(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月19日19時00分
五島列島赤島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船豊丸 |
漁船大漁丸 |
総トン数 |
1.0トン |
0.4トン |
登録長 |
6.75メートル |
4.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
25 |
60 |
3 事実の経過
豊丸は、主として刺網及び一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(5トン限定二級小型船舶操縦士・特殊船舶操縦士平成9年4月1免許取得)ほか1人が乗り組み、いか釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、平成15年10月19日17時40分長崎県福江市赤島漁港を発し、漁場に向かった。
ところで、豊丸は、船体のほぼ中央部甲板上に機関室囲壁があってその後部に操舵室が設けられ、機関室囲壁の上に両色灯が、操舵室上方にあるマストに白色全周灯がそれぞれ法定灯火として備えられていたほか、船首楼の船体中心線上にある高さ約2メートルのマスト頂部に白色の全周灯(以下、「船首全周灯」という。)が備え付けられていた。
A受審人は、18時00分赤島南方沖合約400メートルの地点に到着していか釣りを始めたものの、釣果がなかったので漁場を移動することとし、法定の灯火を掲げたうえに船首全周灯を点灯して自ら操舵操船に当たり、18時50分針路を317度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を極微速力前進にかけ、2.6ノットの対地速力で黄島灯台から031度1.5海里の地点を発進し、長さ約3.6メートルの釣りざおを両舷正横方向に出して舷側に固定し、釣り糸を引きながら赤島北西方沖合の漁場に向かった。
定針したとき、A受審人は、周囲を一見して左舷前方1,000メートルばかりの赤島北西方沖合に数個の紅色点滅灯を認め、平素から付近の海域で法定灯火を表示しないまま操業する漁船があることを知っていたので、「光力の弱い灯火のみを掲げて操業している漁船がある。」と思ったものの、船首全周灯を消灯しないまま、さお先に魚信があればすぐに停留していか釣りを始めるつもりで、乗組員を操舵位置の左舷側に立たせて左方のさお先と前方の見張りに当たらせ、自らは右方のさお先と前方を交互に見張りながら赤島西岸沿いを北上した。
A受審人は、18時55分黄島灯台から023度1.6海里の地点に達したとき、大漁丸が正船首425メートルに存在し、その後船首全周灯を消灯して前方を注視していれば、大漁丸の掲げる緑色簡易点滅灯を視認できる状況となった。しかしながら、同人は、前路には紅色点滅灯を掲げた漁船のほかに航行の支障となる他船はないものと思い、依然として船首全周灯を点灯したまま前方の見張りを十分に行うことなく、大漁丸の掲げる簡易点滅灯に気付かなかった。
こうして、A受審人は、定針したときから付近の海域に光力の弱い灯火のみを掲げて操業している漁船が存在することを知っていたものの、その後運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に注意せず、前路の見張りを十分に行っていなかったので、前路に停留している大漁丸の存在に気付かず、衝突回避の措置を講じないまま、同船に向首して続航中、19時00分わずか前ふと前方を見張ったとき、船首全周灯に照らされた大漁丸の左舷後部を右舷船首至近に認めとっさに機関を中立とした直後、19時00分黄島灯台から016度1.7海里の地点において、豊丸は、原針路、原速力のままその船首が大漁丸の左舷側中央部に後方から約60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、日没時刻は17時48分であった。
また、大漁丸は、船外機2機を備え、主として一本釣り漁業に従事する甲板上に構造物がないFRP製漁船で、B受審人(四級小型船舶操縦士平成9年7月免許取得)が1人で乗り組み、刺網の投網といか釣りを行う目的で、船首0.15メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、同日16時00分赤島漁港を発して16時15分赤島南東沖合約400メートルの沖瀬周辺の漁場に到着し、やがて刺網の投網を終えていかの釣り場に移動することにした。
ところで、B受審人は、夜間自動的に点灯する製造者及び性能等不詳の、光力の弱い緑色簡易点滅灯(単1乾電池1個入り、約1秒間隔で1閃光)を近所の船具店で購入し、これを長さ約2メートルの竹ざおの先端部に固縛して船首のたつに取り付けていたが、航行中の動力船が表示しなければならない法定灯火を設備していなかった。そのため夜間航行をしてはならなかったものの、いつも簡易点滅灯のみを掲げて航行していたので、これまでどおりで特に差し支えないものと思い、法定灯火を設備しないまま、平素のように夜間操業する予定にして17時15分前示漁場から移動を始めた。
B受審人は、赤島東岸から北岸沿いに釣りを行いながら漁場を移動して同島西岸に至り、18時ごろ前示衝突地点付近に到着して船外機を止め、停留していか釣りを始め、時折船外機を使用して潮上りしては再び停留して釣りを続けていた。
こうして、B受審人は、簡易点滅灯を掲げ、折からの北西風を右舷側に受けて船首を257度に向け、船尾右舷側にある物入れのさぶたに右舷方を向き腰を掛けて船外機を止め、停留していか釣り中、18時50分左舷船尾60度850メートルのところに、自船に向首する態勢の豊丸の灯火を視認することができ、その後同船が自船に接近して来ることを認め得る状況であった。しかしながら、同人は、運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に注意せず、自船は簡易点滅灯を掲げて釣りをしているので、接近する他船が自船の点滅灯に気付いて衝突を回避してくれるものと思い、右舷方を向いたままいか釣りをすることのみに専念し、周囲の見張りを十分に行わず、接近して来る豊丸の存在に気付かなかった。
18時55分B受審人は、自船に向首した豊丸が425メートルに接近したが、依然として周囲の見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、船外機を前進にかけて衝突を回避するための措置を講じないまま停留中、機関音を聞いて後方を振り返ったとき、至近に迫った豊丸に気付いたが何をする間もなく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、豊丸に損傷はなかったが、大漁丸は船体中央部左舷側外板及び甲板に亀裂を生じて転覆し、船外機2機に濡損を生じたが、のち修理され、B受審人は豊丸に救助された。
(原因)
本件衝突は、夜間、五島列島赤島西方沖合において、法定灯火を設備しないまま、光力の弱い簡易点滅灯を掲げたのみで停留中の大漁丸が、見張り不十分で、豊丸との衝突を回避する措置を講じなかったことによって発生したが、漁場を移動中の豊丸が、見張り不十分で、大漁丸との衝突を回避する措置を講じなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、五島列島赤島西方沖合において、法定灯火を設備しないまま、光力の弱い簡易点滅灯を掲げたのみで停留して釣りを行う場合、運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に注意して、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船は簡易点滅灯を掲げて釣りをしているので、接近する他船が自船の点滅灯に気付いて衝突を回避してくれるものと思い、いか釣りをすることのみに専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近して来る豊丸の存在に気付かず、衝突回避の措置を講じることなく停留して衝突を招き、自船の船体中央部左舷側外板及び甲板に亀裂を生じさせ、同船を転覆させて船外機2機に濡損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、五島列島赤島西方沖合において、漁場を移動する場合、付近の海域に光力の弱い灯火のみを掲げて操業する漁船が存在することを知っていたのだから、運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に注意して、光力の弱い灯火を掲げる船舶等をも見落とさないよう、船首全周灯を消灯して前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、定針したとき周囲を一見して前路には航行の支障となる他船はないものと思い、船首全周灯を点灯したまま前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大漁丸の存在に気付かず、衝突回避の措置を講じることなく同船との衝突を招き、前示のとおり大漁丸に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。