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平成16年門審第25号
件名

押船第二十三室生丸被押起重機船第十八青竜漁船第三政栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、千手末年、寺戸和夫)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:第二十三室生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:第三政栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
第十八青竜・・・右舷船首部に擦過傷
第三政栄丸・・・左舷中央部外板に破口を生じて機関室に浸水、船底が破損して全損、船長が腰椎捻挫により2週間の通院加療を要する負傷

原因
第二十三室生押船列・・・見張り不十分、各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
第三政栄丸・・・汽笛不装備で警告信号不履行、見張り不十分、各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二十三室生丸被押起重機船第十八青竜押船列が、見張り不十分で、漁ろうに従事している第三政栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三政栄丸が、汽笛を装備せず、かつ、見張り不十分で、警告信号を行うことができず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月23日16時13分
 山口県江崎港北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 押船第二十三室生丸 起重機船第十八青竜
総トン数 19トン 949トン
全長 16.15メートル 48.0メートル
5.40メートル 16.0メートル
深さ 1.95メートル 3.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,203キロワット  
船種船名 漁船第三政栄丸  
総トン数 7.17トン  
登録長 11.63メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 90  

3 事実の経過
 第二十三室生丸(以下「室生丸」という。)は、2機2軸を備えた鋼製押船で、昭和50年11月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、作業員として同種免許証受有者1人及び機関部員経験のある無資格者1人を同乗させ、回航の目的で、船首1.0メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、船首尾とも1.2メートルの等喫水となった無人で非自航の鋼製起重機船第十八青竜(以下「青竜」という。)の船尾ノッチ部に、室生丸の船首部を5.6メートル嵌入して油圧式水平ピンで蝶番状(ちょうつがいじょう)に連結した室生丸青竜押船列(以下「室生丸押船列」という。)を構成し、平成15年6月17日04時20分青森県大湊港を発し、関門港小倉区に向かった。
 ところで、A受審人は、C社が所有する室生丸と同型船の休暇下船者の代わりに毎月平均10日間雇用されて乗船していたが、室生丸に乗船するのは初めてであった。同人は、操舵室頂部の鋼材アングル製櫓の上方に設けられた海面上の高さが約8メートルとなる操縦室から前方を見ると、青竜の船体中央船首部に配置されたクレーン操作室によって正船首左右各6度の範囲に死角が生じることを知り、同死角内に航行の支障となる他船などの存在を知るために、操縦室中央にある舵輪の左舷船首側に設置されたレーダー画面を監視するとともに、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行うこととして発航に至った。
 こうして、A受審人は、発航後、無資格の作業員に機関の点検と食事の準備とに当たらせるとともに、自らが有資格の作業員と2人で単独4時間交代の船橋当直に当たり、日本海側は船舶の数が少ないうえに陸岸から12海里離れていれば操業漁船と出会うこともないものと思って同距離を保ちながら、本州西岸をこれに沿って南下した。
 越えて6月23日15時00分A受審人は、高島灯台から342.5度(真方位、以下同じ。)10.3海里の地点で、当直交代のために昇橋して当直を引き継ぎ、針路を235度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵によって進行した。そして、定針直後、いったん降橋して機関室の点検を行うために当直を無資格の作業員に委ね、レーダーを6海里レンジのオフセンターとして船首方約9海里までの監視ができるように設定したのち、同室に向かった。
 15時30分A受審人は、高島灯台から322.5度9.8海里の地点に差し掛かり、機関室の点検を終えて再び昇橋し、同作業員から同じ針路、速力のまま当直を引き継いだとき、船首死角内の右舷船首方4.7海里のところに、第三政栄丸(以下「政栄丸」という。)がおり、同船をレーダーによって探知することができる状況であったが、日本海側は船舶の数が少ないうえに陸岸から12海里離れていれば操業漁船と出会うこともないものと思っていたことから、レーダー画面を一瞥しただけで、レーダーの船首輝線の輝度を落として正船首方の映像をよく監視するなどの死角を補う見張りを十分に行わず、政栄丸を探知できないまま、操縦室の舵輪の右舷側に立った姿勢で続航した。
 16時04分A受審人は、高島灯台から300.5度10.8海里の地点に達し、政栄丸が右舷船首4度1.0海里のところに接近したとき、同船が掲げた黒色鼓型形象物を視認でき、ゆっくりとした動きで漁ろうに従事していることが分かり、その後衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、依然、操業漁船と出会うことはないものと思い、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うことなく、政栄丸に気付かず、同船の進路を避けないまま、同じ針路、速力で進行した。
 16時13分わずか前A受審人は、青竜のクレーン操作室の死角から左舷側に現れた政栄丸の白い船体を初めて認め、急いで自動操舵の針路設定ダイヤルを右一杯に回すとともに、機関を全速力後進にかけたが間に合わず、16時13分高島灯台から296度11.3海里の地点において、室生丸押船列は、原針路、原速力のまま、青竜の右舷船首部が、政栄丸の左舷中央部に後方から55度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
 また、政栄丸は、専ら山口県田万川町沖合において延縄漁業に従事する、全長が12メートルを超えるFRP製漁船で、汽笛を装備せず、昭和50年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、アマダイを漁獲対象とする底延縄漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年6月23日03時00分山口県江崎港を発し、法定灯火を表示して同港北方沖合約15海里の漁場に向かい、05時00分同漁場に到着していったん漂泊し、同時30分から操業を始めた。
