(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月11日06時15分
沖縄県西表島白浜港
2 船舶の要目
船種船名 |
掃海艇もろしま |
基準排水量 |
440トン |
全長 |
55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,059キロワット |
3 事実の経過
(1)もろしま
もろしまは、平成8年3月に海上自衛隊佐世保地方隊に編入され、その後沖縄基地隊第46掃海隊(以下「第46掃海隊」という。)に配属された船首楼型木製掃海艇で、船体中央部船首寄りに艦橋を設け、2機2軸の可変ピッチプロペラを装備し、前進微速約6ノット、前進半速約8ノット、前進原速約10ノット、最短停止距離約180メートル、旋回径約170メートルの性能を有していた。
また、航海計器として、艦橋にジャイロコンパス、レーダー、GPS及びドップラー式ログなどを装備するとともに、艦橋直下にあるCICと称する戦闘情報センターにも、レーダー、音響測深機及びソナーなどを備えていた。
(2)指定海難関係人A
A指定海難関係人は、昭和44年3月に海上自衛隊に入隊したのち、護衛艦及び掃海艇などでその職務にあたる一方、昭和56年5月に基準排水量250トン以上の艦艇の運航に携わることができ、三級海技士(航海)に相当する運航2級の免許を取得し、その後幹部予定者課程の教育訓練を受けるなどして平成13年8月からもろしまの艇長職を執ることとなった。
(3)指定海難関係人B
B指定海難関係人は、昭和48年3月に海上自衛隊に入隊したのち、護衛艦及び掃海艇などでその職務にあたる一方、幹部予定者課程の教育訓練などを受け、平成9年10月に運航2級の免許を取得し、同14年8月からもろしまの船務長職を執ることとなった。
(4)出入港時の配置
もろしまの乗組員は、掃海業務及び出入港時の甲板作業を担当する1分隊、航海業務を担当する2分隊及び機関業務を担当する3分隊に分かれており、出入港時の艦橋には、操船指揮を執るA指定海難関係人ほか、当直士官として艇長を補佐するB指定海難関係人、甲板作業を指揮する掃海長、当直士官補佐として船位の測定などを担当する処分士、見張りを担当する信号員長、操舵を担当する操舵員長、各配置との連絡を担当する通信員などがそれぞれの配置に就いていた。
(5)沖縄県八重山列島西表島白浜港
白浜港は、西表島西岸と外離島及び内離島とによって囲まれた湾の奥に位置し、北西方に向けて開口した港で、西表島西岸及び内離島東岸からそれぞれ裾礁域が張り出し、それらの外縁に沿って拡延する水深5メートル以下の浅所域の間に長さ約1キロメートル、最狭部の可航幅が約80メートルの狭い水路(以下「白浜水路」という。)があり、同水路の奥に公共岸壁が築造されていた。
白浜水路周辺の航路標識として、外離島東端野底埼の沖にある浅所に西表島白浜港第4号立標(以下、立標の呼称については「西表島白浜港」を略す。また、平成15年9月25日各立標は灯標に変更された。)が、西表島西岸にある赤埼付近の浅所域内に左舷標識の第5号立標が、内離島東岸にある新城埼付近の同域内に右舷標識の第8号立標がそれぞれ設置されていた。
また、公共岸壁は、西表島西岸に築造されており、5,000トン級の船舶が着岸できる長さ約160メートル、水深6ないし8メートルの岸壁で、その前面水域には直径約350メートルのターニングベースンを有していた。
(6)出航操船
公共岸壁から出航する船舶は、ターニングベースンの中心付近から漏斗状を呈する白浜水路の最狭部まで、約450メートルの距離であったことから、離岸したのち、ターニングベースン内において態勢を整え、333度(真方位、以下同じ。)または334度の針路で第4号立標に向首進行し、その後同水路の最狭部付近にある第8号立標を航過したところで、第5号立標周辺の浅所域に注意しながら第4号立標の東方に向けて転針するなど、白浜水路の両側端を形成する浅所域に著しく接近することのないよう、第4号立標や陸標などを利用して船位の確認を十分に行う必要があった。
(7)本件発生に至る経緯
