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平成15年神審第118号
件名

押船第八白洋丸被押起重機船第十白洋号乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年5月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一、田邉行夫、中井 勤)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第八白洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十白洋号・・・船底スパッド取り付け外板に小亀裂、右舷スパッド先端部が欠損

原因
操船不適切(離岸堤からの距離の確認不十分)

主文

 本件乗揚は、離岸堤からの距離の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月29日14時00分
 徳島県粟津港南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 押船第八白洋丸 起重機船第十白洋号
総トン数 19トン  
全長 15.00メートル 60.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  

3 事実の経過
 第八白洋丸(以下「白洋丸」という。)は、2機2軸の鋼製押船で、平成14年1月29日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、工事監督者や作業員など10人を乗せ、32トン型消波ブロック30個を積載し、船首2.0メートル船尾2.0メートルの喫水となった起重機船第十白洋号(以下「白洋号」という。)の船尾凹部に白洋丸の船首部を嵌合(かんごう)し、全長約63メートルの押船列(以下「押船列」という。)を構成し、同消波ブロックを据え付ける目的で、船首0.5メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、平成15年8月29日07時20分徳島県粟津港松茂岸壁(あわづこうまつしげがんぺき)を発し、徳島飛行場南方沖合の離岸堤築造工事現場に至り、09時20分据付作業を開始した。
 ところで、白洋丸は、甲板上の操舵室(以下「下部操舵室」という。)のほか、甲板上約7メートルのところにも操舵室(以下「上部操舵室」という。)があった。
 離岸堤築造工事は、徳島飛行場南側で行われている埋立工事区域に南方からの波浪の進入を防止するために行われ、粟津港南防波堤灯台(以下「南灯台」という。)から201度2,210メートルで水深約7メートルの地点から223度(真方位、以下同じ。)の方向へ、消波ブロックを幅約50メートル長さ約92メートルの区域に、徐々に積み上げ、傾斜により水深が次第に減少する離岸堤の海中部分(以下「海中部分」という。)と、海面上に現れる幅約10メートル長さ約56メートル高さ約3メートルの離岸堤を築造しており、海中部分の四隅沖合には位置を明示するため、自動点灯式の点滅灯浮標が設置されていた。
 白洋号は、船体を固定するため後部甲板左右両舷に、全長23.00メートル有効長10.00メートルで、断面が各辺1メートルの方形をした鋼製スパッドをそれぞれ1基装備し、消波ブロックの据付位置を変えるため、わずかな距離を移動する際には、同スパッドの格納と移動後の突き出し及び船体の固定に要する時間を短縮するため、平素よりスパッドを完全に格納せず、船底から突き出して移動することとしていた。
 A受審人は、上部操舵室において、下部操舵室からケーブルを延出した遠隔操縦装置を用いて操船にあたり、白洋号の船首に1人、左右両舷スパッドの操作レバーに各1人の作業員を配置し、更に万一に備えて伝馬船を付近に待機させて、消波ブロックの据付作業と据付箇所の移動を繰り返した。
 13時47分少し前A受審人は、南灯台から201度2,280メートルの地点において、押船列の船首を離岸堤南西面から3メートル離して据付を終え、船首方位が315度となったとき、同堤北西面に移動するため、喫水が船首尾とも1.6メートルとなった白洋号の左右両舷のスパッドを徐々に引き込み、スパッド先端を船底から2メートルばかり突き出したところで止め、同号が装備する2機のバウスラスターを使用して、左回頭を始めた。
 13時49分少し前A受審人は、南灯台から200度2,300メートルの地点において、南西端の点滅灯浮標は、風浪の影響によるものか離岸堤側に幾分寄っていたが、同灯浮標と離岸堤とは間隔があるので、同灯浮標の外側を離して通過すれば離岸堤海中部分にスパッドが接触することはあるまいと思い、固定物である離岸堤からの距離の確認を十分に行うことなく、45度左舷方に回頭したのち、針路を270度に定め、機関を微速力前進にかけ、同灯浮標を見ながら、3.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 こうして、押船列は消波ブロックに乗り揚げる態勢で接近していることに気づかないで続航中、65メートル進出したとき、14時00分南灯台から202度2,300メートルの地点で、原針路、原速力のまま、右舷スパッドが海中部分に設置された消波ブロックに乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
 乗揚の結果、白洋号の船底スパッド取り付け外板に小亀裂を生じ、右舷スパッド先端部の欠損を生じたが、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、徳島県粟津港南方沖合の離岸堤築造工事区域において、消波ブロックの据付作業中、スパッドを船底から突き出したまま、次の据付場所に向けて移動する際、離岸堤からの距離の確認が不十分で、海中部分に設置された消波ブロックに向かって進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、徳島県粟津港南方沖合の離岸堤築造工事区域において、消波ブロックの据付作業中、スパッドを船底から突き出したまま、次の据付場所に向けて移動する場合、海中部分に設置された消波ブロックに乗り揚げることのないよう、離岸堤からの距離の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、海中部分の四隅沖合に取り付けられた点滅灯浮標の外側を離して通過すれば離岸堤海中部分にスパッドが接触することはあるまいと思い、固定物である離岸堤からの距離の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、消波ブロックに乗り揚げる態勢で接近していることに気付かないまま進行して、同ブロックへの乗揚を招き、船底スパッド取り付け外板に小亀裂を生じさせ、スパッド先端部が欠ける損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。





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