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平成16年門審第27号
件名

漁船第五曙丸漁船基秀丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年、清重隆彦、上田英夫)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:第五曙丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:基秀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
第五曙丸・・・バルバスバウに亀裂及び船首部外板に擦過傷
基秀丸・・・右舷中央部外板に破口を生じて機関室及び船室に浸水、操舵室を含むハウス周りが倒壊

原因
基秀丸・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第五曙丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、基秀丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第五曙丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第五曙丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月12日06時40分
 対馬南部神埼南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五曙丸 漁船基秀丸
総トン数 17トン 4.4トン
全長 19.40メートル  
登録長   11.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 161キロワット

3 事実の経過
 第五曙丸(以下「曙丸」という。)は、操舵室を船体中央後部に設けたFRP製漁船で、昭和50年8月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み、平成16年1月11日14時30分厳原港を発航し、対馬南方沖合の漁場に至り、夜間のいか一本釣り漁に従事していか20箱ばかりを漁獲し、水揚げの目的で、船首0.8メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、翌12日05時00分神埼灯台から193度(真方位、以下同じ。)17.9海里の地点を発し、帰途に就いた。
 発進時にA受審人は、法定の灯火を表示し、針路を025度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵によって進行した。
 ところで、曙丸は、甲板上の両舷側にいかの自動釣機を適宜間隔をおいて設置しており、航行時には同釣機に付設されたいか受けネット(以下「ネット」という。)を舷側から内舷側に立て掛けて格納していたことから、操舵室床に立った姿勢で前方を見たとき、前部甲板の両舷側にあるネットにより、斜め前方の見通しがそれぞれ妨げられる状況であった。
 06時25分A受審人は、神埼灯台から157度4.8海里の地点に達したころ、南下する漁船群と出会うようになったので、操舵を遠隔の手動操舵に切り換え、舵輪後方に置かれた立ち台(以下「踏台」という。)の上に立ち、天窓から顔を出して斜め前方の見通しの悪さを補って見張りに当たったものの、同漁船群が無難に航過したことから、安心して踏台後方にある台に腰掛けた姿勢で続航した。
 06時35分少し過ぎA受審人は、神埼灯台から137度3.85海里の地点に達したとき、左舷船首16度1.1海里のところに前路を右方に横切る態勢の基秀丸の白、緑2灯を視認でき、その後その方位が変わらず互いに接近し、衝突のおそれがあった。しかし、同受審人は、漁船群が航過したことから、前方には危険な状況となる漁船などはいないものと思い、踏台後方にある台に腰掛けたまま、天窓から顔を出すなどして見張りを十分に行わなかったので、ネットの陰になっていた基秀丸に気付かず、警告信号を行わないで進行した。
 06時39分少し前A受審人は、基秀丸を同方位500メートルに視認し得る状況になり、同船がその後も避航の様子を見せないまま接近していたが、依然見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま、同じ針路及び速力のまま続航中、同時40分わずか前、前方至近に最前部のネットの陰から現れた基秀丸を初めて認め、急いで機関のクラッチを後進に操作したが、及ばず、06時40分神埼灯台から126度3.65海里の地点において、曙丸は、原針路、原速力のまま、その船首が基秀丸の右舷中央部に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、視界は良好で、日出時刻は07時29分ごろで、薄明時間は1時間28分であった。
 また、基秀丸は、全長約13メートルの、操舵室を船体中央部に設けたFRP製漁船で、平成15年8月交付の一級小型船舶操縦士・特殊船舶操縦士免許証を有するB受審人が単独で乗り組み、よこわ(くろまぐろの幼魚)の曳縄釣漁(ひきなわつりりょう)を行う目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、法定灯火を表示し、同月12日06時00分厳原港を発し、神埼南東方沖合の漁場に向かった。
 ところで、基秀丸の曳縄釣漁は、船体中央部付近の両舷側から正横方向に振り出した竿に各々2本の、船尾端のブルワーク上に等間隔で3本の曳縄をそれぞれ取り付けて流し、縄の先に取り付けた潜航板と擬餌針からなる仕掛けを低速で曳きながら、よこわの食いつきを待つもので、日出前の数十分が好漁の時間帯で、このときの漁次第でその日の釣果がほぼ決まることが多かった。
 06時18分B受審人は、竜ノ埼沖合の、神埼灯台から064度5.0海里の地点で、針路を204度に定め、機関を引き続き半速力前進にかけ、15.0ノットの速力で進行した。
 06時35分B受審人は、漁を開始することとし、針路を160度に転じて自動操舵とし、機関の回転を下げて5.5ノットの速力に減じ、船尾甲板に赴いて船尾端の曳縄から投入を開始した。
 06時35分少し過ぎB受審人は、右舷船首29度1.1海里のところに前路を左方に横切る態勢の曙丸の白、紅2灯を視認でき、その後その方位が変わらず互いに接近し、衝突のおそれがあった。しかし、同受審人は、曳縄を早く流そうと気が焦って船尾方を向いたまま投入作業に熱中し、身体を左右に移動させて周囲を見るなど、見張りを十分に行わなかったので、曙丸の存在もこれが衝突のおそれのある態勢で接近することにも気付かず、同船の進路を避けなかった。
 06時39分少し前B受審人は、曙丸を同方位500メートルに視認し得る状況となり、衝突のおそれのある態勢のまま接近していたが、依然見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同じ針路及び速力のまま続航中、同時40分少し前船尾端の曳縄2本を流し終えて周囲を確認するつもりで操舵室に戻ったとき、右舷前方至近に曙丸を初めて認め、急ぎ左舵一杯をとったが、及ばず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、曙丸はバルバスバウに亀裂及び船首部外板に擦過傷を生じ、基秀丸は右舷中央部外板に破口を生じて機関室及び船室が浸水したほか、操舵室を含むハウス周りが倒壊した。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、対馬南部神埼の南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、曳縄釣漁の曳縄を流して南下する基秀丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る曙丸の進路を避けなかったことによって発生したが、曙丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、対馬南部神埼の南東方沖合において、曳縄釣漁の一部の曳縄を流して低速力で南下する場合、前路に接近する他船を見落とさないよう、身体を左右に移動させて周囲を見るなど、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、曳縄を早く流そうと気が焦って船尾方を向いたまま投入作業に熱中し、身体を左右に移動させて周囲を見るなど、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する曙丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、曙丸にバルバスバウの亀裂及び船首部外板の擦過傷を、基秀丸に右舷中央部外板の破口及び操舵室を含むハウス周りの倒壊を生じさせ、同船の機関室及び船室が浸水するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、対馬南部神埼の南東方沖合において、漁場から帰港の目的で北上する場合、航行時には両舷側のネットを内舷側にそれぞれ立て掛けて格納しており、これによって両舷側斜め前方の見通しが妨げられていたから、前路に接近する他船を見落とさないよう、踏台の上に立って顔を天窓から出して見張りをするなど、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一団の漁船群が航過していたことから、前方には危険な状況となる漁船などはいないものと思い、踏台後方にある台に腰掛けたまま、天窓から顔を出すなどして周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する基秀丸に気付かず、同船に対して警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示のとおり、両船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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