(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月7日04時35分
備讃瀬戸西部高見島西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
押船ツーナス |
バージツーナス |
総トン数 |
153トン |
約1,645トン |
全長 |
19.51メートル |
64.42メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,618キロワット |
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3 事実の経過
ツーナスは、C社との契約に基づき、同社の火力発電所と中国及び四国地方にあるセメント工場との間の、石炭灰や炭酸カルシウムの輸送に従事する鋼製押船で、A及びB両受審人ほか甲板長、機関長及び一等機関士が乗り組み、平成15年5月4日大分県佐伯港にある造船所を出渠して同県津久見港に回航し、同日18時20分港内に錨泊待機したのち、翌々6日12時30分D社津久見工場第1工場岸壁に着岸した。そして、炭酸カルシウム1,008トンを積載して船首3.72メートル船尾4.53メートルの喫水となったバージツーナスの船尾ノッチにツーナスの船首部を嵌合して全長約71メートルの押船列を構成し、船首3.30メートル船尾4.30メートルの喫水をもって、5月6日17時25分津久見港を発し、岡山県水島港に向かった。
A受審人は、船橋当直を08時から13時と20時から01時の間を同人が、13時から15時と01時から03時の間を甲板長が、15時から20時と03時から08時の間をB受審人がそれぞれ単独で行う3直輪番制とし、機関当直に00時から04時と12時から16時の間と、08時から12時と20時から24時の間にそれぞれ入直する一等機関士と機関長を、夜間には船橋で当直に当たらせるようにしていた。そして、関門海峡、来島海峡及び明石海峡など狭水道通航時には昇橋して自ら操船の指揮をとることにし、出港操船を終えて船橋当直をB受審人に委ね、降橋して書類整理に当たった。
20時00分A受審人は、佐田岬灯台から026度(真方位、以下同じ。)10.6海里の地点で昇橋してB受審人から船橋当直を引き継ぎ、機関長とともにそれぞれ当直に当たって伊予灘から釣島水道を東行した。そして、翌7日00時45分来島梶取鼻灯台から020度2.6海里の地点にあたる来島海峡航路西口付近で、昇橋してきた甲板長と当直中の一等機関士とを見張りに就け、自ら操舵操船に当たって来島海峡を通航し、01時29分竜神島灯台から153度1.1海里の地点で同海峡東口を出航して間もなく、船橋当直を次直の甲板長に委ねたものの、折から霧模様で視界が狭められた状況であったのでそのまま在橋して備後灘に向け続航するうち、やがて、視界が回復したので降橋することにした。
ところでA受審人は、5月3日14時ごろ佐伯港で入渠中の本船に乗船した際、前任の船長から、本船は月間平均約11航海で、まれに航海時間が12時間に及ぶものの主として3ないし4時間の航海の繰り返しで錨泊待機する機会も多く、疲労が蓄積するような運航形態ではないことや、当直中不安を感じた際などには速やかに船長に報告するよう船橋当直者に繰り返し指示していた旨の引継ぎを受けていたうえ、夜間には機関当直者が船橋で当直に当たるようにしていたので、次直の甲板長に「頼む。」とのみ告げ、02時00分高井神島灯台から243度7.4海里の地点で降橋し、自室に退いて休息した。
B受審人は、02時45分高井神島灯台から026度1.1海里の地点で昇橋して前直の甲板長から船橋当直を引き継ぎ、一等機関士とともに在橋して当直に当たり、03時00分同灯台から060度3.6海里の地点に達したとき、針路を備後灘航路第7号灯浮標(以下、灯浮標については「備後灘航路」を省略する。)を左舷側近くに通過するよう、072度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で、第7号灯浮標に並航したのち針路を真鍋島と佐柳島との間の海域に転じる予定とし、備後灘推薦航路に沿って進行した。
ところで、B受審人は、5月4日夜から翌々6日の朝まで津久見港内で錨泊待機中に十分睡眠をとったものの、その後の着岸、荷役及び出港作業とそれに引き続く航海当直に従事し、同日19時45分過ぎに降橋した後は自室の整理や書類作成などを行った。そして、23時ごろ平素のように焼酎の水割りを飲んで寝床に就いたが、目が冴えて寝付くことができなかったので、当直のため昇橋したときには睡眠不足の状態であった。
B受審人は、定針したのち徐々に眠気を催すようになったが、一等機関士とともに船橋に立ち2人で当直に当たって備後灘を東行し、03時45分六島灯台から230度3.0海里の地点に達して転針予定地点まで約3海里となったとき、一等機関士が当直を終えて降橋し、その後自動操舵のまま単独で航海当直に当たって続航した。
一等機関士が降橋して間もなく、B受審人は、海上が穏やかで視界も良く、前路に他船を認めなかったことから気を緩め、船橋左舷側にあるレーダーの左後方に背もたれの付いたいすを置きこれに腰を掛けたところ、前夜飲んだ焼酎の影響もあって眠気を強く催すようになった。しかしながら、同人は、転針予定地点まで近いのでまさかその間に居眠りすることはあるまいと思い、立った姿勢のまま手動で操舵に当たり眠気を払うことに努めるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰掛けて背をもたせたまま時折レーダーの画面を見ながら前方を見張っているうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして、B受審人は、04時02分転針予定地点に達したものの居眠りしていたのでこのことに気付かず、転針の措置がとられずにその後も依然居眠りを続けて高見島西岸に向首したまま進行中、04時35分衝撃を受け、板持鼻灯台から170度0.6海里の地点にあたる高見島西岸の浅所に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は、衝撃を感じて何事かと目覚めた直後に、食堂で休息中の一等機関士から報告を受けて乗り揚げたことを知り、昇橋して事後の措置に当たった。
乗揚の結果、ツーナスのローラーに損傷を、バージツーナスの船首部船底外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、水島港に向けて備後灘を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、高見島西岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、機関当直者とともに船橋で当直に当たり、備後灘から水島港に向け航行中、機関当直者が当直を終えて降橋したのち単独で船橋当直に当たる場合、前日からの荷役当直に続く航海当直と睡眠不足から眠気を催していたのだから、立った姿勢のまま手動で操舵に当たり眠気を払うことに努めるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、転針予定地点まで近いので、まさかその間に居眠りすることはあるまいと思い、機関当直者が降橋して間もなくいすに腰を掛けて当直を続け、眠気を払うことに努めなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、高見島西岸に向首したまま進行して浅所に乗り揚げ、ツーナスのローラーに損傷を、バージツーナスの船首部船底外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。