(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月9日07時30分
関門港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船鶯丸 |
総トン数 |
16.98トン |
登録長 |
14.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
360キロワット |
3 事実の経過
鶯丸は、いか一本つり漁に従事する、FRP製漁船で、昭和53年1月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.55メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、平成15年10月8日13時00分山口県特牛港を発し、沖ノ島北東方の漁場に向かった。
ところで、鶯丸の自動操舵装置は、磁気コンパスの上面にねじで取り付けた方位センサーから信号を送っており、A受審人は、自動操舵で航行する際には、その都度GPSプロッタで磁気コンパスの方位誤差を確認し、同誤差だけずらした方位センサーを同コンパス上面にねじで取り付けて固定していた。
そして、A受審人は、平素、12時ごろ出港して夕方漁場に着き、日没時からいか釣りを始め、翌日04時ごろ操業を終えて09時ごろ帰港し、水揚げをして次の出漁の準備を行い、休息をとったのち、再び出漁していたので、港では約2時間しか休息をとることができなかった。そのうえ、甲板員として乗り組む父親が高齢のため、操業中の作業は同受審人が1人で行い、港と漁場間の航行中、往路および復路にそれぞれ2時間から3時間ばかり船橋当直を甲板員に委ねて休息することとしていたものの、操業が継続すると多少疲労気味になることから、4ないし5日操業を続けたら1日休漁しており、今回の操業は、10月4日から継続していた。
A受審人は、翌9日03時ごろいか100キログラムを獲って操業を終え、漁獲物や漁具を収めて同時30分沖ノ島灯台の北東方23海里ばかりの地点から山口県下関漁港南風泊分港に向けて発進し、同時45分甲板員に蓋井島付近に達したら起こすよう指示して船橋当直を委ね、船橋後方で休息をとることにした。
A受審人は、06時35分少し前甲板員の呼び声で目を覚まして船橋当直を引き続ぎ、同時35分安岡港甲防波堤灯台から295度(真方位、以下同じ。)8.4海里の地点で、針路を136度に定め、引き続き10.5ノットの対地速力で、自動操舵によって進行し、同時45分疲れを覚えたので、舵輪後方のいすに腰を掛けて当直にあたっていたところ、連日の操業の疲れから眠気を覚えたが、当直に入る前に休息をとっていたので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、休息中の甲板員を起こして2人で船橋当直をするなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航中、いつしか居眠りに陥った。
鶯丸は、07時13分安岡港甲防波堤灯台から247度3.2海里の地点で、機関の振動によって自動操舵装置の磁気コンパス上部の方位センサー取り付けねじが緩み、同センサーがずれ、居眠りに陥ったA受審人が気付かないまま、自動操舵で左転して095度に向首し、原速力で進行中、07時30分安岡港甲防波堤灯台から179度1.5海里の浅瀬に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船首部外板に破口を伴う凹損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、下関漁港南風泊分港に帰港する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、自動操舵装置が不具合のもと、海岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直にあたり、下関漁港南風泊分港に帰港中、眠気を覚えた場合、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして2人で船橋当直をするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直に入る前に休息をとっていたので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、自動操舵装置の磁気コンパス上部の方位センサー取り付けねじが緩んで同センサーがずれ、自動操舵で左転し、海岸に向首していることに気付かず進行して乗揚を招き、船首部外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。