もろしまは、A、B両指定海難関係人ほか36人が乗り組み、第46掃海隊司令部員5人を乗せ、沖縄県先島諸島の港湾調査を行う目的で、最大3.9メートルの喫水をもって、平成15年5月初旬同県中頭郡勝連町にある沖縄基地隊を掃海艇ひこしまとともに発し、八重山列島与那国島祖納港に寄港したのち、同月9日午後白浜港に入港した。
A指定海難関係人は、白浜港への寄港が初めてであったものの、発航までに港泊図である海図W1487(白浜港、1万分の1)を入手できなかったことから、ひこしまが所有する同海図を写し取るとともに、九州沿岸水路誌で港湾事情を調査するなどしたうえで、同港の公共岸壁に入船左舷付けで着岸し、その右舷側にひこしまを横付けさせたのち、搭載していた処分艇と称するゴムボートで白浜港内の主な浅所域の測深を行わせるなど、港湾調査を実施した。
A指定海難関係人は、海図W1487写にあたり、出航に際しては、第4号立標を船首目標にして333度の針路で白浜水路の中央部付近を航行することとし、B指定海難関係人にそのことを伝え、同月11日05時56分出航準備を令して乗組員を配置に就け、ひこしまの出航を見送ったのち、06時10分全係留索を放し、宮古列島多良間島に向けて白浜港を発進した。
A指定海難関係人は、日出直後のため、海水の変色状況から浅所域などの所在を見定めることが困難な状況下、左舷ウィングに立って操船の指揮にあたり、係留索を揚収したところで、両舷機を後進微速にかけるとともに右舵一杯にとり、ターニングベースンの中央部付近に向けて左転しながら後退し、06時11分第8号立標から128度570メートルの地点で、左舷機を後進半速、右舷機を前進原速にそれぞれかけ、同時13分左回頭しながら後進行きあしを止めるため、左舵一杯にとるとともに左舷機を前進原速にかけた。
A指定海難関係人は、06時13分わずか過ぎ船首が000度に向き、前進行きあしとなったとき、予定進路線の右側約40メートルにあたる、第8号立標から140度570メートルに位置していたが、目測でほぼ予定進路線上にいるものと思い、B指定海難関係人に対して船位の確認を十分に行い、報告するよう指示しなかったので、このことに気付かなかったばかりか、舵中央とし、予定針路の333度まで回頭惰力を利用して左回頭することとしたため、同進路線から大きく右偏するおそれがあることにも気付かなかった。
一方、B指定海難関係人は、離岸したときから艦橋中央部付近に立って周囲の見張りなどに当たり、後進行きあしが止まるころ、332度に第4号立標を測定したことから、未だ予定進路線の右側にいることを知ったが、白浜水路に向首したところで予定針路から少しばかり左方に偏した針路とすれば、同水路東側の浅所域を替わすことができるものと思い、予定進路線からのずれをA指定海難関係人に報告しなかったばかりか、その後船位の確認を十分に行っていなかったので、予定進路線から大きく右偏し、同浅所域に著しく接近するおそれがあることに気付かなかった。
A指定海難関係人は、06時14分第8号立標から132度490メートルの地点で、船首が333度に近づく状況となったとき、第4号立標の見え具合から、予定進路線の右方に偏位していることを知ったものの、依然として船位を確認し、報告するよう指示しないまま、勘により針路330度を令したため、白浜水路東側の浅所域に著しく接近する態勢となって進行した。
A指定海難関係人は、06時14分少し過ぎ第8号立標から129度430メートルの地点に達したとき、10.0ノットの対地速力となり、間もなく白浜水路に差し掛かる状況であったが、不安を感じることなく同水路を入航していたことから、無難に出航できるものと考え、自らが引き続き操船の指揮を執ることなく、B指定海難関係人に操船の指揮を命じて続航した。
B指定海難関係人は、A指定海難関係人から操船の指揮を命じられたとき、ほぼ331度に第4号立標を測定したことから、予定進路線に乗せるつもりで、勘により針路328度を令したものの、依然として船位の確認を十分に行っていなかったので、白浜水路東側の浅所域に著しく接近する態勢となっていたことに気付かず、直ちに大きく左舵をとるなど、同浅所域への乗揚を避ける措置をとることなく進行した。
