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平成16年門審第21号
件名

貨物船開神丸貨物船龍陽丸衝突事件
第二審請求者〔受審人A〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦、長谷川峯清、上田英夫)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:開神丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
C 職名:龍陽丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:開神丸甲板長

損害
開神丸・・・船首部に凹損など
龍陽丸・・・左舷後部に破口を生じて機関室に浸水、沈没して全損、機関長が頭部打撲傷等の負傷

原因
開神丸・・・狭視界時の航法(信号、速力)不遵守(主因)
龍陽丸・・・狭視界時の航法(信号、速力)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、開神丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、龍陽丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月4日02時33分
 静岡県御前埼東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船開神丸 貨物船龍陽丸
総トン数 499トン 199トン
全長 75.50メートル 58.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 開神丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト827トンを積載し、船首2.35メートル船尾3.65メートルの喫水をもって、平成15年9月3日15時50分千葉港を発し、三重県津港に向かった。
 A受審人は、船橋当直をB指定海難関係人、一等航海士及び自らの3人による単独4時間の3交替制に定め、同日23時30分伊豆半島東岸を航行中、同当直を同指定海難関係人に委ねたが、同指定海難関係人が豊富な海上経験を有していたことから、単独の船橋当直を任せても大丈夫と思い、視界制限状態となったときには自ら操船指揮がとれるよう、同指定海難関係人に対し、視界が狭められる状況となった際には速やかに報告するよう指示しなかった。
 B指定海難関係人は、単独で船橋当直に就いて進行し、翌4日02時17分御前埼灯台から104度(真方位、以下同じ。)11.6海里の地点に達したとき、霧のため視程が約1海里となって視界が制限される状況となったが、このことをA受審人に報告せず、針路を267度に定め、機関を全速力前進に掛けて11.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により続航した。
 自室で休息をとっていたA受審人は、霧のため視程が約1海里となって視界が制限される状況となったが、このことを知る由もなく、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもできずにそのまま進行した。
 B指定海難関係人は、02時20分御前埼灯台から105度11.1海里の地点に達したとき、レーダーで正船首4.6海里のところに龍陽丸の映像を初めて探知し、同船と右舷を対して航過するつもりで、針路を257度に転じ、同時25分視程が悪化して200メートルとなったので更に左に転ずることにし、小刻みに左転を繰り返して247度の針路で同じ速力のまま続航した。
 A受審人は、02時27分御前埼灯台から109度9.9海里の地点に達したとき、龍陽丸が右舷船首22度2.0海里となり、その後著しく接近することが避けられない状況となったが、B指定海難関係人から視界制限状態となったことの報告が得られなかったので、自ら操船指揮をとることができないまま、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて停止するなどの措置をとることができずにそのまま進行した。
 02時30分B指定海難関係人は、GPS画面上に表示された船位を海図上に記載したのち、レーダー画面を見たところ、龍陽丸が著しく接近していることを知り、同時31分機関を半速力前進として9.0ノットに減速するとともに手動操舵に切り替えて同じ針路で続航中、同時33分少し前同船の左舷灯を右舷船首至近に視認して右舵一杯としたが及ばず、開神丸は、02時33分御前埼灯台から113度9.1海里の地点において、280度を向首したその船首が、原速力のまま、龍陽丸の左舷後部に前方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の南風が吹き、視程は約200メートルであった。
 A受審人は、衝撃で衝突を知り、昇橋して事後の措置に当たった。
 また、龍陽丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、C受審人ほか1人が乗り組み、鋼材約516トンを載せ、船首2.25メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同月3日17時10分名古屋港を発し、千葉港に向かった。
 C受審人は、翌4日01時00分遠州灘を東行中、単独の船橋当直に就き、同時45分御前埼灯台から180度2.5海里の地点で、針路を095度に定め、機関を全速力前進に掛けて10.6ノットの速力で自動操舵により進行した。
 02時17分C受審人は、御前埼灯台から118度6.4海里の地点に達したとき、霧により視程が約1海里となって視界が制限される状況となったことを知ったが、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもせず、このころ、レーダーで左舷船首7度5.7海里のところに開神丸の映像を探知し、同映像を監視しながら続航した。
 C受審人は、02時27分御前埼灯台から113度8.0海里の地点に達し、視程が更に悪化して約200メートルとなったとき、開神丸のレーダー映像を左舷船首6度2.0海里のところに探知したことから、同船と左舷を対して航過するつもりで、針路を右に転じて110度とした。そして、その後、著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めたが、針路を15度右に転じたので大丈夫と思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて停止することもしないまま進行した。
 龍陽丸は、同じ針路及び速力で続航し、開神丸が1海里ばかりまで接近して不安を感じたC受審人が自動吹鳴装置で霧中信号を吹鳴し、船橋左舷側に出て目視による見張りを行っていたところ、同時33分少し前左舷船首至近に同船の右舷灯を認め、直ちに右舵一杯として機関を停止したが及ばず、右回頭中、150度を向首したとき、8.0ノットの速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、開神丸は、船首部に凹損などを生じ、龍陽丸は、左舷後部に破口を生じて機関室が浸水し、のち、沈没して全損となった。また、龍陽丸機関長が頭部打撲傷等を負った。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧のため視界が著しく制限された静岡県御前埼東方沖合において、西行する開神丸が、船長による操船の指揮がとられず、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーによって反航する龍陽丸を船首方に探知したのち、小刻みに左転を繰り返したばかりか、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかったことによって発生したが、東行する龍陽丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、開神丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかったことも一因をなすものである。
 開神丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、視界が狭められる状況となった際には速やかに報告するよう指示をしなかったことと、船橋当直者が、視界が狭められる状況となった際、船長に報告しなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、単独の船橋当直を無資格の船橋当直者に委ねる場合、視界制限状態となったときに自ら操船指揮をとることができるよう、当直者に対し、視界が狭められる状況となった際には速やかに報告するよう、指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同当直者が豊富な海上経験を有していたので単独の船橋当直を任せても大丈夫と思い、視界制限状態となったときには速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、当直者から視界制限状態となったときに報告が得られず、自ら操船指揮をとることができないまま進行して龍陽丸との衝突を招き、開神丸の船首部に凹損を生じさせ、龍陽丸の左舷後部に破口を生じさせて機関室が浸水し、沈没させて全損となるに至らしめ、同船の機関長が頭部打撲傷などを負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 C受審人は、夜間、霧のため視界が著しく制限された静岡県御前埼東方沖合を東行中、レーダーにより左舷船首方に認めた開神丸と著しく接近することが避けられない状況となったことを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて停止するべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路を右に転じたので大丈夫と思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて停止することもしないまま進行して衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、単独の船橋当直に就き、静岡県御前埼東方沖合を航行中、視界が狭められる状況となった際、速やかにそのことを船長に報告をしなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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