(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月22日04時58分
福岡県志賀島北西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八さつま |
総トン数 |
146トン |
全長 |
48.53メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
367キロワット |
3 事実の経過
第八さつま(以下「さつま」という。)は、長崎県厳原港を基地として福岡県博多港との間を2日間で1往復の定期運航に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、生活雑貨約8トンを積載し、船首1.5メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成15年10月21日23時40分厳原港を発し、法定灯火を表示して博多港に向かった。
ところで、A受審人は、自ら厳原、博多両港での出入港操船に当たるほか、約6時間を要する両港間の航海中の船橋当直を、往航時には甲板員、機関長及び自らの順に、復航時には自ら、甲板員及び機関長の順にそれぞれ単独の2時間交代で行い、両港とも荷役が08時から17時までの間に行われることから、早めに到着して乗組員全員が荷役開始時刻まで休息待機できるように運航しており、疲労が蓄積することはなかった。
これより先、A受審人は、同日00時00分に厳原港に入港し、帰宅して休息後、08時00分から14時00分までの間全員で荷役作業を行い、その後再び帰宅して19時ころまで焼酎のお湯割りを半々として8杯ほど飲んだのち、22時ころ乗船して自室で1時間ほど休息してから発航に至ったもので、平素から同量程度の飲酒後に出港していたものの、発航時には酔いが完全には抜け切れていない状況であった。
こうして、A受審人は、発航10分後に厳原港の港口で、船橋当直を甲板員に引き継いだのち自室で再び休息し、翌22日03時30分玄界島灯台から303度(真方位、以下同じ。)13.8海里の地点で、機関長から当直を引き継ぎ、いつものように同灯台に並航したら転針して博多港への入航操船を行う予定で、針路を120度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、操舵室の窓を開放し、同室中央にある操舵スタンドの左舷側に設置されたレーダーを6海里レンジとして監視に当たりながら、自動操舵によって進行した。
A受審人は、03時46分玄界島灯台から304度10.9海里の地点に差し掛かったとき、慣れた航路で周囲に操業漁船も通航船もなく、追い風で船体の揺れも小さかったことなどから気が緩み、飲酒の影響が残っていたこともあって眠気を催したが、これまで眠気を催したときには、操舵室内を歩き回ったり、同室外のウイングに出て外気に当たったり、右舷ウイングにある水道の水を飲んだりすれば眠気を払うことができたことから、これらの動作をとりながら続航した。
04時23分A受審人は、玄界島灯台から311度4.1海里の地点に達したとき、依然、眠気を払いきれない状態であったが、右舷前方に同灯台及び同舷正横方向に長間礁灯標の各灯光を認めており、間もなく転針予定地点に至って博多港への入航操船を行う必要があることから、それまで居眠りをすることはないものと思い、機関長を昇橋させて二人当直とするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、その後操舵室右舷後部に設けられた畳敷きの長いすに移動して浅く腰掛けているうちに、いつしか寝ころんで居眠りに陥った。
さつまは、04時44分半玄界島灯台から029度0.8海里の転針予定地点に達したが、A受審人が居眠りをしていて転針を行うことができずに進行中、04時58分玄界島灯台から104度2.7海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、志賀島北西岸の岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に当たり、視界は良好であった。
A受審人は、乗揚の衝撃で目覚め、乗り揚げたことに気付いて機関を後進にかけたが離礁できず、会社に連絡するために乗組員に何も言わずに志賀島に上陸したものの、連絡が取れず、その後事態の大きさに気が動転し、数日間博多から下関の間を放浪したのち、同月24日漸く会社に連絡を取り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、さつまは、船体中央から船首側の船底に破口を伴う凹損及び擦過傷を生じ、サルベージ船によって引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、志賀島北西方沖合において、博多港に向けて東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、志賀島北西岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、志賀島北西方沖合において、博多港に向け、単独の船橋当直に就いて東行中、慣れた航路で周囲に操業漁船も通航船もなく、追い風で船体の揺れも小さかったことなどから気が緩み、飲酒の影響もあって眠気を催した場合、いろいろ眠気を払う動作をとっても依然として眠気が払いきれない状態であったから、居眠り運航にならないよう、機関長を昇橋させて二人当直とするなどの居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同人は、間もなく転針予定地点に至って博多港への入航操船を行う必要があるから、それまで居眠りをすることはないものと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥って居眠り運航となり、予定地点での転針が行われないまま進行して志賀島北西岸の岩礁への乗揚を招き、船体中央から船首側の船底に破口を伴う凹損及び擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。