こうして、A指定海難関係人は、左舷ウィングに立って航行状況を見守りながら続航中、もろしまは、06時15分第8号立標から111度230メートルの地点において、328度の針路、10.0ノットの速力のまま、白浜水路東側の浅所域に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好で日出時刻は06時04分であった。
乗揚の結果、右舷推進器翼及び舵板に曲損、機雷探知機用整流覆に破損及びソナードームに凹損などを生じたが、のちいずれも修理された。
(8)事後の措置
A指定海難関係人は、船底付近で発した異常音を聞き、急いで両舷機後進原速を令したものの及ばず、白浜水路東側の浅所域に乗り揚げて停止したため、直ちに船体の損傷状況などの調査を命じるとともに、船固めのために錨を入れるなどの措置を講じたのち、関係機関に通報した。
もろしまは、14時49分来援した引船により引き下ろされ、白浜港の沖で船底調査などを行ったのち、自力で沖縄基地隊に戻り、その後長崎県佐世保港に回航して入渠した。
A指定海難関係人は、船位の確認が不十分であったことの反省から、乗組員に対して出入港及び狭水道航行時の各配置員の職責を改めて確認させるとともに、積極的な報告及び進言を指示する一方、海上自衛隊佐世保地方総監部監察官及び第46掃海隊司令から、本件発生の原因と再発防止対策などについての指導教育を受けた。
B指定海難関係人は、出入港及び狭水道航行時における船務長としての職責を改めて確認するとともに、A指定海難関係人から艇長の補佐として船位の確認に務め、積極的に報告及び進言するよう指示された。また、海上自衛隊佐世保地方総監部監察官及び第46掃海隊司令から、本件発生の原因と再発防止対策などについての指導教育を受けた。
海上自衛隊は、本件後、第46掃海隊司令が掃海艇の安全運航指導メモと称する文章を作成し、所属する掃海艇幹部に対する指導教育を行う一方、佐世保地方総監部監察官は、平成15年度地方隊安全会議の場で各艦艇長等に対して、また、海上幕僚監部監察官は、平成15年度監察官講習の場で各部隊等の監察及び安全業務担当者に対して、それぞれ本件に関する概要及び原因の分析結果を説明し、再発防止対策などの教育を実施した。
(原因)
本件乗揚は、沖縄県西表島白浜港において、狭い水路を航行する際、船位の確認が不十分で、同水路側端の浅所域に著しく接近したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、艇長が船務長に対して船位の確認を十分に行い、報告するよう指示しなかったばかりか、自ら操船の指揮をとらなかったことと、船務長が船位の確認を十分に行わなかったばかりか、艇長に対して予定進路線からのずれを報告しなかったこととによるものである。
(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が、沖縄県西表島白浜港において、狭い水路を航行する際、船務長に対して船位の確認を十分に行い、報告するよう指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、船位の確認が不十分であったことの反省から、乗組員に対して出入港及び狭水道航行時の各配置員の職責を確認させるとともに、積極的な報告及び進言を改めて指示する一方、海上自衛隊佐世保地方総監部監察官及び第46掃海隊司令から、本件発生の原因と再発防止対策などについての指導教育を受けたことに徴し、勧告しない。
B指定海難関係人が、沖縄県西表島白浜港において、狭い水路を航行する際、船位の確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、A指定海難関係人から艇長補佐として船位の確認に務めるよう指示される一方、海上自衛隊佐世保地方総監部監察官及び第46掃海隊司令から、本件発生の原因と再発防止対策などについての指導教育を受けたことに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
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