係留岸壁沖合に船首錨及び船尾錨を投じておき、それらの錨鎖及び錨索と、岸壁側にとった係留索とを張り合わせることにより、岸壁と2メートルばかり離した状態で係留していた。
 一方、瀬棚港は、北海道西端部に位置する西方に開いた港湾で、同港北部の蝋燭岩(ろうそくいわ)南東端から南西方に延びる南外防波堤、同防波堤とほぼ並行にその沖合に設置された島防波堤、同港中央部から北西方に延びる東防波堤、同南部の懸島(かかりしま)から北西方に延びる東外防波堤がそれぞれ築造されていた。しかしながら、冬季など、偏西風が強吹し、その影響によるうねりが島防波堤南西端と東外防波堤との間から回り込み、南岸壁付近に打ち寄せることがあり、りゅうえいが入港した際も、強い西北西風が吹き、それによるうねりが港内に入り込む状況となっていた。
 また、積荷を行う山砂置場の岸壁は、同じ南岸壁の揚荷地点から50メートルほど南側で、瀬棚港南外防波堤灯台(以下「南外防波堤灯台」という。)から137度(真方位、以下同じ。)525メートルの地点にあり、平素、揚荷岸壁から同地点にシフトする場合、一旦、離岸し、錨を入れ直して係留することにしていた。
 14時00分A受審人は、海水バラストを610トン積載し、船首2.0メートル船尾3.7メートルの喫水をもって揚荷役を終了し、積荷岸壁にシフトを開始しようとしたが、このとき、南岸壁は、依然、西北西風が強吹してうねりが岸壁に打ち寄せており、空倉となったことにより船体の受風面積が増加しているうえ、港内の底質が砂で錨掻きが悪いことなどを考慮すると、再び前示方法により岸壁と離して係留しても、投錨状態によっては錨の把駐力が耐えきれずに船体が岸壁側に寄せられ、損傷するおそれがあった。
 しかしながら、A受審人は、そのうちに風、うねりとも弱まるものと思い、風浪の影響に対し十分に配慮してシフトを中止し、安全な海域に避難することなく、予定通り積荷岸壁に左舷付けすることとし、船首尾錨を巻き込みつつ離岸し、船体を風に立てながら東防波堤南西側に進み、次いで船首を大きく右に振って再係留の態勢を整えた。
 14時10分A受審人は、南外防波堤灯台から147度280メートルの地点に右舷船尾錨を、同時15分同灯台から144度460メートルの地点に右舷船首錨をそれぞれ投入し、錨鎖及び錨索を延出しながら徐々に岸壁に近づき、14時20分前回と同様、岸壁と2メートル離した状態で係留を終了し、直ちに荷役を開始したが、まもなく重量の軽い船尾錨が走錨して船尾が岸壁に接近するようになり、タイヤ製フェンダーを船体と岸壁との間に挟み込むなどしたが効なく、14時35分りゅうえいは、南外防波堤灯台から135度510メートルの地点において、186度を向首したその左舷側後部が岸壁に接触した。
 当時、天候は雪で風力5の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、瀬棚港のある桧山地方に風雪波浪注意報が発令されていた。
 その結果、りゅうえいは、左舷側後部が繰り返し岸壁に接触し、同部に多数の凹損を生じた。 

(原因)
 本件遭難は、北海道瀬棚港において、揚荷役を終え、積荷岸壁へシフトする際、風浪の影響に対する配慮が不十分で、シフトを中止して安全な海域に避難せず、岸壁沖に投入した船首尾錨を張り合わせることにより岸壁からわずかに離れた状態で係留中、船尾錨が走錨して船体左舷側後部が岸壁と接触したことにより発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、北海道瀬棚港において、揚荷役を終えて積荷岸壁へシフトする場合、西北西風が強吹し、防波堤を回り込んだうねりが岸壁に打ち寄せる状況であったうえ、空船状態となったことにより受風面積が増大し、岸壁沖に投入した船首尾錨の錨鎖錨索を張り合わせて岸壁と離した状態で係留しても、走錨して船体が岸壁と接触するおそれがあったから、風浪の影響に十分に配慮し、シフトを中止して安全な海域に避難すべき注意義務があった。しかるに同人は、そのうちに風、うねりとも弱まるものと思い、シフトを中止して安全な海域に避難しなかった職務上の過失により、係留してまもなく船尾錨が走錨して船体左舷側後部が岸壁と接触し、同部に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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