(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月16日06時50分
大分港日吉原泊地北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三大祐丸 |
漁船保福丸 |
総トン数 |
198トン |
1.58トン |
全長 |
56.50メートル |
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登録長 |
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6.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
515キロワット |
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漁船法馬力数 |
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25 |
3 事実の経過
第三大祐丸(以下「大祐丸」という。)は、主としてセメント原料の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉で、船首0.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成15年9月16日04時00分大分県佐伯港を発し、大分港鶴崎泊地に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、豊後水道を北上して関埼、平瀬間の水路に向かい、06時08分少し前関埼灯台から016度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点で、針路を276度とし、機関をほぼ全速力前進に掛け、10.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
06時30分A受審人は、前方の漁船群を替わすため、右舵を取って沖出ししたのち、同時37分大分港日吉原泊地北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から053度2.4海里の地点で、針路を272度に定め、入港時間調整のために機関の回転数を減じ、9.0ノットの速力で自動操舵とし、舵輪後方のいすに腰掛けた姿勢で見張りに当たって続航した。
06時42分半A受審人は、北防波堤灯台から037度1.8海里の地点に達したとき、正船首わずか右方1.1海里のところに保福丸を視認でき、その後同船の操舵室上のマストに鼓型形象物を認め得る状況となり、同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが、漁船群を替わしたので前路に漁船などはいないものと思い、左舷方の検疫錨地にいた錨泊船に気を取られ、見張りを十分に行わなかったので、保福丸が存在することもこれに向かって衝突のおそれがある態勢で接近することにも気付かず、漁ろうに従事中の同船の進路を避けないまま進行した。
06時48分A受審人は、保福丸をほぼ正船首570メートルに視認し得るようになり、更に同船に向かったまま接近し衝突のおそれがあったが、依然、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず続航中、06時50分北防波堤灯台から357度1.5海里の地点において、大祐丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が保福丸の左舷船尾端に後方から2度の角度で衝突した。
当時、天候は晴れで風はほとんどなく、視界は良好で、日出時刻は05時56分ごろであった。
A受審人は、自船が保福丸と衝突したことに気付かないまま航行を続け、鶴崎泊地に入港後海上保安部から連絡を受け、初めて衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、保福丸は、船尾部に操舵室を設けた沖建て網漁業に従事するFRP製漁船で、昭和51年4月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許を取得したB受審人が単独で乗り組み、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、9月16日04時00分大分県大分漁港を発し、04時50分前示衝突地点付近の少し西方に至り、090度方向に投網を開始して05時05分これを終えて、設置した網の東側で漂泊待機した。
ところで、保福丸の沖建て網は、沈子綱に1メートル当たり80グラムの鉛の重りを付けた全長約1,200メートルの底刺網で、網本体の両端に、海面側にぼんでんを海底側に2.5キログラムの重りを付けた浮きロープを取り付け、網を海底に固定するようになっていて、揚網するときは、網を船首端中央部にあるU字型のガイドを介してネットローラに取り、B受審人が操舵室直ぐ前の甲板にある網倉庫に立って網を引き寄せ、同ローラの回転速力に合わせた速力で揚網しながら収納し、魚が掛かっていれば同ローラを停止して魚を外していたので、速力が0.6ノットを超えることはなく、揚網所要時間は漁の少ないときで1時間30分、多いときで2時間30分ばかり掛かっていた。
06時00分B受審人は北防波堤灯台から008度1.5海里の地点で、揚網することとし、操舵室前部壁付きのマストに漁ろうに従事していることを示す鼓型形象物を掲げ、東側のぼんでんの取り込みを開始し、同時10分ごろ網本体の揚収にかかり、針路を270度に定め、網が緊張しないよう機関を適宜使用し、速力をネットローラの回転速力に合わせた約0.4ノット強の平均速力とし、遠隔操縦による手動操舵によって進行した。
06時42分半B受審人は北防波堤灯台から359度1.5海里の地点で、前示のように網倉庫に立って揚網及び収納に当たっていたとき、正船尾わずか左方1.1海里のところに、来航する大祐丸を視認でき、その後同船が自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが、平素この時間帯に入港する船舶を見かけなかったことから、後方から接近する他船はいないものと思い、揚網作業に熱中し、時折身体を左右に移動して後方を見張るなど、操舵室によって生じていた後方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、大祐丸の存在も、同船が衝突のおそれのある態勢で接近することにも気付かず、同船に対して有効な音響による避航を促す信号を行わなかった。
06時48分B受審人は、大祐丸を同方位570メートルに視認し得るようになり、同船が避航の様子なく更に接近し、衝突のおそれがあったが、依然後方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、前示音響信号を行わないまま揚収作業を続け、同時50分わずか前、網に掛かった魚を外しながらふと左方を見たとき、大祐丸の船首部を左舷側至近に初めて認め、あわてて機関のクラッチを後進に操作したが、及ばず、保福丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大祐丸は右舷船首部外板に擦過傷を、保福丸は左舷船尾端及び同船首部ブルワークに損傷を生じたが、のち修理され、B受審人が腰椎捻挫で30日間の通院加療を要する傷を負った。
(原因)
本件衝突は、別府湾東部の大分港日吉原泊地沖合において、同港鶴崎泊地に向けて西行中の第三大祐丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事する保福丸の進路を避けなかったことによって発生したが、保福丸が、見張り不十分で、有効な音響による避航を促す信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、別府湾東部の大分港日吉原泊地沖合において、同港鶴崎泊地に向けて西行する場合、別府湾は小型漁船などが多く操業する海域であったから、前路に存在する小型漁船などを見落とさないよう、操舵室内を左右に移動するなどして前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁船群を替わしたので前路に小型漁船などはいないものと思い、左舷方の検疫錨地にいた錨泊船に気を取られ、いすから立ち上がり左右に移動するなどして前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漁ろうに従事している保福丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、大祐丸の右舷船首部外板に擦過傷を、保福丸の左舷船尾端及び同船首部ブルワークに損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に腰椎捻挫で30日間の通院加療を要する傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、別府湾東部の大分港日吉原泊地沖合において、西向きにゆっくり進行しながら沖建て網の揚収作業を行なって漁ろうに従事する場合、操舵室前の甲板で同作業に当たっていて後方に死角が生じていたから、後方から接近する他船を見落とさないよう、時折身体を左右に移動して後方を見張るなど、後方死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素この時間帯に入港する船舶を見かけなかったことから、後方から接近する他船はいないものと思い、同作業に熱中し、身体を左右に移動して後方を見張るなど、後方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する大祐丸に気付かず、同船に対して有効な音響による避航を促す信号を行わないまま同作業を続けて同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。