(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月4日11時35分
熊本県天草下島南方桑島北岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船芳福丸 |
総トン数 |
4.9トン |
全長 |
13.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
147キロワット |
3 事実の経過
芳福丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和52年3月18日一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成15年10月27日09時ごろ熊本県牛深港を発し、16時ごろ長崎県男女群島周辺の漁場に至って操業を開始し、タイ等約130キログラムを獲て、越えて11月3日07時ごろ同漁場を発し、水揚げのため、14時00分長崎県三重式見港に入港した。そして翌4日05時半ごろ水揚げを終えたのち、燃料の積込み等、出港準備を終え、回航の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、08時40分三重式見港を発し、牛深港の定係地に向かった。
ところで、A受審人は、男女群島周辺の漁場において、10月27日は日没まで操業し、翌28日から11月2日夕方までの間、早朝から日没まで連日操業を続け、夜間は島陰に投錨して休息をとるようにしていたものの、風浪による動揺や守錨作業などによって十分に睡眠がとれないことがあり、三重式見港入港当日は21時ごろ就寝し、翌日は03時ごろ起床して水揚げ作業に従事したので、出港したときは、睡眠不足気味に加え連日の操業で疲労が蓄積した状態であった。
出港後、A受審人は、操舵輪の後方の浅い背もたれ付きのいすに腰を掛けて単独で操舵操船に当たり、野母崎西端沖合に向けて南下し、09時49分大立神灯台から270度(真方位、以下同じ。)0.5海里の地点に達したとき、レーダーで針路を熊本県桑島に向首するよう150度に定め、機関を回転数毎分2,300にかけ14.0ノットの対地速力とし、桑島北方の魚貫埼(おにきさき)を左舷側1海里に通過したのち、針路を桑島と大島との間の海域に転じる予定とし、自動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、長時間いすに腰掛けた姿勢を続ければ、蓄積した疲労によって知らないうちに居眠りに陥るおそれがあった。しかしながら、同人は、たまたま眠気を感じていなかったことから大丈夫と思い、随時いすから立ち上がって移動したり、外気に当たったりするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、いすに座ったまま同じ姿勢でレーダー画面と前方を交互に見張りながら続航した。
こうして、A受審人は、周囲に注意すべき船も見当たらなかったことから気が緩んだものか、いつしか居眠りに陥り、11時26分半魚貫埼を左舷側1海里に並航して、転針予定地点に達したものの、居眠りしていたのでこのことに気付かず、芳福丸は、針路が転じられないで桑島に向首進行し、11時35分牛深大島灯台から010度1.4海里の桑島北岸に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、芳福丸は、磯波により岩場に打ち上げられ、大破し、のち廃船処理された。
(原因)
本件乗揚は、長崎県三重式見港から熊本県牛深港に向け回航する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、熊本県桑島北岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長期間一本釣り漁業に従事した後、長崎県三重式見港で漁獲物の水揚げを終え、熊本県牛深港に向けて単独で操舵操船に当たって回航する場合、長時間いすに腰掛けた姿勢を続ければ、蓄積した疲労によって知らないうちに居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、随時いすから立ち上がって移動したり、外気に当たったりするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、たまたま眠気を感じていなかったことから大丈夫と思い、長時間いすに腰を掛けたままで操舵操船に当たり、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠り運航に陥り、熊本県桑島北岸に向首したまま進行して乗揚を招き、廃船に至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。