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平成16年門審第23号
件名

貨物船寶積丸貨物船エルティ ピース衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治、千手末年、上田英夫)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:寶積丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:エルティ ピース一等航海士

損害
寶積丸・・・球状船首部、左舷船首部及び左舷船橋部に凹損など
エ号・・・右舷ほぼ中央部及び後部に凹損など

原因
エ号・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
寶積丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、エルティ ピースが、前路を左方に横切る寶積丸の進路を避けなかったことによって発生したが、寶積丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月9日04時23分
 玄界灘
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船寶積丸 貨物船エルティ ピース
総トン数 299トン 17,887トン
全長 51.51メートル  
登録長   171.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 12,474キロワット

3 事実の経過
 寶積丸は、主に西日本の各港間で貨物輸送に従事する船尾船橋型鋼製セメント運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.24メートル船尾3.04メートルの喫水をもって、平成15年11月8日23時55分関門港を発し、長崎県松浦港に向かった。
 ところで、寶積丸は同月6日08時ごろ関門港に入港し、その後船体整備や船用品の積み込み作業等を行ったのみで、松浦港入港時刻調整のため前示出港時刻まで着岸待機しており、乗組員はこの間適宜休養をとって過ごす等、睡眠時間も十分とり、疲労も解消していた。
 A受審人は、発航時に法定の灯火を表示して、船橋当直体制を一等航海士と2人で、原則として単独6時間毎の交代制に定め、発航操船に引き続き単独で船橋当直に就き、九州北部海岸沿いに西行し、翌9日03時04分筑前大島灯台から113度(真方位、以下同じ。)2.80海里の地点で、針路を228度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 定針後A受審人は、操舵室中央部で立った姿勢で当直に当っていたが、03時49分福岡県相ノ島に並航するころ、レーダーで周囲の状況を確認したところ、付近に自船の航行に支障となる他船を認めなかったことから、また、一等航海士が荷役計算を円滑にできなかったので、同人にその計算方法を教える資料を作成することを思い立ち、その後船橋左舷後部に設置された海図台に向かって大学ノートに荷役計算要領の作成を開始した。
 04時16分半わずか前A受審人は、玄界島灯台から021度2.95海里の地点に達したとき、左舷船首44.5度2.20海里のところに前路を右方に横切る態勢のエルティ ピース(以下「エ号」という。)の表示する白、白、緑3灯を視認し得る状況で、その後その方位が変わらず同船と衝突のおそれがある態勢で接近していたが、前示要領の作成に没頭し、周囲の見張りを十分に行うことなく、エ号の発した信号灯による注意喚起信号や汽笛音にも気付かず、同船に対し警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行した。
 04時23分わずか前A受審人は、前示要領の作成を終え左舷船首方を向いたとき至近距離に迫ったエ号の灰色の船体を初めて視認し、あわてて操舵を手動に切り替えて右舵一杯をとり引き続いて機関を全速力後進にかけたが効なく、04時23分玄界島灯台から002度1.88海里の地点で、寶積丸は、原針路、原速力のまま、その船首部がエ号の右舷ほぼ中央部に後方から32度の角度で衝突し、その反動により寶積丸の船橋左舷部とエ号の右舷後部とが再度衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、視界は良好で潮候は上げ潮の初期であった。
 また、エ号は、日本、台湾及び香港の各港間に就航する鋼製船尾船橋型コンテナ船で、船長C、B指定海難関係人ほか13人が乗り組み、コンテナ貨物8,755.2トンを積載し、船首7.20メートル船尾8.10メートルの喫水をもって、同月9日03時12分博多港を発し、台湾基隆港に向かった。
 C船長は、発航時に法定の灯火を表示し、船橋当直体制を各直に1人の航海士と操舵手1人の2人1組による4時間3直制に定め、発航操船の後、船舶輻輳時や不安を感じたとき等の船長指示をナイトオーダーブックに書き記し、二等航海士に当直を委ねて降橋した。
 03時55分B指定海難関係人は、福岡湾の能古島付近で二等航海士から当直を引き継ぎ、機関を全速力前進に令して操舵手を手動操舵に就かせて同湾を西行し、04時05分玄界島灯台から141度2.55海里の地点で、福岡湾口に向け右転して針路を345度に定め、速力14.0ノットで進行した。
 04時07分B指定海難関係人は、玄界島灯台から136度2.10海里の地点に達したとき、右舷船首24.5度5.55海里のところに寶積丸の表示する灯火を視認したので、同船の動静を監視し、その方位が徐々に左方に変わりつつあるのを確認しながら続航した。
 04時13分B指定海難関係人は、玄界島東方に達して次のコースに乗せることとし、徐々に左転を開始して同時16分半わずか前玄界島灯台から057.5度1.10海里の地点で、針路を330度に転じ終えたとき、寶積丸の白、白、紅3灯を右舷船首33.5度2.20海里に認めて横切り態勢であることを知り、その後その方位が明確に変化しなくなったので、同船と衝突のおそれがある態勢で接近することが分かったが、小型船である寶積丸が自船を避航するだろうと思い、同船に対し信号灯により注意喚起信号を行っただけで、早期に転舵するなどして同船の進路を避けることなく進行中、同時21分衝突の危険を感じて汽笛を連吹し、同時22分左舵一杯をとったが及ばず、エ号は、ほぼ原速力のまま260度を向首したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、寶積丸は、球状船首部、左舷船首部及び左舷船橋部に凹損などを生じ、エ号は、右舷ほぼ中央部及び後部に凹損などを生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、福岡湾北方の玄界灘で、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、エ号が、前路を左方に横切る寶積丸の進路を早期に避けなかったことによって発生したが、寶積丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、福岡湾北方の玄界灘を西行する場合、左舷方の福岡湾内から北上する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、相ノ島に並航するころレーダーで周囲の状況を確認して、付近に自船の航行に支障となる他船を認めなかったので、大丈夫と思い、海図台に向かい荷役計算要領の作成に没頭して、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するエ号に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、寶積丸の船首部及び左舷船橋部に凹損などを、エ号の右舷外板に凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、福岡湾北方の玄界灘で、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する寶積丸を認めた際、早期に転舵するなどして同船の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが、今後積極的な避航操船をするよう努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:35KB)





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