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平成16年広審第30号
件名

漁船瑞功丸プレジャーボート山内丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年6月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:瑞功丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:山内丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
瑞功丸・・・損傷ない
山内丸・・・左舷船尾部外板を圧壊して浸水し、のち廃船処理、同乗者が左肩腱板炎の負傷

原因
瑞功丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
山内丸・・・避航を促す音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、瑞功丸が、見張り不十分で、錨泊中の山内丸を避けなかったことによって発生したが、山内丸が、避航を促す有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月29日18時45分
 鳥取県長尾鼻西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船瑞功丸 プレジャーボート山内丸
総トン数 4.94トン  
全長 15.10メートル  
登録長   3.84メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 161キロワット 7キロワット

3 事実の経過
 瑞功丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和51年5月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年7月29日18時30分鳥取県泊漁港を発し、同県酒津漁港北方沖合約500メートルの漁場に向かった。
 A受審人は、操舵室後方に置いた踏み台の上に立って同室上から顔を出し、同室後壁右舷寄りに備えた舵輪を握って操船にあたり、18時41分長尾鼻灯台から258度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、針路を075度に定め、機関を全速力前進から少し落とした回転数毎分2,200にかけて13.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 18時44分少し前A受審人は、鳥取県長和瀬漁港北方沖合の、長尾鼻灯台から259度1.9海里の地点に差し掛かったとき、正船首500メートルのところに山内丸を視認でき、同船が錨泊中の船舶の形象物を表示していなかったものの、船首から前方に伸びた錨索の状態や北東方に向首したまま動かないことから、同船が錨泊中であることがわかり、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、そのころ右舷船首方に認めた北上中の船外機付き小型船の動静に気を奪われ、見張りを十分に行っていなかったので山内丸の存在に気付かず、同船を避けることなく、小型船を注視して続航した。
 A受審人は、前示小型船が左転して自船の船尾方を替わったので船首方に視線を移したところ、18時45分わずか前至近に山内丸を認め、急いで機関を全速力後進にかけたが効なく、18時45分長尾鼻灯台から260度1.6海里の地点において、瑞功丸は、原針路原速力のまま、その船首が、山内丸の左舷船尾部に後方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好で、付近には弱い南西流があった。
 また、山内丸は、船外機を取り付けた無蓋のFRP製プレジャーボートで、B受審人(平成10年8月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、あじ釣りの目的で、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同日17時15分鳥取県気高郡青谷町勝部川河口の係留地を発し、長和瀬漁港北方沖合1,000メートルの釣り場に向かった。
 17時30分B受審人は、前示衝突地点付近に至り、錨として船首から重さ3キログラムのコンクリート製ブロックを水深25メートルの海底に投じ、同ブロックに縛り付けた直径14ミリメートルの合成繊維製索を40メートル延出して船首部のかんぬきに係止し、錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示しないまま、船外機を停止して錨泊を開始した。
 B受審人は、折からの弱い南西流に船首を立てた状態で、船外機左舷側の燃料タンクを入れた物入れの蓋に船首方を向いて腰を掛け同舷船首方に釣り竿1本を、同乗者が右舷前部の甲板に同舷正横方を向いて腰を下ろし同方に釣り竿1本をそれぞれ出し、いずれも救命胴衣を着けないまま、時々周囲の見張りを行いながら釣りを行っていたところ、18時44分少し前船首が045度を向いていたとき、左舷船尾30度500メートルのところに自船に向首し船首に白波を立てて進行する瑞功丸を認め、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、避航を促す有効な音響による信号を行うことなく錨泊を続けた。
 B受審人は、瑞功丸が避航の気配を見せないでさらに接近したが、いずれ同船が錨泊中の山内丸に気付いて避けるものと思い、直ちに錨索を解き、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく、18時45分少し前衝突の危険を感じ、機関を始動しようとしたもののかからず、同乗者とともに海中に飛び込んだ直後、山内丸は、045度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、瑞功丸は、損傷がなく、山内丸は、左舷船尾部外板を圧壊して浸水し、瑞功丸によって長和瀬漁港に引き付けられたが、のち廃船処理された。また、B受審人及び同乗者は瑞功丸に救助されたが、同乗者が左肩腱板炎を負った。 

(原因)
 本件衝突は、鳥取県長尾鼻西方沖合において、漁場に向けて東行中の瑞功丸が、見張り不十分で、前路で所定の形象物を表示しないで錨泊中の山内丸を避けなかったことによって発生したが、山内丸が、避航を促す有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、鳥取県長尾鼻西方沖合において、漁場に向けて東行する場合、前路の他船を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷船首方に認めた北上中の小型船の動静に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で所定の形象物を表示しないで錨泊中の山内丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、山内丸の左舷船尾部外板に圧壊を生じさせ、同船の同乗者1人に左肩腱板炎を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、鳥取県長尾鼻西方沖合において、所定の形象物を表示しないまま、釣りのため錨泊中、左舷船尾方に自船に向首して接近する瑞功丸を認め、同船が避航の気配を見せないでさらに接近した場合、直ちに錨索を解き、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれ瑞功丸が錨泊中の山内丸に気付いて避けるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、瑞功丸との衝突を招き、前示の損傷及び負傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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