(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月2日00時20分
友ケ島水道地ノ島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八英和丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
58.03メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第八英和丸(以下「英和丸」という。)は、全通二層甲板型の鋼製貨物船で、平成15年8月30日11時50分神戸港に空船で入港、着岸したのち、2度にわたって鋼材654トンの積荷役を行い、A受審人と英和丸所有者の機関長が2人で乗り組み、船首2.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同年9月1日21時30分名古屋港に向け神戸港を発した。
ところで、神戸港においては、積荷待ちのために2度の港内シフトを余儀なくされたが、荷役が陸上の業者によって行われたので、A受審人は、精神的な疲労感をおぼえたものの、肉体的にはさほど疲れてはいなかった。
A受審人は、英和丸の航海当直を、同人及び機関長とで単独4時間ずつの交替制としており、神戸港を出港後、出港操船に引き続いて翌2日01時45分までの予定で船橋当直に就き、22時30分神戸灯台から149度(真方位、以下同じ。)6.3海里の地点で、針路を和歌山県加太瀬戸に向かう209度に定め、主機を回転数毎分340の全速力前進にかけ、9.8ノットの対地速力で自動操舵により進行し、その後、操舵スタンド後方のいすに腰掛けた姿勢で見張りを行いながら続航した。
23時29分A受審人は、関西国際空港飛行場灯台から264度4.3海里の地点に達したとき、眠気を催したので、それを払拭する目的で、コーヒーを飲みラジオをつけたものの、再び前記いすに腰掛ける姿勢をとって進行した。
翌2日00時00分ごろA受審人は、左舷方1.5海里ばかりに陸影を認め、約20分で加太瀬戸に至ることを知ったが、コーヒーを飲んだので居眠りすることはあるまいと思い、いすから立ち上がって船橋内を移動するとか、外気にあたるなど、居眠り運航の防止措置をとらずにいたところ、程なく居眠りに陥った。
こうして、英和丸は、A受審人が寝入った状況で原針路、原速力のまま続航し、00時20分地ノ島灯台から096度200メートルの地点において、地ノ島東方沖合の暗岩に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、海上は平穏で、潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は、船底が海底を擦る音と振動で目を覚まし、就寝中であった機関長に事態を知らせ、共に事後の措置にあたった。
乗揚の結果、英和丸は、船首部船底外板に3箇所の亀裂を伴う凹損を生じ、船首水倉及びバラストタンクに浸水したが、来援したタグボートにより引き下ろされ、のち、修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、和歌山県加太瀬戸に向け大阪湾を南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、地ノ島東方沖合の暗岩に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、和歌山県加太瀬戸に向け大阪湾を南下中、単独で船橋当直をしていて眠気を催した場合、居眠り運航にならないよう、いすから立ち上がって船橋内を移動するとか、外気にあたるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、コーヒーを飲んだのでやがて眠気が払拭されるものと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けて自動操舵で当直中、居眠りに陥り、地ノ島東方沖合の暗岩に向首したまま進行して乗揚を招き、船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせ、船首水倉及びバラストタンクに浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。