(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月26日21時40分
徳島県蒲生田岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十一住若丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
59.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十一住若丸(以下「住若丸」という。)は、鋼製砂利採取運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成15年8月26日16時45分兵庫県東播磨港を発し、鳴門海峡を経由して高知県須崎港に向かった。
住若丸は、平素、瀬戸内海の各港間において、海砂の輸送に従事しているものであるが、当時は、石灰石を積み込む目的で、須崎港に向かっていたものであり、鳴門海峡から徳島県沖合を経て須崎港に至る海域は、これまで数回航行したことがあったものの、普段はあまり航行しない海域であった。
A受審人は、船橋当直を次席一等航海士、無資格のB指定海難関係人及び自らの順に4時間毎に割り振り、17時ごろ出航操船を終え、次席一等航海士に当直を委ねて降橋した。
その際、A受審人は、徳島県蒲生田(がもうだ)岬とその東方沖合2海里付近にある伊島との間の水路(以下「伊島西側水路」という。)には岩礁が散在しており、慣れない者が、伊島西側水路を航行することは困難であったことから、安全な伊島の東側を南下するよう指示する必要があったが、これまで当直者に何ら指示しなくても伊島の東側を航過していたので、まさか伊島西側水路を航行することはないであろうと思い、海図に伊島の東側に向ける針路線を記入することも、口頭で伝えることもなく、その旨を明確に指示しなかった。
B指定海難関係人は、20時45分徳島県東岸の沖合にあたる、伊島の北北西方10海里付近の地点で昇橋し、前直の次席一等航海士から当直を引き継いだとき、伊島の東西どちら側を通るかを選択できる状況であったが、A受審人から針路の選定についての明確な指示がなかったこともあり、伊島西側水路の方が航程も短くなるうえ、なんとか無難に通って行けると考え、伊島東側の安全な針路を選定することなく、21時22分蒲生田岬灯台から002度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点で、針路を伊島西側水路に向かう163度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.3ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵によって進行した。
21時34分少し前B指定海難関係人は、蒲生田岬灯台から043度1.1海里の地点に達したとき、自動操舵のまま右転を開始した。
B指定海難関係人は、右舷船首方の浅所に気付かないままゆっくりと右転を続けていたところ、21時40分住若丸は、蒲生田岬灯台から120度1,285メートルの地点において、206度に向首したとき、原速力のまま岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船底外板に凹損を生じたが、自力で離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、東播磨港から須崎港に向けて徳島県東岸沖合を航行する際、針路の選定が不適切で、安全な伊島東方を南下することなく、同島西側水路を航行し、浅所に向けて進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、伊島東方の安全な針路を指示しなかったことと、無資格の船橋当直者が、当該安全な針路を選定しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、東播磨港から須崎港に向けて徳島県東岸沖合を航行する場合、船橋当直者に対し、安全な伊島の東側を南下するよう、海図に伊島の東側に向ける針路線を記入するなどして安全な針路を明確に指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、これまで特に指示しなくても、伊島東方を南下していたことから、まさか伊島西側水路を航行することはないであろうと思い、安全な針路を明確に指示しなかった職務上の過失により、無資格の船橋当直者が、伊島東側の安全な針路を選定することなく、浅所の存在する伊島西側水路に向かい、浅所に気付かないまま進行して岩礁への乗揚を招き、船底外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、東播磨港から須崎港に向けて徳島県東岸沖合を航行する際、伊島東方を南下する安全な針路を選定しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。