(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月10日08時30分
北海道増毛港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第21安全丸 |
総トン数 |
19.86トン |
全長 |
20.32メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
253キロワット |
3 事実の経過
第21安全丸(以下「安全丸」という。)は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和58年6月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年8月9日14時00分北海道増毛港を発し、同港北西方沖合35海里の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、2月中旬に山口県沖合の漁場でいか漁を開始し、日本海を北上しながら操業を行って7月下旬に増毛港に至り、同港を基地にして出漁していたが、漁場との往復の航海当直や、漁場での魚群探索、漁獲物の箱詰め作業などで出港から帰港までほとんど休めず、停泊中に3時間ばかりしか休息をとれない日が続き、睡眠不足のため疲労が蓄積した状態となっていた。
A受審人は、17時30分前示漁場に至り、魚群探索を行ったのちいか約1,150キログラムを漁獲したところで操業を打ち切り、翌10日04時51分増毛港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から305度(真方位、以下同じ。)36.0海里の地点を発進して帰途に就き、針路を125度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により進行した。
発進後A受審人は、操舵室右舷側のいすに腰を掛けた姿勢で当直に当たって続航し、07時51分北防波堤灯台から308度6.0海里の地点に至り、間もなく入港となることをレーダーで認めた。このとき同人は、そのままの姿勢で見張りを続けると、入港間近となったことによる気の緩みや蓄積した疲労から居眠りに陥るおそれがあったが、特に眠気を感じていなかったので居眠りすることはないものと思い、立って手動操舵に切り替え操舵に当たるとか、乗組員と2人で当直を行うなど、居眠り運航の防止措置をとることなく進行するうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして安全丸は、居眠り運航となり、増毛港東側の稲尾埼に向首して続航中、08時30分北防波堤灯台から078度0.4海里の地点の浅礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、衝撃で目覚め事後の措置に当たった。
乗揚の結果、安全丸は、プロペラ及び同シャフト曲損並びにシューピース損傷及び舵板亀裂等を生じたが、来援したクレーン船により離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、単独で航海当直に就いて漁場から北海道増毛港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、稲尾埼に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独で航海当直に就いて漁場から北海道増毛港に向け自動操舵により帰航中、入港が間近となった場合、いすに腰を掛けた姿勢のまま当直を続けると、入港間近となったことによる気の緩みや蓄積した疲労から居眠りに陥るおそれがあったから、立って手動操舵に切り替え操舵に当たるとか、乗組員と2人で当直を行うなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、特に眠気を感じていなかったので居眠りすることはないものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、同港東側の稲尾埼に向首したまま進行して乗揚を招き、安全丸のプロペラ及び同シャフト曲損並びにシューピース損傷及び舵板亀裂等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。