(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月29日04時52分
兵庫県東播磨港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船寶積丸 |
総トン数 |
299トン |
全長 |
51.51メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
寶積丸は、専ら石炭灰の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉で、海水バラスト80トンを張り、船首0.96メートル船尾2.96メートルの喫水をもって、平成15年1月28日18時45分兵庫県赤穂港のB社岸壁を発し、同県東播磨港の錨地に向かった。
ところで、当時寶積丸は、連日C社D所桟橋から前示岸壁への輸送を繰り返し、毎日夕刻には前示錨地に至って錨泊し、翌朝積荷のため同桟橋に着桟するまで待機することとしていた。
A受審人は、平素から毎日07時と19時の気象ファクシミリを受信し、気象情報を把握していたものの、出入港作業に追われていたので、同月26日19時の同ファクシミリを最後に同情報を入手しておらず、28日14時50分神戸海洋気象台が、発達した低気圧の通過に伴って、兵庫県播磨南東部に前日からの強風・波浪注意報に替えて風雪・波浪注意報を発表し、西又は北西の風が最大で風速毎秒20メートルと予報していたことを知らなかった。
28日20時40分A受審人は、東播磨港高砂西港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から252度(真方位、以下同じ。)1,400メートルで、底質が砂と貝殻混じりの泥で水深9メートルの地点に重さ635キログラムの右舷錨を投下し、後進で錨鎖7節のうち3節を水際まで延出し、錨が確実に海底をかき、風速毎秒6メートルの西風が吹いていることを確認したのち、翌29日08時00分に抜錨する予定で乗組員全員を休息させ錨泊を開始した。
29日01時00分A受審人は、いつものように周囲の状況を確認するため昇橋したとき、風速毎秒11メートルの西風が吹き、投錨時より風が強くなっていることを知ったが、レーダーで船位を確認したところ、走錨している様子はなかったので、この程度の風浪であれば走錨のおそれはないものと思い、守錨当直の配置など走錨防止措置の必要性について判断ができるよう、ファクシミリ又はナブテックス受信機などによる気象情報の収集を行わなかったので、更に風が強くなることを知ることができず、降橋して自室に戻り休息した。
その後、寶積丸は、西風が更に強くなったが、錨鎖を延ばすなど走錨防止措置がとられず、やがて風向が西南西となって風力8に達して陸岸に向かって走錨を始め、04時52分西防波堤灯台から296度150メートルの地点において、船首を西南西に向け、浅所に船尾から乗り揚げた。
当時、天候は雪で、最大で風速毎秒20メートルに達する突風を伴う風力8の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、船底を擦る異音により目が覚めて走錨したことを知り、急いで自室から飛び出し、機関長に直ちに主機始動を、一等航海士らに揚錨準備を指示して昇橋したのち、機関を前進にかけたものの、推進器翼が海底に接触して停止し、事後の措置にあたった。
乗揚の結果、寶積丸は船体に左舷側から風圧を受け、北西方に延びる護岸とほぼ平行な態勢で消波ブロックに打ち寄せられ、船底外板全般と舵板下部に凹損を、右舷機関室付近に破口を、推進器翼端部に欠損及び曲損を生じたが、引船によって引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、兵庫県東播磨港において、錨泊待機した際、気象情報の収集が不十分で、発達した低気圧の通過に伴う強風によって走錨し、圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、兵庫県東播磨港において、錨泊待機中、風が強まっているのを認めた場合、守錨当直の配置など走錨防止措置の必要性について判断ができるよう、ファクシミリ又はナブテックス受信機などによる気象情報の収集を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、この程度の風浪であれば走錨のおそれはないものと思い、気象情報の収集を行わなかった職務上の過失により、風が更に強くなることを知ることができず、錨鎖を延ばすなど適切な走錨防止措置をとらないまま錨泊を続けて走錨し、浅所への乗揚を招き、船底外板全般と舵板下部に凹損及び右舷機関室付近に破口並びに推進器翼端部に欠損及び曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。