(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月21日17時00分
和歌山県田辺市森埼北西沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船第十たつ丸 |
総トン数 |
74トン |
全長 |
21.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
3 事実の経過
第十たつ丸(以下「たつ丸」という。)は、主に地盤改良船の揚投錨作業に従事する鋼製作業船で、A受審人ほか3人が乗り組み、地盤改良船に会合する目的で、船首1.5メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成15年11月21日06時55分兵庫県東播磨港を発し、愛知県衣浦港に向かった。
ところで、A受審人は、夜航海をせずに目的地に向かうために、和歌山県田辺港沖及び三重県尾鷲港沖に錨泊することにしていた。
また、船内に備えていた使用海図第77号は、平成5年以降改補が行われていなかったので、田辺港北側に位置する森埼南方沖の灯台の記載はあったものの、平成10年2月に森埼北西方の目津埼に新設された目津埼南方灯標の記載がなかった。
出航に先立って、A受審人は、初めて田辺港周辺の陸岸に接近して錨泊する計画を立てるにあたり、使用海図が改補されていない旧海図であることを知っていたから、最新の海図を用意するなどして予定錨地周辺の十分な水路調査をする必要があったが、明るい内に錨泊するので、使用海図に記載されていた森埼南方沖の灯台を確認して錨地に接近すれば大丈夫と思い、最新の海図W77を用意して航路標識の確認をするなどの水路調査を十分に行っていなかったので、目津埼南方灯標が新設されたことを知らなかった。
こうして、A受審人は、紀伊水道を南下し、平成15年11月21日16時20分目津埼南方灯標から276度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点に達したとき、操舵室の舵輪後方に立って操船操舵にあたり、針路を110度に定めて全速力前進の6.0ノットの対地速力で森埼南東方の下芳養湾(しもはやわん)に錨泊するつもりで進行した。
16時36分A受審人は、目津埼南方灯標から207度800メートルの地点に達したとき、左舷船首方に紀伊半島南東岸の岬の一つの沖合に目津埼南方灯標を視認したことから、目津埼南方灯標を森埼南方沖の灯台と思い、左転して針路を055度にしたところ、目津埼南方の浅礁が散在する海域に進入する態勢となったが、2.0ノットの対地速力で船首に3人の見張りをたてて白波の立っていない海面の方向を報告させながら、ジグザグに続航中、たつ丸は、17時00分目津埼南方灯標から073度0.8海里の地点の浅礁に、北東を向首して原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、田辺港の日没は16時53分であった。
乗揚の結果、船底外板に小破口を伴う凹損及びプロペラ翼に曲損などを生じたが、自力離礁していずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は、和歌山県田辺市森埼南東沖合の予定錨泊地点に向け航行する際、最新の海図を用意して航路標識を確認するなどの水路調査が十分でなく、目津埼南方の浅礁が散在する海域に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、和歌山県田辺市森埼南東沖合の予定錨泊地点に向けて航行する場合、森埼と目津埼を見誤らないよう、最新の海図W77を用意して航路標識を確認するなどの水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、明るい内なら森埼南方沖の灯台を確認して錨地に接近すれば大丈夫と思い、最新海図を用意して航路標識を確認するなどの水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、森埼を目津埼と見誤り、目津埼南方の浅礁が散在する海域に向けて転針し、同海域に進入して浅礁への乗揚を招き、船底外板に小破口を伴う凹損及びプロペラ翼に曲損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。