(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月10日22時42分
瀬戸内海 来島海峡 小島
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船旭幸丸 |
総トン数 |
297トン |
登録長 |
48.01メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
旭幸丸は、液体化学薬品ばら積船兼油タンカーである鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成15年10月10日11時20分和歌山県和歌山下津港を発し、大分県大分港に向かった。
ところで、当時の運航は、運航委託の下に少ない乗組員で主に瀬戸内海各港間の液体化学製品等の輸送に従事する短い航海と本船荷役とが繰り返される状況であった。その結果、時によっては乗組員のうちでも船橋当直にあたる者が休息を十分に取り得ず、特に夜間当直者が疲労と睡眠不足の状態から居眠り運航に陥る危険性を考慮して、航海の海技士資格を有し船橋当直の経験のある機関長を兼務させ船長及び一等航海士との3人による単独4時間3直制で船橋当直が維持されていた。しかし、同年9月4日以降後任の機関長が船橋当直の資格も経験もなく、しかも引き続き運航採算上から船橋当直を適切に実施するために必要な員数の甲板部要員が十分に確保されない状況の下で、A及びB両受審人の2人によって単独6時間2直制の船橋当直が行われるようになった。
ところが、A受審人は、当時の運航状況下では2人による船橋当直体制が厳しく当直者が単独当直中に居眠りに陥る危険性があったが、普段から居眠り運航防止等について話しつつも効果的かつ具体的なことまでには至らず、前もって機関長を船橋当直の補助にあてることあるいは当直中に眠気に見舞われた際の対応策など居眠り運航の防止措置を十分に講じなかった。
こうして、A受審人は、本航海の前港にあたる山口県岩国港から和歌山下津港に未明に入航して早朝着桟し、揚げ荷役に続くタンク掃除を終了したのち、自ら出航操船に続き船橋当直に就いて瀬戸内海東部を西行した。同日18時ころ備後灘東部にあたる六島付近でB受審人と当直を交替したが、その際に同人が出航後揚げ荷したタンクの点検作業そして夕食の支度などでほとんど休息を取れずに夜間6時間の単独当直に就く状況であったものの、改めて居眠り運航の防止措置を十分に講じないまま、当直中に来島海峡西水道を通航することになる旨の当直事項を引き継ぎ下橋した。
一方、B受審人は、連日の厳しい運航状況下で当直前に休息も十分に取れず睡眠不足と疲れた体調で単独当直に就いたので、やがて眠気を覚えるようになり、適宜外気に当たるようにして備後灘を経て来島海峡に向かった。22時17分来島海峡航路東口で航路に入航し、その後西水道を通航する予定で四国寄りに同航路に沿って西行した。
ところが、22時30分B受審人は、大浜信号所を通過したころから強い眠気を催すようになったが、少ない員数での運航を思う余り、最悪の事態を考慮して対応策を講ずべく速やかに船長に連絡することなく、立った姿勢で手動操舵にして単独当直を続けた。同時35分来島白石灯標から073度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点で、針路を337度に定め、機関を全速力前進にかけたまま折からの西流に抗して10.0ノットの対地速力で西水道を進行し、やがて来島海峡第3大橋を航過したころから居眠り状態に陥ってしまった。
こうして、旭幸丸は、その後西水道に沿って適宜転針が行われず、次第に左偏するようになりやがて航路から外れて続航するようになった。そのころレーダーで同船の異常な航行を探知した海上交通センターの呼び掛けに何ら応答が行われないまま小島に向かって進行するようになり、22時42分来島中磯灯標から023度70メートルの地点において、船首が295度を向いた状態で原速力のまま小島南西端に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ満潮時で西水道は南流の末期にあたり1.5ノットの潮流があった。
乗揚の結果、船底外板に擦過傷及び推進器翼に損傷をそれぞれ生じたが、満潮を待って自力離礁した。
A受審人は、自室で休息中のところB受審人から連絡を受けて乗揚を知り、事後の措置に当たった。
なお、その後に船橋当直を適切に実施するために必要な員数として甲板部要員1名が増員された。
(原因)
本件乗揚は、主に瀬戸内海を航行範囲とする荷役と短い航海とが昼夜連続した運航を維持する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、夜間、来島海峡西水道を西行中に適宜転針が行われず、小島に向首したまま進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が居眠り運航の防止措置を十分に講じなかったことと、船橋当直者が強い眠気を催しながら船長に連絡しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、少ない乗組員の下で一等航海士との2人で船橋当直体制を維持する場合、本船荷役と短い航海との連続で睡眠不足や疲労が続く状況であったから、仮にも船橋当直者が単独当直中に居眠りに陥ることのないよう、前もって機関長の船橋当直補助あるいは当直中に眠気に見舞われた際の船長への連絡などの居眠り運航の防止措置を十分に講じておくべき注意義務があった。しかし、同人は、普段居眠り運航防止等について話しつつも効果的かつ具体的な対応策まで至らず、機関長の船橋当直補助あるいは当直中に眠気に見舞われた際の船長への連絡などの居眠り運航の防止措置を十分に講じなかった職務上の過失により、単独当直中の一等航海士が強い眠気を催しながら効果的な対応策を取れないまま当直を続けて居眠りに陥り、小島南西端への乗揚を招き、船底外板に擦過傷及び推進器翼に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き来島海峡西水道を西行中、荷役と短い航海の連続で睡眠不足と疲労から強い眠気を催すようになった場合、仮にも居眠りに陥ることのないよう、最悪の事態を考慮して速やかに船長に連絡すべき注意義務があった。しかし、同人は、強い眠気を催しながらも少ない員数での運航を思う余り、速やかに船長に連絡しなかった職務上の過失により、そのまま単独当直を続けて居眠りに陥り、西水道に沿って適宜転針が行われず、小島南西端への乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。