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平成15年那審第64号
件名

遊漁船第二十一海栄丸漁船伸洋丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏、杉崎忠志、加藤昌平)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第二十一海栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:伸洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
第二十一海栄丸・・・船首船底に擦過傷
伸洋丸・・・船体前部両舷に亀裂を伴う損傷を生じて浸水、のち廃船

原因
第二十一海栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
伸洋丸・・・避航を促す音響による注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第二十一海栄丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の伸洋丸を避けなかったことによって発生したが、伸洋丸が、避航を促す有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月20日10時50分
 沖縄県国頭郡本部町水納島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第二十一海栄丸 漁船伸洋丸
総トン数 4.9トン 2.98トン
全長 15.62メートル  
登録長   8.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 316キロワット 84キロワット

3 事実の経過
 第二十一海栄丸(以下「海栄丸」という。)は、船体中央部やや船尾寄りに操舵室を設けたFRP製遊漁船で、昭和54年7月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、乗客14人と自分の息子1人を乗せ、乗客にシュノーケリングを行わせる目的で、平成15年8月20日09時ごろ沖縄県恩納漁港を発し、同港北方沖合の水納島に向かった。
 09時30分ごろA受審人は、水納島の北側に広がるさんご礁に至り、乗客に1時間ほどシュノーケリングを行わせた後、昼食と休憩のために水納港に入港して乗客全員を上陸させ、その間水納島北西方で錨泊して待機することとし、息子1人を同乗させたまま、船首0.65メートル船尾1.35メートルの喫水をもって、10時35分同港を発した。
 10時43分A受審人は、水納島灯台から030度(真方位、以下同じ。)1,150メートルの地点で、針路を298度に定め、速力を半速力よりわずかに遅い8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、息子を船尾甲板に座らせ、自らは操舵室右舷側に設置したいすに腰掛けた姿勢で、手動操舵により進行した。
 定針時、A受審人は、前路を一瞥(いちべつ)して、左舷船首約30度となる水納島北西方沖合の投錨予定水域に、2隻の錨泊船がいるのを視認したものの、左舷船首4度1,800メートルのところに存在する伸洋丸に気付かず、同一針路、速力で続航し、10時46分半、水納島灯台から350度1,450メートルの地点に差し掛かったとき、右舷正横約1,800メートルのところに、前路を左方に横切る態勢のダイビング船を認め、同船の動静監視を続けながら続航した。
 10時49分半わずか前A受審人は、水納島灯台から333度2,000メートルの地点に達したとき、左舷船首59度150メートルのところに、伸洋丸を視認でき、同船が法定の形象物を掲げていないものの、その船首方向がほとんど変わらず、航走波も見えないことなどから、錨泊中であることを認めることのできる状況で、このころ、先ほどの横切り船が、左転して自船の右舷後方に向けたことから、投錨予定水域に向けて左転することとしたが、定針時に2隻の錨泊船以外に他船を見なかったので、転針方向に問題となる船はいないものと思い、右舷方近くを航過する船に目を向けたまま、転針方向の見張りを十分に行うことなく、勘によって針路を239度に転じた。
 239度に向首したときA受審人は、伸洋丸が正船首となり、同船と衝突のおそれがある態勢で接近することとなったが、依然、同方向の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、伸洋丸を避けることなく、同一針路、速力で進行中、ふと前方を見たとき、直前に同船の操舵室を視認し、機関後進としたものの効なく、10時50分水納島灯台から329度2,000メートルの地点において、原針路、原速力のまま、海栄丸の船首が、90度の角度で伸洋丸の左舷前部に衝突し、同船に乗り揚げて停止した。
 当時、天候は晴で風力4の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 また、伸洋丸は、船体後部に操舵室を設け、その後方に天幕を設置したFRP製漁船で、昭和50年7月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、一本釣り漁の目的で船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同20日08時ごろ、沖縄県渡久地港を発し、水納島北方の釣り場に向かった。
 B受審人は、08時30分ごろ釣り場に到着し、投錨して釣りを行ったが、釣果が思わしくなかったことから釣り場を移動することとし、09時30分衝突地点付近の水深27メートルのところに、船首から重さ17.5キログラムの錨を投入し、直径8ミリメートルのナイロン製錨索を約50メートル伸出させて錨泊し、機関を停止した後、錨泊中であることを示す法定の形象物を掲げないまま、右舷船尾で西方を向いて立った姿勢で竿釣りを開始した。
 10時49分半わずか前B受審人は、149度に向首していたとき、左舷正横150メートルのところに、海栄丸が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが、相手船が錨泊中の自船を避けるものと思い、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行うことなく同船の様子を見ていたところ、避航の様子を見せないままさらに接近し続けることから衝突の危険を感じ、同船に向かって大声で叫びながら手を振ったものの効なく、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海栄丸は、船首船底に擦過傷を生じ、伸洋丸は、船体前部両舷に亀裂を伴う損傷を生じて浸水し、海栄丸によって渡久地港に引き付けられたが、のち、廃船とされた。 

(原因)
 本件衝突は、沖縄県国頭郡本部町水納島の北方沖合において、航行中の海栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の伸洋丸を避けなかったことによって発生したが、伸洋丸が、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県国頭郡本部町水納島の北方において、錨地に向けて航行中、転針する場合、転針方向で錨泊する伸洋丸を見落とすことのないよう、同方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、右舷方近くを航過する第三船に気をとられ、転針方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、伸洋丸に向けて転針したことに気付かず、その後、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首船底に擦過傷を生じ、伸洋丸の船体前部両舷に亀裂を伴う損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、水納島の北方沖合において錨泊中、自船に向首進行する海栄丸が、避航する様子のないまま衝突のおそれがある態勢で接近し続けるのを認めた場合、同船に避航を促す有効な音響による注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、いずれ相手船が自船を避けるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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