 ところで、政栄丸は、平素、漁場到着後、操舵室前のマストに甲板上高さ約4メートルとなるように黒色鼓型形象物を掲げて漁ろうに従事している船舶であることを示し、日出時刻から30分間経過するのを待って1回目の操業を始め、同じ漁場で1日に2回操業を行っていた。同船の底延縄漁具(以下「漁具」という。)は、長さ1,000メートルの幹縄に、釣針付きの長さ2.5メートルの枝縄80本及び同縄5本ごとに重さ0.75キログラムの錘付きの錘縄を等間隔で取り付けたもので、これを1タライと称していた。また、操業時には、下端に3キログラムの錘及び上端に海面上約3メートルの高さとなるボンデンをそれぞれ取り付けた瀬縄を、5タライ連結した漁具の両端に接続してその存在を示しており、同船から1海里の距離でこれを認めることができた。
 B受審人は、投縄時には、操舵室で機関を回転数毎分600として極微速力前進にかけ、船尾端に後ろ向きに立って投縄を終えたのち、機関を中立運転として約15分間待ち、投縄終了地点から始める揚縄時には、操舵室で機関を同回転数として右舷船首部に設置した揚縄機の船尾側に移動し、船首向きに立ってコントローラー式遠隔操舵器(以下「遠隔操舵器」という。)による手動操舵に当たり、同機の横に設置した遠隔操縦用クラッチによって機関を中立と極微速力前進とに適宜切り換え、1タライ当たり40分間ないし50分間を要するゆっくりとした速力で揚縄を行っていた。また、同人は、揚縄時に揚縄機の船尾側に位置すると、左舷船尾方が操舵室の陰になって死角になることから、1タライ揚げ終わって漁具を左舷側甲板上に整理する際に周囲を見回し、通航船や出漁漁船を認めれば、注意してその動静を監視しながら、操業に当たっていた。
 こうして、B受審人は、14時00分高島灯台から301.5度11.9海里の地点で、当日2回目の揚縄を始め、針路を180度に定め、機関を中立と極微速力前進とに適宜切り換えながら、0.6ノットの速力で、揚縄機の船尾側に置いた発泡スチロール製の魚箱の上に船首方を向いて腰を掛け、操舵室が左舷船尾方の死角を生じさせた状態で、遠隔操舵器による手動操舵によって進行した。15時30分B受審人は、高島灯台から297.5度11.5海里の地点に差し掛かったとき、左舷船尾方4.7海里のところに、室生丸押船列がいたが、2タライ目の漁具整理に合わせて周囲を見回したものの、遠くて肉眼では同押船列を認めることができないまま、同じ姿勢で揚縄を続けながら続航した。
 16時04分B受審人は、高島灯台から296度11.3海里の地点に達したとき、左舷船尾59度1.0海里のところに、西行中の室生丸押船列を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、2タライが揚がって漁具整理を行う際に周囲を一瞥して他船を認めなかったこともあり、また、航行中の船舶が接近しても前示形象物やボンデンに気付いて避けてくれるものと思い、魚箱から立ち上がって見回すなどして周囲の見張りを十分に行うことなく、引き続き船首方を向いて揚縄を続け、操舵室による死角内にいた室生丸押船列に気付かず、汽笛不装備で警告信号を行うことができず、間近に接近した際に、機関を使用して前方に大幅に移動するなど同押船列との衝突を避けるための協力動作をとらないまま、同じ針路、速力で進行した。
 16時13分わずか前B受審人は、室生丸押船列の機関音に気付いてふと左舷側を見たところ、間近に覆い被さるように接近した青竜のクレーンを初めて認め、急いで機関を前進にかけたが間に合わず、政栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、室生丸押船列は、政栄丸を転覆させて乗り切ったが、青竜の右舷船首部に擦過傷を生じただけで修理は行われず、政栄丸は、左舷中央部外板に破口を生じて機関室が浸水し、同押船列に横抱き状態とされたのち、翌日僚船によって江崎港に引き付けられたが、船底が破損して全損となり、のち廃船処理された。また、B受審人は衝突時の転覆により海中に投げ出され、同押船列によって救助されたが、腰椎捻挫により2週間の通院加療を要する傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、山口県江崎港北方沖合において、西行する室生丸押船列が、船首死角を補う見張りが不十分で、前路で底延縄により漁ろうに従事している政栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、政栄丸が、汽笛を装備せず、かつ、見張り不十分で、警告信号を行うことができず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、山口県江崎港北方沖合において、青竜の船尾に室生丸の船首部を嵌合した室生丸押船列を構成して西行する場合、青竜のクレーン操作室によって船首死角が生じることを知っていたのであるから、前路で漁ろうに従事している他船を見落とすことのないよう、レーダーの船首輝線の輝度を落として正船首方の映像をよく監視するなり、船首を左右に振るなりして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、日本海側は船舶の数が少ないうえに陸岸から12海里離れていれば操業漁船と出会うこともないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で底延縄により漁ろうに従事している政栄丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、青竜の右舷船首部に擦過傷を、政栄丸の左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じさせ、B受審人に2週間の通院加療を要する腰椎捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、山口県江崎港北方沖合において、底延縄の揚縄作業を行う場合、右舷船首部に設置した揚縄機の船尾側に位置すると、左舷船尾方が操舵室の陰になって死角になることを知っていたのであるから、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、航行中の船舶が接近しても、操舵室前のマストに掲げた黒色鼓型形象物や漁具に接続した少なくとも1海里の距離から視認できるボンデンに気付いて避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁具整理を行う際に周囲を一瞥しただけで、その後船首方を向いて揚縄作業を続け、衝突のおそれがある態勢で接近する室生丸押船列に気付かず、機関を使用して前方に大幅に移動するなど同押船列との衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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