(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月7日07時15分
備讃瀬戸東部 直島
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船冨士眞丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
70.7メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
冨士眞丸は、石材等の運搬に従事する鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、硅石1,400トンを載せ、船首3.35メートル船尾5.45メートルの喫水をもって、平成15年10月6日16時00分徳島県徳島小松島港を発し、翌朝香川県直島風戸港三菱マテリアル岸壁に着岸の予定で、20時15分直島南西方1.2海里沖に至って投錨仮泊した。
ところで、風戸港は、直島北西部に位置し沖合からでは同島と地続きのように見える寺島との間の狭隘な潮通シノ瀬戸の西側に位置し、また直島北東側に位置した直島港と隣接していた。今回風戸港に初めて入港するA受審人は、それまで播磨灘北西部から直島北部沖合を経て宇野港沖及び葛島水道を通航したことがあったものの、風戸港は直島北部に位置しているという程度の認識しかなく、凡そ入航に必要な同港の水路状況については知らず、しかも港湾資料として所持していた小縮尺の海図137A号では風戸港及び直島港の水路状況を確かめることができなかった。したがって事前に港泊図に準じた大縮尺の海図154号を入手するなりあるいは船主や代理店に詳細な水路情報を得るなりして風戸港入航に関する水路調査を十分に行う必要があった。
ところが、A受審人は、代理店から仕向け地として風戸港への入港指示を受けた際にその入航着岸目標が当該港岸壁上の荷役クレーンである旨を連絡されて、これを目標にすれば入港することができると思い、事前に同港入航に関する水路調査を十分に行わなかった。
こうして、翌7日06時40分A受審人は、風戸港に向けて仮泊地を離れ、乗組員には入港準備を行わせながら自らは単独で見張りを兼ねて操舵操船に当たり、直島西岸沿いに宇高連絡船基準航路を北上した。07時04分直島北部潮通シノ瀬戸北方沖合に至り、同瀬戸に面した西側岸壁に接岸中の大型貨物船を認めて双眼鏡で入航目標としていた岸壁上の荷役クレーンを探したものの、同船の陰になって同目標を認め得ずしかも小さな寺島が直島北部と地続きのようにも見えたので、風戸港は同岸壁ではなく更に東方に位置していると間違え、機関を半速力前進にかけて約8ノットの速力で直島北東部重石鼻沖に向かった。同時09分同鼻北方約300メートル沖に至ってこれをつけ回し、同時10分半京ノ上臈島灯台から176度(真方位、以下同じ。)1,140メートルの地点で、針路を直島北東岸に沿う170度に定めたところ、同鼻東側に拡延した浅瀬域に向首する状況となったが、これに気付かなかった。その後右前方に認めた直島港を風戸港と間違えたまま双眼鏡で入航着岸目標としていた岸壁上の荷役クレーンを探しながら機関を停止して前進惰力で進行中、しばらくすると急に前進行き脚が止まり、07時15分京ノ上臈島灯台から174度1,660メートルの地点において、冨士眞丸は、直島北東部重石鼻東方沖の浅瀬域に原針路のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、冨士眞丸は、船底外板に凹損を生じたが、のち引船の来援を得て離礁した。
(原因)
本件乗揚は、香川県直島北西部に位置する風戸港に初めて入港する際、水路調査が不十分で、同港が同島北東側に位置すると間違えて同島北東端重石鼻をつけ回し同鼻東側に拡延した浅瀬域に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、直島北西部に位置する風戸港に初めて入港する場合、同港は沖合からでは同島と地続きのように見える小さな寺島との間の狭隘な潮通シノ瀬戸の西側に位置しまた直島北東側に位置した直島港に隣接したところで、所持していた海図137A号では小縮尺で両港の水路状況を確かめることができなかったから、両港を間違えることのないよう、事前に港泊図に準じた大縮尺の海図154号を入手するなりあるいは船主や代理店から詳細な水路情報を得るなりして風戸港入航に関する水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、代理店から受けた風戸港入航着岸目標が当該港の岸壁上の荷役クレーンである旨の連絡のみで入港することができると思い、事前に同港入航に関する水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、直島北西部沖合に至って風戸港が同島北東側に位置するものと見誤って直島北東端重石鼻をつけ回し、同鼻東側に拡延した浅瀬域への乗揚を招き、船底外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。